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38 無防備な天使様

 新年早々とんでもない事態に直面している周は、それはもう表情を強張らせて腕の中に居る真昼を見る。


 本当に熟睡している。


 周は安心出来る人間だ、と思われているのか、まったく警戒せずに寝入っている彼女に、周はもどかしさやら恥ずかしさやら理性の緩み加減的に頭を壁にぶつけたくて仕方なかった。


 意識したくないのに、否応なしに彼女の感触に集中してしまう。


 ほっそりした体は引き締まっているのに柔らかさは残していて、どこもかしこも女性らしい柔らかさがある。

 特に、触れ合った胴体からは見た目よりも質量のあるそれを感じてしまい、周の理性をガリゴリと遠慮なく削りにかかっていた。


(――どうすればいいんだ)


 あまりに想定外の事態な上、今まで味わう事のなかった柔らかさを押し付けられて、周はひどく混乱していた。


 女の子ってこんなにふにふにと柔らかくていい匂いなんだ……と初めて知った事実に妙な感慨を覚えて、すぐに不埒な事を考えてはならないと理性が締め付ける。


 考えてはならないと思うほど、腕の中の柔らかさを意識してしまって頭がぐちゃぐちゃになった。


 それでも何とかどうにかしようと思考を巡らせてみるものの、この事態を何事もなく丸く納める、というのは無理な気がした。


 一応、対応策として考えられるのは、三つほどだ。


一.真昼を無理矢理起こす

二.真昼の家に戻す

三.周のベッドに寝かせて自分はソファで寝る


 一番は、こんなに疲れて熟睡している真昼を叩き起こしてしまうのは憚られる。疲れさせたのは自分なので、出来れば寝かせてあげたい。


 二番は、パッと見一番無難かもしれないが、真昼の服を探って鍵を取り出して女性の部屋に無断で入り込む、という大きなハードルがある。それは流石に真昼も後から知れば嫌がるかもしれない。


 なら三番のベッドに寝かせるという選択肢が無難で実行しやすい、のだが……それはそれで精神的に死ぬ自信があった。


 いくら普段側に居るとはいえ、誰もが見惚れそうなあどけなく愛らしい寝顔を見せて寝ている真昼を自分のベッドで寝かせるなんて、理性やら何やらが崩壊しそうだ。


 女の子が自分のベッドで寝るなんてシチュエーション、男子的には堪らないものであるのに、それに加えて相手が甲斐甲斐しい美少女。

 色々と思うところがあるのは仕方ない。


 しかし、これが一番無難であり、周に出来る精一杯の労りと妥協である。


 覚悟を決めて、自分にもたれている真昼の背中と膝裏にそーっと手を回して、ゆっくりと持ち上げる。

 寝ているという事もあり羽のように軽い、とはとても言えないが、それでもやはり真昼は軽かった。


 そう簡単には起きそうにないが、一応なるべく揺らさないようにして周の部屋に丁寧に運ぶ。横抱きにしているので滅茶苦茶ドアノブを開けにくかったのだが、そこを乗り越えてしまえばあとはベッドに寝かせるだけだった。


 華奢な体がベッドに沈み込む。

 その上に毛布と布団をかけてやれば、おやすみ態勢が出来上がっていた。


 起きる気配は感じられず、一定の寝息だけが聞こえてくる。

 幼さを残した端整な美貌は、相変わらず美しくありながらあどけない寝顔として周の心臓を跳ねさせている。


 丁重にベッドに寝かせたところで、周はベッドの側にしゃがみこんだ。


(……きっつい)


 何がって、自分のベッドに寝ているというシチュエーションも、柔らかな感触も、この無防備で可愛らしい寝顔も、男の家で寝るという信頼によって成り立った無警戒さも、何もかも。


 もちろんかなり信頼されているのは嬉しいが、男としてまったく意識されていないような気がしてならない。

 おそらく、彼女の中で周は『だめだめで世話のやける安心安全無害な男の子』という認識なのだろう。


 ちらり、と彼女を見れば、周の葛藤なんてつゆ知らず、実に穏やかな寝顔を見せている。


(人の気もしらないで)


 あんまりに無防備なので、このまま一緒に潜り込んでやろうか……と一瞬考えたものの、交際関係でもないのに一緒に寝るというのは流石に駄目だろうと浮かんだ考えを却下する。


 やってしまうと、真昼は起きた瞬間口を利いてくれなさそうな気がする。何考えてるのですか、と冷ややかな眼差しで見られそうなので、実行には移さない方が身のためだろう。


 代わりに、少しくらい触れてもバチは当たらないだろう、と真昼の頭に手を伸ばす。


 さらさら、すべすべ、つやつや、そんな言葉が似合いそうなキューティクルばっちりの長い髪は、指先を滑り込ませば引っかかる事なく通してくれる。


 これもすごい手入れしてるんだろうなあ、と女性の努力に感心やら戦慄やらしつつ、ゆっくりと指先を真昼の頬に滑らせた。


 瑞々しくなめらかな白磁の肌は、あまり体温が高くないのか、周の手と比べればややひんやりとしている。

 指先でそっと撫でて、それからどこまでも安らかな寝顔を浮かべている真昼に、そっと苦笑を浮かべた。


「おやすみ」


 明日……正しくは今日の朝起きたらさぞ驚くんだろうな、と思ったが、こんなにこっちをやきもきさせたのだからそれくらいは許容範囲だろう。


  仕方のないやつめ、とそっと苦笑して、周はもう一度真昼の柔らかな頬を優しく撫でた。

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