250 初めてのバイト
(前のあらすじで間違っていると指摘されたのでちゃんとしたあらすじ)
全回のあらすじ
周と真昼はいちゃいちゃしていた
バイト先が決まってから一週間もすれば、オーナーである糸巻から制服の用意が出来て今後のシフトも決まった、という連絡が来た。
シフトは平日の内三日と土曜の週四勤務でまとまった。二年生なので受験も意識しなければならないという事で学業に支障のない範囲での勤務だ。部活動している生徒達と然程拘束時間は変わらないだろう。
来年度は受験も控えているので、周も勉学から手を抜くつもりはさらさらないのでこの勤務時間なら問題はなさそうだった。
「んじゃあ俺は今日からバイトだから、先に帰っておいて」
勤務開始日の放課後、真昼にそう告げれば少し寂しげな微笑みを返された。
それを見て少し心が痛むものの、こればかりはどうしようもないし真昼の笑顔に繋げるためにバイトをするので、飲み込むしかない。
「あー周今日からバイト? へー頑張ってー」
「後ろからつけてくるなよ」
「……そんな事はしないよ?」
「今の微妙な間から信用は出来ないな」
側で話を聞いていた千歳が若干怪しいが、先に注意しておけば無理に尾行してくるということはないだろう。
「……慣れてきたらきてくれていいが、慣れるまでは待ってくれ。拙い接客を見せたくないし」
「拙いとか言いつつ文化祭ではこなれてた感があったけどね」
「あれは普通の範疇だろ。木戸の指導あっての事だと思うし」
「……じゃあ、すぐに周くんのバイト先に行けるようになりそうですね。周くんは飲み込み早いですから」
楽しみにしています、と周を素直に送り出そうとする真昼に周は頬をかき、それから柔らかそうな亜麻色の髪をくしゃりと撫でた。
驚いたようにカラメル色の瞳を瞠る真昼の表情をじっと見て、周も頬を緩める。
「まあ、なるべく早く慣れるように頑張るし、早く帰るから」
「……いつまでも待つつもりはありますけど、早く帰ってきてくださいね」
「分かってるよ。晩御飯楽しみに頑張る」
一応クラスメイトは周と真昼が隣同士な事を知らないので声を潜めての会話だが、隣に居て聞こえている千歳はにやにやしているし樹はヒューヒューと囃し立てるように声を上げたので、とりあえず樹だけ軽く裏拳を入れておいた。
痛みはなかっただろうがわざとらしくよろけて千歳にもたれかかったが、はにかむ真昼を観察する千歳は「いっくん重い」と払いのけていたので、樹は割と悲しそうな顔をしている。
そんな二人につい笑うと、真昼も釣られて笑い出したので樹が微妙に恥ずかしそうに周の横腹を仕返しとばかりに小突いた。
名残惜しさを感じつつも会話を終えて学校を出て、バイト先に向かう。
初日という事もあり、同級生でありバイトの先輩となる茅野と同じ日に出勤させてもらう事になった。
昇降口で茅野と待ち合わせて向かう事になったのだが、茅野自身があまり喋らない質らしく無言で駅までたどり着いた。
バイト先は電車に乗りこそするが最寄り駅から二駅程度なので、実は家から距離はさほどない。樹や千歳の家の方が遠いので、バイトが終われば真昼が待ちくたびれる前には帰れそうだ。
バイト先自体駅からそう遠くないので、通勤に困る事はないだろう。
「藤宮の家は学校から徒歩圏内?」
定期を持っていないので一旦ICカードにお金をチャージする姿を見ていた茅野が、小さく問いかける。
「うん。俺は学校からそんな離れてないとこのマンションだから」
「そうなんだ。いいね、家から学校近いとよく寝ていられそう」
「まあ通学時間的に余裕はある方だと思うけど、俺は真昼が起こしに来るから……」
元々休日以外はある程度時間に余裕を作るように起床していたが、真昼が朝ご飯を作りに来るようになってからは更に朝の余裕が増えている。
起こしてもらわなくとも起きられはするのだが、毎日真昼の声で目覚めるという至福のひとときを味わいたいという秘密のわがままのため、真昼に起こしてもらう事を継続していた。
茅野は周の言葉に「ちょっと意外」と呟く。
「藤宮はすげーしっかりしてるタイプだと思ってた」
「そう言われるって事は最近の外面は割といいように見えてるんだろうな。結構ダメダメだぞ」
昔に比べれば私生活の乱れはなくなっているが、真昼に頼っている場面も多いのでしっかりしているのかと問われると首を傾げてしまう。
勿論真昼に任せきりなんて事はしていないし自分が出来る事は自分でしているものの、自堕落気味だと自分では評価していた。
茅野と知り合ったのは文化祭なので、その茅野にしっかりしているタイプに見られていた、という事は外面はちゃんと取繕えているのだろう。
「多分駄目の基準が違うと思う。駄目って言うなら彩香の方が……」
「木戸が?」
「彩香はしっかりしてるように見えるじゃん? 家だと結構緩いしぐうたらしてるよ。オレも人の事は言えないけどさ」
「あんまり想像つかないな」
「まあ彩香も外ではしっかりしてるからね。油断するとオレよりも全然緩くなる。外ではオレの世話焼いてるけど、中だと割と逆転する」
「……それは茅野に甘えてる気がするけど」
木戸がたまにおっちょこちょいをやらかすのは見ているが、それでも芯のあって気遣い上手な頼り甲斐のある女性だと思っている。緩い姿を外で見せず恋人の茅野に見せているという事は、そういう事だろう。
茅野はぱちりと目を瞬かせた後、気恥ずかしそうに視線を斜め下に向ける。
「……もしかして、これはのろけたという事になるのか。ごめん」
「い、いや俺は別に気にしないけど……」
茅野が恥じている姿にこちらも妙に気恥ずかしくて視線を逸らす。
もしかしたらこういう風に無意識に自分ものろけていたのかもしれないと思って、周は羞恥から頬に力を込めて震えそうな唇を結んだ。
(全然更新出来てなくて申し訳ない)
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GWデートのまひるん……いいぞ……