05 寒空の下での遭遇
宣言通り、周と真昼は顔見知りの他人という関係のままだった。
看病の翌日には元気になっていて、コンビニに買い出しに行く際にたまたま真昼と顔を合わせたが、特に話す事もなかった。ただ、元気そうな周に少し安堵したのは見えた。
週明けで学校が始まっても、変わらない。他人のまま。
ただ、少しだけ変化があったとすれば、通学の時に出会えばぺこりと会釈されるようになった程度であろうか。
「おー周元気になったか」
「お陰さまでな」
先週の帰り際は半分死んでいた周を樹も心配していたらしく、昇降口で会って早々に周の体調を窺っていた。土日は『死んでないか』というメッセージが来ていたくらいだ。
問題ないという旨のメッセージを送っても半信半疑だったようで、こうして実際会ってピンピンしている様子を見て樹はわざとらしく安堵した風に息を吐いた。
「いやー、あんだけ体調悪そうにしてたらそりゃオレだって心配になるわ。まあ治ったんならいいけどな、お前もう少しまともな生活しろよ。まず片付けろよ」
「どっかの誰かみたいな事を」
「ん?」
「いやなんでも。……この土日で思い知ったから、近々片付けるよ」
いや今すぐ片付けろよ、とすぐに突っ込まれたものの、敢えてスルーした。
あれはおそらく、半日では片付かない。
ぷい、とそっぽを向いた周に樹も追及こそしなかったが、呆れた顔だった。
「ま、お前んちだから好きにすればいいけどさあ。今度行く時は足の踏み場ぐらい作ってくれよ」
「……善処する」
渋い顔をしつつ上履きに履き替えて校内に入って教室に向かっていたが、やけに騒がしい教室があってつい横目に見てしまう。
窓から覗いたその教室には、相変わらずの美貌を発揮している真昼がいて、男女問わず囲まれている。
話しかけられれば静かな微笑みを浮かべて応対している彼女の姿に、なんというか先日の真昼とは全然キャラが違うな、と自然と苦笑いがこぼれた。
その様子を見た樹も同じように視線を滑らせて、真昼の姿を捉えて得心の様子を見せる。
「ああ椎名か。相変わらずの人気っぷりというか、まあ美少女だからなあ」
「何たって天使様だからな。……樹も椎名を可愛いと思うのか」
「そりゃまあな。まあ、オレにはちぃが居るから、単なる鑑賞用って感じだけど」
「のろけは結構ですー」
樹にはちぃ、正確には千歳という彼女が居る。
これまた相思相愛の非常になかむつまじいカップルで、一緒に居る姿は見ているこちらが胸焼けしてくるほどだ。
のろけはほかのところでやってくれ、とひらひら手を振った周に、樹は気分を害した様子はない。いつもの事なので「つれないやつめ」と笑っている。
「周こそ、椎名可愛いとは思わないのか?」
「美人だな。それだけだ」
「淡白だな」
「俺らには手の届かない高嶺の花みたいなもんだろ。関わる事なんてないし、見てるだけで充分だわ」
「違いない」
何の因果か先日は看病してもらうというハプニングがあったが、元々住む世界が違うのだ。
周が真昼と仲良くなる、なんて未来なんてありはしない。優秀な人間は優秀な人間と惹かれ合う。
自分でもだめ男の自覚がある周と、可愛らしく何でも出来る真昼がどうこうなる事なんてまずないのだ。
そう、関わる事自体もないと思っていたのだ。
「……何食べてるんですか」
それが覆されたのは、マンションのベランダでゼリー飲料を飲みながら外を眺めている時だった。