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83 天使様、すねる?

「……あ」


 ラテアートの施されたカフェラテを飲み終えた辺りで、一匹の猫が周の膝の上に飛び乗ってきた。


 先程隣の席に居たアメリカンショートヘアの猫だ。

 プロフィール表を見ると『カカオ♀』と書いてある。


 人懐っこいのか図太いのかよく分からないが、いきなり膝の上に来たので周としては困惑していた。

 気ままなのは百も承知だが、急に近寄ってこられると微妙に落ち着かない。


 膝の上にあるぬくもりは思ったよりもずっしりとしていて、まるでここは私の場所だと言わんばかりに堂々と丸まっている。


「人懐っこいんだなこの子」


 手の匂いを嗅がせながら真昼の方を見ると羨ましそうにしている。


 嗅ぎ終えたカカオが周の掌に顔を擦り寄せたので、撫でてほしいとせがまれているのかと真昼で練習したように顎の下を擽るように撫でてやった。

 ごろごろと喉を鳴らしているのが、振動と音で分かる。


 可愛いなあとほっこりしながらわしゃわしゃと撫でているのだが、隣の真昼からの羨ましそうな視線が気になってつい笑ってしまった。


「真昼、手」

「え? は、はい」


 素直に手を差し出して来たので、周は一度カカオから手を離して、代わりに真昼の掌をカカオの顔の辺りまで持っていく。

 おそらくこの猫は人懐っこいしかなり人慣れしているので、ちゃんと挨拶をすれば触らせてくれるだろう。


 すんすんと真昼の手の匂いを嗅いだカカオが「なぁーん」と何とも気の抜けた鳴き声を上げて真昼の掌に顔を擦り付けたので、真昼が感極まったように瞳を輝かせていた。


「周くん、撫でさせてくれました」


 上機嫌の真昼に笑いつつ周も毛づやを整えるように撫でておく。


 手入れが行き届いているのか、毛並みはふわふわつるつる。嫌な臭いもせず猫特有の匂いがほんのりとする程度で、店員達にも大切に愛されてるんだなあとつくづく思う。


 どの猫も毛づやも顔色もよいし極端に体型が太っていたり痩せていたりする子も居ない。体調と体型の管理をされた猫達はどの子も自由そうに歩いていた。


「……可愛いなあ」

「ほんとにそうですね。……周くんが羨ましいです……」

「カカオに頼んでみたらどうだ。膝に来てくれって」


 言葉はまず通じないだろうが、ジェスチャーは案外通じるらしい。

 真昼が試しにと膝をぽんぽん叩いて「おいでー」と呼んでみると、カカオが一鳴きして真昼の膝にのそりと移動した。


 その時の真昼が浮かべた感動の表情は、見ているこちらも嬉しくなるほどに喜びに満ちていた。


「見てください、乗ってくれましたっ」

「よかったな。ほら撫でて欲しがってるぞ」


 周の硬い膝より真昼の柔らかい膝の方がお好みなのか、先程より高い声を上げて真昼の掌に自ら顔を寄せている。

 満面の笑顔で存分にもふり出した真昼に周は苦笑しつつスマホでその姿をおさめておいた。


「これならセーフか?」

「……セーフにしておきます」


 そう言ってカカオを撫でた真昼に笑い、周は一度席を立つ。


 壁際に本棚があって雑誌や漫画が置かれているので、幾つか席に持っていこうという魂胆だ。

 猫カフェといっても常に猫と戯れている訳ではないだろうし、猫の居る空間でゆったりと過ごすという事が目的なのでこうやって寛ぐのもありだろう。


 真昼がカカオに夢中になっている間に本棚から適当に本を見繕っていたら、足元に最初に真昼が挨拶したシルクが居た事に気付いた。


 しゃがんで人差し指を鼻に近付けてみると、やはり挨拶としてくんくん匂いを嗅いでくる。

 この仕草も可愛いのでついつい頬が緩んで眺めていたら、嗅ぎ終わった後前足を浮かせてこちらの腕に飛びかかるようにもたれた。


 みゃおんとカカオとはまた違う高い鳴き声を上げて接触してくるので、周は床にあぐらをかく。


 高貴な雰囲気ではあるがやはり人慣れはしているらしく、おさわりを許してもらったので撫でてみたらご満悦の表情を浮かべている。

 喉を鳴らしてすり寄ってくるので、これはもっともふれという合図だという事なのだろう。シルク様のお望みのままに優しく丁寧に指で撫でさすった。


 樹の家には猫が居るので、触り方自体は心得ている。

 どう触れば猫が気持ちよくなるか、甘えてくれるか、理解した上で反応を見て手つきを変えていく。


(可愛いなあ)


 ごろごろと喉が鳴っているのを感じて、ふわりと口許が弧を描いた。

 最初はどこかツンとすましたような態度だったので、許してもらうとこうも甘えてくるとは思ってもいなかった。


(何かに似てるなあと思えば、真昼か)


 真昼も、最初は素っ気なかったし寄せ付けないような雰囲気だったが、一度気を許すと信頼の眼差しを向けてきて甘えたり油断したりしている。

 そういうところが猫気質だと思っていたのだが、実際こうして比べても猫っぽいのではないだろうか。


 心の中でシルクに天使様二号という称号を与えつつ、気持ちよくなるように丹念に撫でていたら、ふとかしゃりというシャッター音が聞こえた。


 顔を上げると、真昼がいつの間にか近付いてきてスマホを構えていた。


「遅いと思ったら……シルクちゃんといつの間に仲良くなったのですか」

「なんか分からんが撫でてもらいにきた」

「ずるいです……私も触りたいです……」

「カカオは?」

「猫は自由気ままな生き物ですよね……」


 どうやらどこかに行ってしまったらしい。

 カフェを見回せば、カカオはキャットタワーの二段で丸まっていた。先程まで真昼に触らせていたが、気分が向かなくなったのだろう。


「周くんはシルクちゃんがお気に入りになったのですか?」

「いやまだ全員と触れあってないからなんとも。……ただまあ、何か真昼に似てるってのはあるからもふりたさはある」

「似ている?」

「いや、真昼って最初はツンてしてたっていうか凛としてて素っ気なかったけど、一度なつくと割と甘えてきたりするから」


 ただ、甘えて油断する辺りまでは猫っぽいが、全幅の信頼を寄せて構って攻撃するところは犬っぽいと思うので、やはり猫と犬のハイブリット感は否めない。

 本人は無意識に頼って甘えてきているので、周としては嬉し恥ずかしといった気持ちなのだが。


「……ねこじゃないですもん。それに、誰にでもなつくという訳では」

「まあ真昼って警戒心強いからな」

「……猫扱いしてませんか」

「してないしてない」


 いつも真昼を撫でるように猫を撫でつつ答えて「なー?」とシルクに同意を求める。


 空気を読んでくれたのかたまたまなのか、シルクも「なぁー」と鳴き声を上げてくれたので、真昼もそれ以上は追及出来ないようだ。


 ただ、真昼がやや不満そうにこちらを見てくるので、猫を触っていない左手で真昼の頭を撫でておいた。


「……やっぱり猫扱いしてます」

「まあまあ。ほら、真昼もシルクと遊ぼうか。受付に言ったらおもちゃ貸してもらえるらしいから」

「ご、誤魔化されません」

「一緒に遊ぶのは嫌か?」


 シルクと戯れつつ問いかければ、真昼が唇を小さく尖らせて「周くんはずるいです」とこぼして、おもちゃを借りるべく受付に向かっていった。

 入れ替わりで取りに行こうと思っていた周は目を丸くして、それから何故か微妙に拗ねてしまった真昼の表情を思い出して首を捻る。


「何がずるいんだろな」


 シルクをだしにした事だろうか、と真昼の表情の理由を考えて呟いてみるが、シルクは「私が知った事か」と言わんばかりに鳴いて周の掌に額をすり付けた。

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