69 おまけ
入れようか悩んだおまけです。
起きたら、目の前に彼女が纏うワンピースの布地が見えた。
どうやら寝返りを打ったらしく、彼女の体側に顔が向いている。
お陰で柔軟剤の匂いや真昼本来の甘いミルクのような香りがして、顔がじわりと熱を持ち始めるのが分かった。
流石にお腹付近を見続ける訳にもいかず恐る恐る上を向いてみると、慈しむような眼差しで周を見下ろす真昼が居る。
失敗した、と思ったのは、やはり真昼は思ったよりもある、というのを見てしまったからだろう。下からのアングルだと質量が強調されるので、とてもいたたまれない。
「おはようございます」
「……おはよう」
「ぐっすりでしたね」
くす、と小さな笑い声をあげる真昼は、からかうというよりは本当に嬉しそうといった風で、まるで元気な子供が寝付いたのを喜ぶ母のような眼差しでもあった。
慈愛の表情で髪を撫で続けている真昼に、周としてはごろごろとのたうち回りたい気持ちで一杯である。
寝顔を見られたとかで恥じらう訳ではないが、こんな表情で甘やかすように触れられていたという事を思うと悶絶しそうだ。嫌ではないしむしろ喜んでる自分に恥ずかしさを覚えた。
「……どのくらい寝ていた」
「一時間ですかね?」
「ごめん」
「いえ、周くんの髪を触るの楽しいですし」
「……そうかよ」
未だに周の髪を撫でて手触りを堪能しているらしい真昼に、周は直視していられなくて目を逸らした。
「周くんは嫌でしたか?」
「……嫌なら寝てないだろ」
「そうですか。言ってくれたらいつでもしますからね」
「……そういう事を軽々しく言うなよ」
「どうして?」
「……どうしてもだ」
勘違いしてしまいそうになる、なんて言えずに口を閉ざした周に、真昼は首をかしげながらもなでなでと掌を動かし続けている。
「私は、周くんに触るのも触られるのも好きですよ」
(だからそういう事を軽々しく言うなと……)
真昼に他意はない筈だ。
本人としては、家庭環境ゆえにスキンシップに飢えていて頭を撫でてもらうと落ち着く、といった意味なのだろうが、聞きようによっては好意があるから触られる事そのものが幸せに繋がるという風にも聞こえるのだ。
「……そういう事言ってるとセクハラするぞ」
「セクハラ」
「体に触ったりするぞ」
「どこを?」
「どっ、どこって……そりゃその、……言わせるなよ……」
男子が異性の体のどこを触りたがるなんて、言わずとも分かるだろう。
つい顔が赤くなってしまう周に、真昼はぱちりと瞬きを繰り返した後に「ああ」と得心がいった風に頷いた。
「触りたいので?」
「……交際している女性となら、合意の上で」
「結局周くんは何もしないって事になりますね」
「うるせえ」
「ふ、ふふっ、周くんってすごく律儀で紳士的ですよね」
「やかましい」
「周くんのそういうところ、好きですよ」
おかしそうに、楽しそうに笑いながら言った言葉に、周は息をつまらせた。
本人に、他意はないのだ。
この好きというのは人として好ましいの意で言っているのであって、異性としてのものではないだろう。
それは分かっていたものの、心臓が痛い。
そもそも膝枕なんかされてるから勘違いしそうになるのだ。こんな甘やかされては、多少なりと好意を抱かれていると思っても仕方ないだろう。
実際にある程度好意は持たれているだろうが、それがどんな種類でどのくらいのものなのか分からない周としては、真昼の言葉に一喜一憂してしまって心臓が大変な事になりそうだった。
「……そりゃどーも」
精一杯そう言って、周はごろんと寝返りを打って真昼から背を向けた。
レビュー五件いただきました、ありがとうございます!
朝起きて本当にビックリしました! ありがとうございす、やはり膝枕は偉大だったという事なのでしょう←
二年生編は無自覚にゆるゆるいちゃついていく二人を書いていきますので応援していただけたら嬉しいです(´∀`*)