76 天使様は頑張りたい
前回お砂糖入れ忘れたので追加で続きの一コマ。短め。
「驚きましたか?」
自宅で真昼が悪戯っぽく笑うのを見て、周はひっそりと苦笑を浮かべる。
「驚いたっつーか、割とぐいぐい来たなと」
「周くんは多少強引にしないと駄目って最近理解し始めましたので」
「左様で」
やけに積極的だったのは、周が逃げ腰になると分かっていたからなのだろう。まああの場面では包囲網のせいで逃げられなかったのだが。
周としては真昼があそこまで押してくるとは思っていなかったのでびびったものの、話だけでスキンシップ等は行われていないので一安心していた。
家のような無邪気で無自覚なスキンシップをされると、嫉妬の刃が飛んでくるに違いない。本人は一番信頼出来る人間として甘えているのだろうが、そんなの周囲には分からないのだ。
「その、なるべく周くんの生活に影響がない範囲でちょっとずつ頑張りますけど、もし何かあったら言ってくださいね」
真昼も自分の影響力に自覚があるので、なるべく急に接近しないようには心がけているようだ。
周からすれば急接近なのだが、ひとまず黙っておく。
「まあ今のところは大丈夫だよ。羨ましいって視線は飛んでくるけど」
「そうですか。その、……私が学校でも話しかけて、い、嫌じゃなかったですか……?」
最初に周が渋っていた事を、まだ気にしていたらしい。
「真昼が寂しがりなのは分かってたしなあ。友人を除け者にするのも悪いし、真昼も疲れるだろ」
「……友人」
「ん?」
「いえ、なんでもっ」
不安げな表情から今度は不服げな表情になって困惑するものの、話す気はないらしい。
微妙にそっぽを向いてしまった真昼に、これ何かしら機嫌を損ねたんだろうなあと察した周はとりあえず頭を撫でておいた。
「……頭撫でれば万事解決とか思ってませんよね」
「それはないけど喜ぶかなと」
「喜びますけどっ。……そういう事誰にでもしないでくださいよ、誤魔化す時」
「真昼以外にしないけど……」
そもそも他に仲のいい女子なんて千歳しか居ないのだ。千歳を撫でる事なんてまずない。それに千歳が喜ぶとも思えない。
となると真昼にしかしないし、真昼以外にしたいとも思えない。甘やかしたいのは真昼だけなのだから、他人にやるという選択肢はハナからなかった。
割と大真面目に言ったつもりだったのだが、真昼が俯いて手にしていたクッションでぽすぽすと殴ってくるので、お気に召さなかったようだ。
止めた方がいいのかと手を止めれば、今度は二の腕に頭突きされた。
痛くはなかったが、最近真昼が微妙にアグレッシブになってきて困惑するしかない。
「……周くんのばか」
「何でだよ」
「私はどこまで頑張ればいいのですか……」
「ま、真昼が何言ってるのかよく分からんが、あんまり頑張りすぎても疲れるだけだからほどほどに……」
「これは頑張らないと何ともならないのです」
じと、と周の肩口から瞳を覗かせた真昼が微妙に恨みがましげで、それでいて羞恥と僅かな期待のこもった瞳で見上げてきた。
やや潤んだ瞳が至近距離にあるため、どうしても視線が泳ぎ始める。
「け、結局、真昼は俺にどうしてほしいんだ」
「……撫でる事を継続からです」
から、という事はまだ周に要求する事はあるのだろうが、今の真昼がそれ以外に求めてくる事はなさそうだったので、とりあえず再び真昼の頭を優しく撫でてご機嫌取りに奔走する周であった。
レビュー一件いただきました、ありがとうございます(´∀`*)
感想欄でお弁当について触れている方が居ましたが、真昼は周にお弁当は作ってません。多分描写してないはず……(記憶があいまい)