73 天使様のプリン
短めです。
プリンは流行りの生クリームたっぷりのとろとろしたものも美味しいのだが、やはり周的にベストなのはスプーンで掬っても形が崩れない卵たっぷりで固めのプリンだ。
卵本来の味をしっかりと残しつつも生クリームのコクを秘めたプリンはやや甘めだが、ほろ苦いカラメルのお陰でしつこくない甘さに落ち着いている。
むしろスッキリとした後味で、次々に口に運んでしまうような魅力があった。
甘いものがそう得意ではない周も真昼手製のプリンは夢中になって食べるほどで、あっという間に盛られた皿からプリンが姿を消していた。
「はー、うまい」
「お褒めにあずかり光栄です」
昼食後のデザートとして出してもらったのだが、ぺろりと平らげてしまった。一つでは足りなかったので二つ。
男子高校生の割には周はそこまで食欲はない方なのだが、やはり真昼手製のデザートは別腹だった。
食べた量以上に満足感を覚えて、周は機嫌の良さもあらわにお腹をさすった。
「お前、何でも作れるよなあ」
「一通りは作れるように叩き込まれていますので」
自慢でもなくそう言う真昼だが、実際に彼女は料理のレパートリーは豊富で時折周が知らないような料理が飛び出てくる。
もちろん美味しいし飽きない。真昼のような存在が側に居て自分のために作ってくれるというのは、非常に幸福な事だろう。
「流石というかなんというか。お陰で俺は幸せだけどな」
「……幸せですか?」
「そりゃな。うまいもの毎日のように食べさせてもらっといて不幸せなんてありえないだろ。毎日の楽しみなんだぞ」
真昼の料理が日々の楽しみの半分は占めていて、一日の終わりに真昼の料理を食べれば大概嫌な事は忘れる。
毎日作ってもらっている事自体が幸福な事で、毎回幸せを噛み締めながら食べているのだが、彼女はあまり自分の料理の価値を分かっていないのだろう。
以前にも真昼の料理は幸せの味だと言ったのだが真昼はあまり自覚していないようなので、周が絶賛しておかないと価値を理解してくれそうにない。
それに、美味しいものを美味しいと言うのはある種の礼儀なので、素直に伝えるべきだろう。
「……そ、そうですか」
真正面から褒めると、真昼はうっすらと頬を染めて体を縮めた。
「……周くんに褒めてもらえて、嬉しいです」
「俺でよければいくらでも褒めるけどさ。毎日美味しいじゃ足りないか? もっと事細かに感想を言って欲しいなら全然言うけど」
世の夫婦の亀裂は互いへの感謝を忘れる事から、という。
別に真昼とは夫婦でもなんでもないのだが、毎日料理を作ってもらっている身として感謝の気持ちを忘れてはならないし、味の感想はモチベーションにも繋がるだろうから、望むなら細かく言うつもりだ。
ただ、真昼はぶんぶんと首を振って拒否の意を示している。
「い、いいです……それはしにます」
「大袈裟な」
「大袈裟じゃないです。今でも充分ですから」
「そうか? でも、これからも毎日作ってもらうんだから、ちゃんとお礼は言っておきたいというか。いつもありがとな」
本当に真昼に周の食生活は支えられているので、頭が上がらないし足を向けて寝られない。真昼さまさまである。
真昼が居ないと周は駄目人間一直線なので、是非とも今後も、欲を言えばこの先ずっと隣に居てくれる事を望むのだ。
ありがたい限りだと笑うと、真昼がぷるぷるとマナーモードの着信中のように体を震わせて、それから立ち上がった。
「……周くんのばか」
何故か馬鹿と可愛らしい声で罵って食器を流しに持っていくので、周も後を追うように自分の使った食器をシンクに運ぶ。
唐突だったので首を捻りつつ、周が後片付けする役割なので真昼がしなくても、と真昼の腕を軽く掴むと、真昼が勢いよくこちらを向いた。
先程よりも赤らんだ顔でこちらを捉えた真昼が余計に顔を赤くしてしまうので、何だか非常にいたたまれなさを覚えた。
「……お、俺がするから。お前はソファで待ってろ。な?」
くしゃりと頭を一度撫でてキッチンから追い出すと、真昼は小さく唸りながらソファに突撃して沈み込んでいた。
普段は落ち着いた真昼のらしくない行動に、瞬きを一つ。
それから、先程の照れたような恥じらいで満たされた顔を思い出してしまい、頭を冷やすためにも冷たい水で食器を洗う事にした周だった。
レビュー一件いただきました、ありがとうございます(´∀`*)