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09 天使様のお掃除大作戦



 周が苦手とするのは家事全般であるが、最も苦手なのは掃除だ。


 料理は、怪我を負う事前提に見た目と美味しさは度外視するならば、出来なくはない。


 加熱して胃に収まればいいだろ、という考えの下非常に見かけが悪く味も残念なものであれば、全く作れないという訳ではないのだ。

 もちろん食べたいとも作りたいとも思わないので作らないが。


 洗濯はそもそも出来なければ生活に困るので問題はない。

 いざとなったらコインランドリーという手段もあるし、普通に洗濯機に入れて洗剤と水と共に回すだけなので問題なくこなしている。


 ただ、掃除だけは周にはどうしようもなかった。


「どうしようか」


 休日、真昼にも樹にも片付けろと言われ続け、ようやく重い腰を上げた周だったが、どこから手をつけてよいものか途方にくれていた。


 自分が悪いとは分かっているのだが、取り敢えず物が溢れていてどう片付ければいいか手順が思い付かない。


 取り敢えずシーツは洗って布団は干した。

 ここからどう掃除したらよいのか。

 服やら雑誌やらが散らばっているので、割と足の踏み場がない。


 不幸中の幸いで、食品関連のごみは流石に匂ったりするのですぐに捨てるため、異臭がしたり油汚れ等がひどいといった事はない。ただひたすらに散らかっているだけである。

 その散らかりがひどいから困っているのだが。


 そっとため息をついた時、玄関のチャイムが鳴った。


 あ、と声がこぼれる。


 もう慣れた来訪者、というよりは渡すだけ渡して帰っていく天からの恵みであり配達人のような存在だが、今この時は救世主のように思えた。


 足早に玄関に向かおうとして、足場のなさにスッ転びそうになって壁に手をつきつつ、ドアを開ける。


「すみません、ちょっと先にタッパー回収し……なにやってるんですか」

「……掃除しようとしてた」


 体勢を崩しつつ真昼に顔を見せれば、微妙に呆れたような眼差しを向けられた。


「今すごい音したような」

「……転びかけた」

「でしょうね。掃除、始まってすらないですよね?」

「途方にくれてた」

「でしょうね」


 これだけひどければそうもなります、と相変わらずの忌憚ない意見に周も頬をひきつらせるが、否定のしようがない。

 それに、ここでふて腐れたりして彼女を突き返せば、掃除の取りかかりの相談すら出来なくなる。


 しかしながら、どう聞いたらいいだろうか。


 掃除のコツとかを聞くつもりではあったが、そもそもアドバイスをくれるだろうか……とややためらいつつ真昼を見たら、真昼は周の背後、散らかった廊下を見ている。

 後ろの惨状にうわぁ、と眼差しが語っているので、真昼からしてみれば余程ひどいのだろう。


「全く。……部屋、掃除させてください」

「は?」


 周としては、手伝ってほしいとかそういった願いは厚かまし過ぎるので何か助言をもらうつもりだった、のだが。

 まさか、真昼が直々に手伝うなんて申し出るとは思わなかった。


「隣が汚部屋だと思うと嫌です」


 別に彼女の言動がやや辛辣なのは最早いつもの事なので怒りはしないし、そもそも事実しか言わないので反論のしようがなかった。


「家事が出来ないのに一人暮らしとか舐めてるのですか。時が経てば慣れてくるだろうという楽観視が見てとれます。結果的に出来てないのですから少しは反省したらどうですか」


 ぐうの音も出ない。

 母親にもこまめにしておけば楽だからね、と言われて放置した結果がこれである。完全に自業自得だとは自覚していた。


「大体ですね、普段からこまめに掃除していればこんな事にはならないのに。日頃の怠慢ですよ、もう」

「……仰る通りです」


 ここまで言われて怒りもしないのは、そもそも真昼には非常に世話になっていて頭が上がらない上に、的確に周の心情と過去の行動を当ててきたからだ。


 何とかなるだろう、とたかをくくってこうなったのだから、最早周には彼女の言葉に粛々と頷くしかないのだ。


「掃除していいですか、この部屋」

「……お願いしてもいいですか」

「私が持ちかけてるんですから当たり前でしょう。あと、私は準備してきますから、その間に隠したいものや貴重品は納戸に持っていって鍵かけてください」

「そこは心配してない」


 なにが悲しくて、言葉は鋭いものの親切心で手伝ってくれる人間に盗難の心配をしなくてはならないのか。

 そもそも、これだけ常識的で世話焼きの真昼が他人に危害を加えるなんてまずないだろう。


「……あなたは心配してないんですか?」

「お前がそういう事するなんてまずないだろ」

「いやそうじゃなくて……ですから、男性的に隠しておきたいものが見られる心配はしてないので?」

「生憎とそんなものは持ち合わせていないな」

「まあ、それならいいのですが。じゃあ、着替えて掃除道具持ってきますので。……徹底的にしますからね、掃除」


 肩を竦めて一度自宅に戻っていった真昼に、周は苦笑してその背中を見守った。

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