72 天使様とぬいぐるみ
今日の真昼はエプロンを身に付け、髪をお団子にまとめあげた姿で出迎えてくれた。
料理をする時は髪を結っているのだが、流石女の子というか編み込みを入れたりこうしてお団子にしたりと、実用性の中にも可愛らしさを追求している。
先にご飯を作ってくれていたらしい真昼は周が帰って来たのに合わせて玄関にきてくれて、少し安堵したような微笑みを浮かべた。
一応遅くなると連絡はしていたのだが、真昼に気遣わせていたらしい。あの後門脇とカフェで軽くコーヒーを飲んで愚痴を聞いていたので遅くなってしまったので、そのせいだろう。
「お帰りなさい、周くん。……その袋は?」
「ゲーセン行ってきた。まあ戦利品だ」
うさぎ以外にも取ったので大袋にぎっしり入っていて、真昼からも中身がたくさん入っている事が分かったのだろう。
「……随分とたくさんですね?」
「学食の日替わり定食二食分しか使ってないぞ」
「はあ、何をとってきたのですか?」
「あとでな。お腹すいた」
今渡してもいいがどうせならゆっくり反応を見たかったので、後回しにしておく。
それに空腹というのも事実なので、早く真昼のご飯が食べたかった。
「では先に手を洗って着替えてきてくださいね、うがいもですよ。その間にご飯よそってますから」
「りょーかい」
言われなくてもいつもやっている事だが、こうして心配から気遣ってくれるのは嬉しかった。
おかんみたいだなあとはおもったものの口には出さず、言われた通りに洗面所に向かった。
「……で、そんなに何をとってきたのですか」
夕食後、真昼は気になっていたのかソファの側面に寄りかかっている戦利品の袋をちらりと見て聞いてきた。
「ん? ぬいぐるみ」
隠すつもりはないので袋を持ち上げて膝に載せ、留めていたテープを剥がしつつ答える。
「ぬいぐるみ?」
「真昼、好きだろ?」
「す、好きですけど」
「真昼の好きそうなやつ割とあったから取ってきた。ほれ」
今日一番の収穫は、前にあげたくまと同じくらいのサイズのうさぎのぬいぐるみだろう。
割と大きかったがワンコインで獲得したので、周としては地味に自慢だ。
白の毛並みにつぶらな瞳のうさぎを取り出して、真昼の膝に載せてやる。
何のキャラクターかよく分からないがとりあえず真昼が好きそうだったので取ってきたのだが、真昼は膝に置かれたうさぎをじっと見つめるだけだった。
「うさぎ、気に入らなかったか?」
「……可愛いです」
「よかった」
いつものクッションを抱き締めるようにむぎゅっと両腕に抱えて頬擦りした真昼に、一瞬スマホを構えようかと思ったがやめておいた。
ふにゃりと笑顔を浮かべてくれたのでそれを脳内カメラに収めつつ、まだこんもりしている袋から別のぬいぐるみを取り出す。
「まだあるぞ。猫とか犬とか」
あのゲームセンターはアームが比較的強いお陰で周は大体のものを低予算で取れるので、真昼が好きそうなものをひょいひょい取ってきたのだ。
微妙に真昼っぽさのあるベージュと白の毛並みの猫のぬいぐるみや柴犬を模したゆるキャラのぬいぐるみを追加で載せると、困惑しているのが目に見えて分かる。
「あ、あの、こんなに……?」
「邪魔だったかな」
「いえそんな事は! 部屋の装飾品とかないですし、可愛くて嬉しいです」
「ならよかった」
わらわらとぬいぐるみに囲まれている姿は、想像通り可愛らしい。
今はうさぎを抱き締めたままだが、次はどっちにしようかと猫と犬を見比べてそわそわしている。
そんな真昼が微笑ましくてついつい笑みを浮かべて眺めていたら、視線に気付いたらしく顔を赤らめてうさぎで顔を半分ほど隠した。
うさぎが白いので、真昼の頬の赤らみ具合は一目瞭然だ。
うさぎの耳の隙間から覗く瞳が潤んで妙に色っぽさと可愛らしさを出しているので、周としてはやはり眺めてしまう。
とうとう耐えきれなくなったのか、隣に居る周の二の腕に額を当てて顔を隠し始めた。というか、八つ当たりのように頭突きをしている。
まあ頭突きというよりはぽすぽすと当たるだけなので、痛みなんて全くないのだが。
「……にやにやしないでください」
「してないよ」
「してます、笑ってます。子供っぽいって笑ってます」
「そういう笑いじゃないから。可愛いなあと思って」
「……笑ってるじゃないですか」
「おっと」
バレたか、と茶化したように笑ったら真昼が今度はべしっと腿を叩いてきたので、とりあえず宥めるように一旦頭を撫でておいた。
これで大人しくなってしまう真昼に、今度はばれないように笑った。
「……誤魔化されてる気がします」
「気のせいだな」
「……今日のところは誤魔化されておきますけど」
もう、と不服げに呟いてされるがままの真昼だが、顔と台詞が合っていない事には口をつぐんでおいた。
真昼の膝に載せた猫と抱えているうさぎを見ながらうさぎと猫のハイブリッドだよなあ、と内心思いつつ頭をしばらく撫でていたら、真昼が顔を上げる。
上気した頬は変わらないままだったが、瞳には先程とは別の色合いの不服そうな色が見えた。
「……私、周くんにもらってばっかりです」
どうやらたくさんもらっている事を気にし始めたらしい。
「俺が勝手にあげてるから気にすんな」
「でも、私、周くんにいつももらってます。プレゼントも、気遣いとか、温かい空気とか、全部」
「別に俺があげたいだけなんだから、お前が気にする事じゃないよ」
別に対価がほしくてあげている訳ではなくて、真昼が喜ぶから与えているだけなのだ。
これだと真昼が喜ぶのが対価のように聞こえるが、結局のところは自己満足だしあげたいからあげているのであって、本人が気にする事はなんらないのだ。
それでも真昼としてはもらいっぱなしで気に病んでいるらしい。
むしろ周としては彼女に散々面倒見てもらっているので、恩としてもこれでも釣り合わないと思っているのだが。
「私も何か返したいです」
「強情だなあ。……でもまあそんな気にするんだったら、一つくらいもらっとこうかな」
「私にあげられるものなら、何でも」
本当に言ったら何でもしてくれそうな気がしてちょっと危ういのだが、流石に負担のかかるような事を頼む訳にもいかないだろう。
かといって頼まなければ真昼がしょげてしまう。
「プリン作ってほしいかな」
なので、周が喜んで真昼には負担がない事を頼む事にした。
「……プリン、ですか?」
「卵たっぷりのプリン。真昼の手作りの食べてみたいかな」
「……安上がりに済ませようとしてませんか?」
「んな訳あるか。真昼のだから意味があるんだろ」
甘いものは別に好んで食べる訳ではないのだが、カスタード系は別だ。
プリンやカスタードクリームだけのシュークリームは好きだし、真昼の手作りとあればまず美味しいものが出来るだろう。
好きな女の子の、それも料理上手の手作りであれば、当然食べたいと思うものだ。
大真面目にお願いすれば、真昼はじーっと周を見上げた後、こっくりと頷いた。
「……じゃあ、今度の休みに作ります。卵たっぷり固めのですよね」
「ん」
「美味しいの、作ってみせます」
「そんな気合い入れなくていいんだけどなあ」
「私がしたいからするのです」
「そっか」
何故か無駄にやる気満々な真昼が決意を示していたので、そんなに頑張らなくてもいいんだけどなあ、とは思ったものの美味しいプリンが食べられるのだから文句は言えない。
頑張れと応援の意をこめてもう一度頭を撫でると、真昼が小さくはにかんでうさぎの後頭部に口許を埋めた。
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