88 帰宅後のおはなし
「何かごめんな」
門脇と別れてしばしゲームセンターで遊んでから帰宅した周は、ソファに座って一息ついた真昼に謝る。
髪をほどいて整えていた真昼は、周の言葉にきょとんと目を丸くしていた。
「急にどうしたのですか」
「いや……門脇にバレた事」
「あれは不可抗力でしょう。それに、結果オーライだったと思いますよ。一応ご理解いただけたみたいですし……」
そう言われればそうなのだが、それでも付き合っているのではないか、という疑いを向けられたのは煩わしかったのではないだろうか。
幸いにして門脇は納得したのか比較的あっさりと引き下がってくれはしたものの、真昼が強く否定していた事がやはり胸に引っかかってしまう。
「それに、絶対バレないって思って出掛けていた訳ではないですよ。こういう事態も考慮してましたし、門脇さん相手でよかったなって思ってます」
「そうだな。門脇は何だかんだよく理解してくれたし気遣い見せてくれたからな。ほんと、いいやつだ」
バレたのが門脇でよかった。
後で追及されるのは覚悟しているが、学校で門脇に隠し続ける罪悪感がなくなるのだと思えばむしろ露見して正解だったのかもしれない。
彼には真昼への周の想いまでもバレたような気はするものの、真昼本人に伝わらなければ問題ないだろう。
カラオケで多少からかわれはするかもしれないが、門脇と樹はその辺りわきまえているのでひどくからかわれたりはしない筈だ。
「……周くんって、かなり門脇さんへの評価高いですよね」
「ん? ああ、まあな。話す機会とか増えてきて、やっぱあいついいやつでモテるのも頷けるよなあって。顔も中身もイケメンってすげえや」
「信頼してるんですね」
「そりゃな。していいやつだと思うぞ」
周は自覚しているが、割と付き合う相手を選ぶタイプだ。
人柄が好ましくなければ近寄ろうとは思わないし、接近を許さない。どうしても他人は警戒してしまう癖がついているのだが、門脇はそのセンサーが働かなかった。
いいやつだと何となく本能で感じていたからこそこうしてバレてもそう焦りはなかったし、正解だった。
「じゃあ、類は友を呼ぶって事ですよ」
「俺のどこが類なのか分からんが……」
「また周くんは卑下する……門脇さんは、周くんの人柄を好きになったから仲良くなろうとしたのでしょう? 周くんが門脇さんへ思った事と同じじゃないですか。周くんが信頼してもいいと思う門脇さんが、周くんの事を認めてるのですから、周くんも自信を持つべきです」
きっぱりと言い切って周の頬をべしべしと指先で軽く小突く真昼に、周はそっと苦笑する。
やはり真昼には敵わないというか、自己否定した側からきっちり肯定する彼女の存在が、ありがたかった。
ちゃんと自信を持ちなさいとお説教モードに入ってる真昼に肩を震わせて小さく笑い、周は真昼に感謝した。
「真昼は、俺の事いつも褒めてくれるよなあ」
「正当な称賛です。周くんが自己否定ばかりしてるのが悪いです」
「癖でなあ」
「何でそんな癖がついてるんですか、もう」
呆れたように真昼が呟く。
何故、と言われると、答えに困る。
一応、どうしてこうなったのか、というのは原因は分かっているし自覚もしているが、理屈的に分かっていてもどうしようもないものがあった。
あれは中々に苦い思い出だった。
だった、で済ませられるくらいには周の中で飲み込めているのだが、尾を引いているという事なのだろう。
悪い癖だと思いつつも直しきれていないので、今度からは真昼に言われる前に気を付けなければならない。多分、そう簡単には直らないが。
「まあ、気を付けるよ。……なあ真昼」
「はい?」
「……ありがとな」
否定を否定してくれる人に出会えた事は、周にとって最大の幸福だろう。
素直に思った事を口にしただけなのに、真昼は訝るような眼差しを向けて……それから、周の肩にもたれた。
「……周くんは、本当に」
「本当に?」
「何でもないです」
ばか、とぐりぐり額を押し付けられたので、周は首を傾げながらも真昼の好きにさせた。