60 突撃彼氏の友人お昼ご飯
短め。
『いっくんだけずるい! 私もまひるんの料理食べるー!』
翌日、朝っぱらからそんな電話が千歳から周宛にかかってきた。
どうやら樹が昨日千歳にそう連絡したらしい。昨日食事が並んだところで女子よろしく写真を撮っていたと思えば、千歳に送るためだったようだ。
「俺に言われてもな。椎名に聞け」
『じゃあまひるんに良いって言ってもらったらご相伴にあずかっていいの?』
「それはまあ」
『わかった! じゃあまひるんに聞いてくる!』
勢いよく言って電話が切られた。
うるさかったのでスマホをやや耳から離していた周は、行動力のある千歳に感心すればいいのか呆れればいいのかで表情を迷わせていた。
見ていた樹は、微笑ましそうにしている。
「ちぃは元気だなあ」
「お前の彼女の暴走癖なんとかならないのか」
「無理だなあ。ちぃは好きなものは好きって体で示すタイプだし。愛情深いよなあ」
うんうん、と頷いてる樹に惚れた欲目だな、とは思ったものの飲み込んでおく。
別に千歳のバイタリティーに富んだところや誰とでも仲良くなれる明るさは長所だし周にはないもので羨ましいと思うが、彼女からラブコールされる真昼が大変だなと思う。
真昼には合掌しておきつつ、とりあえず昨日の夕食の残りを温めて朝ご飯にする事に決めた。
「という訳できちゃいましたー!」
お昼前になって早速千歳が現れた。荷物らしきリュックを背負って来ているが、手には材料がこんもり入った買い物袋が提げられていて、隣には真昼が苦笑を浮かべながら同じように買い物袋を携えている。
どうやら外で待ち合わせたらしい。千歳に買い出しを付き合ってもらってから一緒にここまで来たのだろう。でなければ二人して買い物袋を携えてないし、千歳はエントランスを抜けられない。
「行動早いわぁ……」
「まひるんのおうちにお泊まりするって事でいてもたってもいられなかった!」
「……お泊まり?」
「折角春休みなんだからいいかなって。まひるんも了承してくれたから!」
ね? と千歳が満面の笑みを浮かべて真昼を見ると、真昼は苦笑して頷いている。
(押しきったな)
千歳の勢いに負けたに違いない。
ただ、嫌がったりはしてないし、あくまで急な事にやや困惑している、というだけだろう。
「心配しなくても納得の上ですからね」
冷蔵庫に材料をしまいに行く真昼は、横をすり抜けた時に周にしか聞こえない小さな声で告げる。
周のちょっとした不安を見抜いていたらしいので周は苦笑して、夕食分の材料を冷蔵庫にしまう真昼の背を見る。
千歳はにこにこと笑って「まひるんの料理楽しみー」と樹の隣に座ってべたべたしているので、周は座る場所を失いとりあえずキッチンに向かった。
「なんか手伝うことあるか?」
「……周くん、料理出来ないでしょう」
リビングに聞こえないように絞った音量で名前を呼んだ真昼に、周はうっすらと苦笑する。
「別に野菜ちぎるとかくらい出来るぞ? というか指示あれば簡単な事なら出来るし」
「……じゃあ手伝ってもらいます。向こう居たたまれないんですよね?」
「よく分かってらっしゃる。あいつらいちゃつくからなあ」
肩を竦めて、水道で手を洗う。
真昼の手伝いなんて大して出来はしないのだが、料理が全く出来ない訳ではない。計量や下ごしらえを手伝う程度は出来るので、しばらくは恋人達のいちゃつきを背にしながら真昼のサポートをする事になるだろう。
「ちなみに今日のお昼ご飯は?」
「オムライスとグリーンポタージュ、あとサラダですね。千歳さんがオムレツをナイフで切ったら広がる半熟タイプの食べたいと仰ったので」
「やった」
「好きですよねえ卵料理」
「卵はいいもんだ。それにお前のが一番美味しいから、楽しみだ」
真昼の料理は外れがないので、好物の卵料理なら尚更楽しみになる。前に食べたビーフシチューオムライスも最高の出来だった。あれは毎週食べても飽きない自信がある。
千歳もナイスリクエスト、と内心で親指をたてつつ上機嫌に米を四人分計量して洗っていたら、真昼は冷蔵庫の前に立ったまま固まっていた。
「……どうした?」
「……そう言ってくれるのは嬉しいですけど、不意打ちはダメです」
「何の事だよ」
「分からなくてもいいです」
ぷい、とそっぽを向いてスープの材料を切り始めた真昼に、周は首をかしげるしかなかった。
「あれで付き合ってないんだからよく分からないよな」
「ほんとねー」
レビュー二件いただきました、ありがとうございます(´∀`*)