204 忙しいシフト
短め。
あとがきにお知らせがあります。
予想通りと言えばいいのか、開店当初から客……主に生徒が周のクラスにやってきていた。
「天使様効果こわい」
そう呟いたのはクラスメイトであり同じシフトの接客担当男子山崎だ。
開始数十分で席が埋まるという学生の催し物としては珍しい光景に圧されているのだろう。というより客の熱意に、が正しいのかもしれないが。
飲食店で流石に一気に客をさばける訳がないので店内に入る客も限られているとはいえ、この盛況具合はたじろぐのも仕方ないだろう。
真昼が通路を通る度に男性の視線が吸い寄せられるので、周としては呆れやら感心やら不愉快やらで顔が歪みそうになっている。
分かりきってはいたので諦めてはいるものの、面白くないものは面白くない。真昼からしてみれば周にも同じ事が言えるらしいのでお互い様ではあるだろうが。
「まあ予想していた事だからな。それより客がきたぞ」
山崎を窘めつつ、新たに入店してきた客を席まで案内する。
基本的に手の空いているスタッフが対応するのだが、担当スタッフを指名しようとする客が居るから困ったものである。そういったサービスは行っていないので、ほしいなら専門店を訪ねて欲しいところだ。
ただいま接客している女生徒は恐らく門脇目当てであろうから申し訳なさがあるのだが、今門脇は他の客の接客をしているので周で我慢してもらう事になる。
「お客様、どうぞおかけになってください」
椅子を引いて木戸仕込みの微笑みを向けると、門脇でなくてちょっと残念そうにしていた女生徒がハッとなったようにこちらを見てくる。
やはり目当ての人間でなくて申し訳ないな、という気持ちを抱きつつ荷物用のかごを案内して、メニューを女生徒の前に置く。
「当店本日のおすすめメニューはこちらのAセットとなっております。いかがでしょうか」
「じゃ、じゃあそちらを……」
ちなみにおすすめメニューと言いつつメニューは焼き菓子とドリンクを組み合わせたABCの三種類しかない。ドリンクだけで居座られると困るのでセット販売になっている。
アレルギーは事前申告するようにと受付の人が注意を促しているので問題はない筈だ。
ややためらいながらも注文をしてくれた女生徒に「かしこまりました、ご注文の品が出来るまでお待ちください」と丁寧な仕草で一礼して裏方の方に伝えに行く。
「A一つ。注文詰まってきてるから頑張れ」
裏では菓子を皿に盛り付けたり借りている調理室の一画と教室を行ったりきたりしているクラスメイトが居て、たまたま手が空いていたクラスメイトがのろのろと顔を上げる。
「おー……受付の方見たらやばかった」
「しぬなよ」
「最初から用意出来てるものが多いからなんとかなるけどさあ」
「なんとかなるけど?」
「……お前らが後で大変そうだなーって見てて思う」
「そうか? まあ、門脇は引っ張りだこでこれから更に忙しくなると思うけど」
「そうじゃないんだよなあ」
ため息をつかれたが、具体的に言わないのでよく分かってはいないがそこまでこまるようなものでもないだろう。
意味分からん、という眼差しを向ければ逆に憐れまれた。
「……あと、さっきから椎名さんが裏に来る度微妙に不服そうな顔してたぞ」
「何でまた」
「お前のせいだと思うけど」
「接客ばかりは仕方ないだろ」
「それもあるけど多分そうじゃないんだよな」
「さっきから何が言いたいのか分からん」
何だか遠回しに責められているような気がするのだが、いまいち理解出来ずに眉を寄せる。
恐らく真昼はやきもちをやいている、という事なのだろうが、彼の言い方からして他に何か別の事で拗ねているようにも聞こえる。
後で真昼に聞いてみよう、と決めつつ、適当なところで会話を打ち切って用意された品をテーブルに運ぶ事になった。
という事でお知らせなのですが、なんとお隣の天使様コミカライズ&続刊決定となりましたー!
やったね夢のコミカライズだぜ!
詳しくは活動報告に書いてますのでよろしければそちらをご覧くださいませ。
今後ともお隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件をよろしくお願いいたします!