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215 ライブ

 流石に混んでいるのに長話をする訳にもいかないので、ほどほどなところで会話を切り上げ喫茶店を出たところで、行き先はどうしたものかと吐息をこぼす。


 文化祭は十六時まで。あと一時間半ほどで閉場となる。

 そこからは売り上げの集計、報告やら翌日の準備やらでまた忙しくなるので、それまでに文化祭を楽しんでおきたいが、めぼしいところは既に訪ねていた。


「真昼は他にどこか行きたいところある?」

「そうですね……ある程度見回ってしまいましたし。少し体育館のステージの方に行くとか?」

「ステージか。今なにやってたっけ」


 文化祭では午後からステージの部があり、有志の生徒が色々と出し物をやっている。周の記憶ではライブや演劇がスケジュールに書いていた筈だ。

 パンフレットを見てみると、現在は軽音楽部がライブをやっているらしい。


「今はライブだってさ。興味ある?」

「あまり音楽を聴かないので、折角なら」

「真昼はあんまBGMかけないし、かけても洋楽ばっかだからなあ」


 流行には敏感な真昼ではあるが、あまり音楽には詳しくない、というより本人の好みにより流行っている邦楽より一昔前の洋楽を好んで聴いている。

 よくテレビに出る有名な男性アイドルも、顔と名前が一致する程度の知識らしい。


「まあ真昼が気になるならいこうか。俺も気になるし」

「そうですね」


 特に回りたい店がなかったので、興味と時間潰しを兼ねて周は真昼の手を引いて体育館に向かう。


 体育館は既に照明を殆ど落とされており、機能している照明はステージを強く照らし上げている。

 体育館の外からでも音が聞こえていたが、中に入るとずっとその音が強く聞こえた。お腹に響くような音にくすぐったさを感じつつ、他の観客の迷惑にならないようにそっと扉を閉じて空いている所にすっと入り込んだ。


 顔を上げれば、現在は有志のグループが曲を披露すべく壇上に立っていた。

 その中に見知った顔があったので、周は瞳を細めて彼の顔を見る。

 スタンドマイクの前に立っているのは、周が朝からよく見た顔である。


「……え、門脇じゃん。あいつ出るとか言ってなかったぞ」


 カラオケに何度か一緒に行った事があるので、歌の上手さは周もよく知るところなのだが、まさかこうしてステージに立つとは全く思っていなかった。噂も聞いていなかったので、尚更。

 部活に加えてこの文化祭準備もしながら舞台に立つバイタリティには驚きである。


 ただ、門脇自身はあまり目立つのが好きそうではないので、意外だった。


「門脇さん、何でも出来ますね本当に」

「真昼が言えた台詞ではないな」


 感心したような真昼だが、そういう真昼も基本的に何でも出来る。勉強も運動も家事も出来て、且つそれが高水準にまとまっているのだ。真昼ほどよく出来た人間は中々に見ない。


「……私にだって出来ない事はありますよ」

「たとえば?」

「……泳ぎは」

「それはまあ。結局泳げないままだったからな」

「一日で泳げるようになると思うなら認識が甘すぎます。私がどれだけ練習しても上達しなかったというのに……」

「ごめんて」


 泳げないまま、という言葉が不服だったのかぽこぽこと二の腕に拳を軽くぶつけてくる真昼に苦笑しつつ、視線をステージに戻す。


 目立つのが好きではなさそうだが、目立つ事そのものは慣れているらしい門脇は、たくさんの観客を前にしても臆した様子はなく、実に堂々としていた。

 柔らかい笑顔を浮かべて緩く手を振ってファンサービスにも応じる辺り肝が据わっている。


 それから、偶々前の方が空いていて視線が通りやすかったせいで周と視線が合って、彼の頬が微妙にひきつった。

 どうやら来ているとは思わなかったらしい。


 後からまた話を聞こう、と誓いながらひらりと手を振れば、ぱちくりと瞬きをした後に先程とはまた違った笑みが浮かぶ。

 その笑みに女生徒が黄色い声を上げたので、そこは相変わらずだなと周も真昼も思わず笑いをこらえきれなかった。

レビュー有難うございます(´ワ`*)

クリスマスイブですがSSはないです。本編でクリスマス書くので許してください。

……毎日更新がクリスマスプレゼントという事でここはひとつ。

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表紙絵
― 新着の感想 ―
[一言] もう、かわいいの塊ですね。(砂糖の塊) この小説となら、ブラックコーヒーでも飲めそうです。
[一言] 門脇ぃ~~! 最高のクリスマスプレゼントや!
[一言] やっと追い付きました! とても面白くて、ニヤニヤしちゃいます!
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