214 いじわるは御免です
照れた真昼の頬が落ち着くのを待ちながらコーヒーを飲む周だが、周囲を見て評判というのはよく客を呼ぶのだなと痛感した。
一応席は多目に作ったつもりではあったが、席が空くのを未だに見ていない。周達がシフトに入っている時もそうだったが、客足が途絶えず常に満員状態だ。
恐らく贔屓目抜きに一番の目的にされそうだった真昼や門脇がシフトから上がっても尚客が押し掛けてくるのは、やはりというか服装のお陰だろう。
普段は制服に身を包んでいるうら若き男女がこうして給仕服に身を包んでいるのは、どうやら胸に来るものがあるらしい。
周としては、非常に見慣れないな、という感想くらいなのだが。
たとえば千歳なんてこうして相手に奉仕するような服装を着た姿なんて想像出来なかった。
にこやかな笑顔を振り撒きながら客の相手をしている千歳をちらりと見てみるが、服装から想像されるような甲斐甲斐しさは見受けられない。ただ、活発で人好きするような雰囲気は、丈の短いメイド服に合っていてこれはこれでありなのだと思う。
「……千歳さんがどうかしましたか?」
元気有り余ってるな、と眺めていたら、どうやら羞恥を内側に納める事が出来たらしい真昼が不思議そうに声をかけてくる。
「ん、いや……一緒に働いてる時はあまり実感なかったけど、クラスメイトがこういう衣装着てるの違和感あるな、と。見慣れた筈なんだけどな」
「ふふ、こういう服なんて滅多に着るものじゃないですからね」
「物珍しさも客が入る要因なんだろな。それに、可愛い格好いいってお客さんも言ってるし。まあ実際みんな似合ってるからな」
客席は生徒と一般客が入り混じっているが、大半が店員目当てなのか誰が可愛いだの格好いいだの品定めしている声が聞こえる。
気持ちは分からなくないのだが、聞こえているので店員は苦笑いをしていたりする。
視線を店員達の奮闘の様子に滑らせてから真昼を見ると、彼女はなんだか眉にほんのりと力が入ったような表情を浮かべていた。
「どうかしたか?」
「いえ。……周くんも、皆さん……というか、その、彼女達を可愛いと思いますか?」
「普通に思うけど」
真昼が言いたい事は何となく察してきたので、口許を曲げた指の関節で軽く隠すように笑う。
「美醜での判断としてや言動での可愛いは俺にも感じるよ。でも、好きで愛でたい可愛さは真昼にしか感じないから安心してくれ」
「……そ、そういう事をまた言う……」
「真昼が説明してほしそうだったから。言わないと妬いたままだろうし」
今回は他人に聞こえないように小さく囁いた周に、真昼はぐぬぬと唇をきゅっと閉ざして、それからまた恥じらいに瞳を伏せる。
「……不安になる私が馬鹿みたいです」
「毎度確認してくれていいけどな、真昼が納得して満足するまで」
「それをしたら確実に私が恥ずかしくなります」
「その姿を愛でたら真昼としても満足するのでは?」
「私を死なせる気なのですか」
「大袈裟な」
「大袈裟ではないです。いつも周くんに心臓をいじめられているというか……私に負担が大きすぎます」
「嫌なら」
「嫌ではないですけど……その、お手柔らかにお願いしたいというか」
もじ、と肩を縮めた真昼に、そういう事を言われるとしたくなるんだよなあ、とは思ったが、あまりやり過ぎると拗ねるので加減しなければな、とも思う。
とりあえず「善処する」と返せば、ちょっぴり不服気味な眼差しで睨まれた。信じてもらえていない気がする。
「……次いじわるしたら、私がいじわるしますからね」
「それは興味あるな」
「……わざとしたら口利きませんからね」
ぷい、とそっぽを向いた真昼があまりに可愛らしくて思わず笑みをこぼせば、真昼は不機嫌そうに周のクッキーを奪って更に顔を背けるのであった。





