表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/310

39 天使様のお目覚めと恥じらい

 朝周が起きても、生活音はしなかった。


 外から鳥の鳴き声が聞こえてくる程度で、周の部屋で寝ている真昼に起きた気配はない。

 時刻的にはもう日の出の時間を過ぎているのだが、余程昨日疲れたのか、熟睡しているのであろう。


 ちなみに周はというと、一応寝はしたものの自分のベッドに真昼が居るとか考えていたら中々寝付けず、結局眠りが浅いままで今の時刻に起きてしまったのだ。

 まあ別に体調的に辛い訳ではないのでいいのだが、別の意味で辛い。


 ソファで寝たからか固まった体をほぐすように伸びをしつつ、ゆっくりと立ち上がる。

 とりあえず、真昼の様子を見てみようと思う。と着替えを取りに行くという目的が主なのだが、ついでに真昼の様子も見るつもりだ。


 そーっと、自室への扉を開ける。


 中は静かなもので、やはりベッドで寝入っている真昼もそのままだ。


 ただ違う点といえば、寝返りを幾度か打ったのか横向きになっていて髪もベッドに川のように広がっている事だろう。


 くぅ、くぅ、と何とも可愛らしい寝息を立てている真昼を、しゃがみこんで眺める。


 本当に、寝ている時はあどけなさが強い。

 普段気を張っているのかクールな表情が多かったりするのだが……寝顔は、緩みきった表情でやはり可愛らしい。なんというか、撫でたくなるような愛らしさがある。


(……寝てる時はほんと可愛いんだよなあ)


 もちろん起きていても美少女に違いないし可愛らしいのだが、こちらは愛玩動物を見た時に感じる感情に近い。

 このさらさらな髪を撫で回したいし、ふにふにした頬をつつきたくなる。普段がしっかりしていて隙がない分、こうして無防備な状態だと構いたくなってしまう。


 思わず、柔らかそうな頬に手を伸ばして、触れる。


 滑らかな頬は、昨日と同様の柔らかさを指先に伝えてくる。ずっと触っていたくなるようなもちもち加減に、つい周も指の腹でふにふにとつついてしまう。


 ソフトタッチを心がけているものの、やはり柔らかさが心地よくて可愛がるように触れていたら、静かに寝ていた真昼から「んぅ……」と掠れた甘い声が漏れた。

 それから、手を離す間もなく、閉じられた瞳がゆっくりと開かれる。


 焦点がぶれた、濡れたカラメル色の瞳が、周……正しくは周の方向を見る。

 ふやけたような表情は幼い寝顔の残滓があり、あどけなさが強い。むしろ、意識があるのにほうけたような、とろんとした瞳の分、今の方が幼いように見えた。


 油断しきった、無警戒さが際立つ表情をさらした真昼は、それからへにゃりと眉尻を下げて、また瞳を閉じた。

 触れた指を引っ込めようとすれば、指にすりすり、と頬をすりつけて、甘えるようにか細く喉を鳴らす。行かないで、と言われているような、そんな頬擦り。


 確実に寝ぼけているとは、分かっていた。

 真昼がこんなにも周に甘える道理などないし、普段の真昼ならこんな緩みきった表情も仕草もしない。


 それでも――甘える子猫のような仕草をされて、朝っぱらから周の心臓と理性が試されていた。


 手を引っ込めるべきか、気の赴くままに頬を撫でて可愛がるべきか。


 心情としては、かなり後者に寄っている。

 こんなゆるゆるの真昼を見る事なんて滅多にないし、どこまで甘えてくれるのかと興味がある。


 しかし、実行に移せば真昼の意識がはっきりした瞬間、真昼が口を利いてくれなくなる気がした。羞恥で悶えるのが分かりきっているので、どうしたらいいのか分からない。


  とりあえず、可愛かったので寝ぼけている真昼を観察するに留めておいた。


 意識は大分浮上しているらしいが、まだ頭が覚醒していないのか、周の手と気付いていないのか、指に頬を寄せてまどろんでいる。


 様子を見て着替えを取るだけのつもりが何故かこんな触れ合いになっていて、周は何とも言えないむず痒さに頬に熱が集まるのを感じた。


「ん、ん……」


 しばらくすれば、ようやく目覚めてきたのか再度真昼が瞼のカーテンを上げて……。


「……え、」


 ぱちりと目があい、それから視線が近くに居る周と頬に触れた指に移って、硬直した。


 それから、真昼は飛び起きた。


「おはよう」

「……お、おはよう、ございます……」

「お前が俺の家で寝たからここで寝かせた。他意はない。何もしてない俺に感謝してほしいくらいだ」


 先んじて周のベッドで寝ていた理由を説明すれば、真昼も騒いだりはせずに大人しくしている。

 ただ、男のベッドで寝ていた、という事実に頬がどんどん赤くなって、布団をつまむように持ち上げて口許を隠していた。


 その仕草も妙に可愛らしくて、つい目を逸らしてしまう。


(なんだこの状況)


 一応こちらは寝床を貸した立場なのだが、自分が悪いように思えてくる。

 確かに無断で頬に触れたのは悪いと思っているが、ほんのちょっとだけであったし、何かしようなんてつもりはなかった。


 真昼の可愛らしさにどきどきやら罪悪感にちくちくやら胸が忙しい事になりつつも真昼を見れば、朱に染まった頬のまま、じとっとほんのり不機嫌……とまではいかないものの、物言いたげな眼差しを向けてくる。


「……周くんって、ほっぺ触るの好きなんですか」

「え?」

「だって、クリスマスの時も、昨日の寝る前も触ったじゃないですか」

「……起きてたのかよ」


 昨日触ったのは真昼が熟睡している時にした筈で、本人の意識はなかった筈だ。

 それなのに触れた事を知っているという事は、あの時真昼は起きていたのだ。


「……あ、あれは、その……ベッドに下ろされる間際で起きたというか……あんなの寝たふりするしかないじゃないですかっ」

「俺が何かするとか考えなかったのか?」

「……周くんは、そんな事しないって思ってましたし……それを確かめるために、寝たふりしたってのは、あります、もん」


 どうやら本当に信用していいのか見定められていたらしい。


 結果的に信頼してもらったようなのでよかったが、出来れば今度からは男の前で寝るなんて無防備な真似はしないでほしいところだ。

 流石の周も、次見かけたら頬をつつくだけで済ませられる気がしない。


「……まあ、信用してもらったならいいけど、次からやるなよ。俺も男だからな」

「う、そ、それは分かってます、けど」

「それとも何かしてほしいか?」

「そんな事ある訳ないでしょうっ」


 真っ赤になって強く否定した真昼が布団にまた潜るので、そこ俺のベッドなんだけどな、という突っ込みは飲み込む。


 真昼の恥じらいが収まるまで、丸まってぷるぷる震えてる真昼をそっとしておくしか出来ない周だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件5』 7月15日頃発売です!
表紙絵
― 新着の感想 ―
[良い点] もっと甘々を!
[良い点] 甘々な2人 大好きです [一言] 台湾からの読者ですが、これかろも続き応援します(´∀`) 書籍化待ています! あと...アニメ化したら、真昼の声優―花澤香菜が出来れば嬉しいです(・ω…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ