225 よき友達
クラスメイトの妙な気の回し方で自分が両親のところに注文の品を運ぶ事になったのだが、門脇が何故か両親に捕まっていた。
表情からして和やかに話しているようだが、周としては変な事を吹き込まれていないか心配で仕方ない。
ストッパーの修斗が居るので今後に影響しそうな事を暴露されているとは思わないが、修斗も天然なので余計な事を言っていないとも限らないのだ。
トレイの上に載せた品を揺らさないように、且つ素早く移動した周は「ご注文の品です」と抑揚なく告げた後テーブルに置く。
何やってるんだ、という眼差しを隠さずに両親を睨むと微笑み返されたので、全く効いていなそうである。
門脇は周の姿にぱちりと瞬きをした後、穏やかな笑みをたたえた。
「藤宮」
「何してるんだ……」
「おひやを用意するついでにご挨拶をと思って」
そういう彼は水と氷が入ったボトルを手にしているので、言っている事は嘘ではないだろう。
「それにしても藤宮のお母様は美人だなあ」
「あら、お上手だこと。優太くんも修斗さんには負けるけど男前ねえ」
「あはは、光栄です」
さりげなく門脇の名前を呼んでいるので、周としてはいつの間に仲良くなったと冷や汗ものなのだが、三人とも周の焦りには気付かないのか和やかなムードだ。
「うちの子と仲良くしてくれてありがとうね。この子、ぶっきらぼうでちょっと口が悪いでしょう?」
「そんな事はないですよ。確かに笑顔を浮かべる事は少なかったですけど感情表現はしっかりしてたし、言葉遣いは少し尖っていても誰かの悪口を言う事は決してない、優しくていいやつだと思っています。それに、最近はすごく優しい顔ばっかりしてますよ。椎名さんのお陰だと思います」
「まあ……」
「お、おい頼むからやめろ。恥ずかしい」
「え、本当の事だし……」
「本当の事かどうかは置いておくが本人の目の前で言うな」
門脇は茶化す事はないので、おそらく本気で思って本気で伝えているのだとは思うが、目の前で、それも両親に向かってそういう事を伝えられるのは、恥ずかしくて仕方がない。
樹も修斗と似たようなやり取りをしていたので、今日はとことん友人に羞恥を体感させられる日なのだろう。
「でも、藤宮はちゃんとまっすぐに見て評価しないと受け取りにくいからさあ。たまにはいいだろう?」
「よくない。それなら両親に言わず俺に直接言われた方がいい」
「そうかな。いつもありがとう、藤宮と友達でよかったと思ってるよ」
「……どうも」
邪気のない笑顔で言われては拒否する事も出来ず、呻くように返事をすれば様子を見ていた両親が朗らかな声を上げる。
「仲がよさそうで何よりだよ」
「うるさい。門脇は仕事に戻ってくれ」
「そうだね。お時間いただいてすみません、また今度」
また今度、という言葉に恐怖したが、門脇はにこにことしたままボトル片手に戻っていく。
周は、今日一番の疲労感を背中に乗せられてぐったりとしていた。
「周は友達に恵まれているね」
「ああそうだな……」
もう疲れて抗う気力すらなく、修斗の嬉しそうな言葉にはなげやりに返事をする。
実際友達に恵まれてはいるが、それはそれ、これはこれ。こんなにも恥ずかしい思いをさせられて、素直に喜べる筈がない。
ふてくされたような顔をする周に修斗は苦笑しながら、テーブルの上のコーヒーを手に取る。
「まあ周には余計なお節介かもしれないけど、心配してたんだよ。こうして地元を離れて一年半だけど、上手くやっているようでよかった」
修斗は修斗なりに気を使って周の周りの事を確認していたようだが、それでも周としてはあまり友達にちょっかいをかけるのはやめてほしいところだ。まあ、その友達の方から二人に近付いているのだから、どうしようもないのだが。
「クラスにも打ち解けているようだし、むしろ椎名さんと一緒に微笑ましく見られているみたいだし」
「今日のは絶対二人のせいだと思うんだけど」
「それはすまないね。まあ、今更だと思うのだけど」
「うるせえ」
最近は真昼と居るだけで微笑ましそうに遠くから見守られているので、ある意味今更なのかもしれないが、それでもそういった類いの視線を受けとりたい訳ではない。
のほほんとした修斗に鋭い視線を向けてもにこにこと柔和な笑顔が返されるので、周はやってられないとそっぽを向いた。