202 小さめのやきもちと心配
文化祭で喫茶店というのは中々手間のかかる出し物であったが、周が思うよりもずっと順調に進んでいた。
服を貸し出してもらえた、というのが一番大きいだろう。この問題を乗り越えられたからこそ喫茶店を開ける事になったのだ。
あとは内装と客に出す品だが、内装は教室の机や椅子を利用しつつ綺麗に見せる程度なので問題はない。
他に用意が大変なのが、提供する飲食物であった。文化祭は二日あるので、その分を上手く見越して衛生に気を付けながら用意しなければならないのだ。
といっても、今回はそう大変なものではない。衛生的な観点と手間の問題から、市販品を大量購入して提供する事になった。
周達のクラスの出し物はメイドと執事の居る喫茶店。メインはほぼ店員の外見と雰囲気を楽しむものなので、ここばかりは妥協せざるを得なかった、というのが正しい。
家庭科室の使用申請の待機クラス数を考えても、市販品の提供は英断だったと言えよう。
「まあ飲み物はちょっと本格的にするんだけど」
茶目っ気溢れる笑顔にウィンク付きで告げるのは、実行委員長でもある樹だ。
コーヒーは伝があると専門店で格安で仕入れさせてもらった樹は、上機嫌そうに笑って挽いた状態の豆が入った袋をぽんと叩いた。
本来は挽きたての方がいいが、流石にそれは高校生の模擬店では手間的に不可能なのであらかじめ用意したものとなる。紅茶用の茶葉もしっかりと用意されており、提供物に関しては準備万端といったところだ。
「思ったよりよく出来たよね」
飾りつけがほぼ終わった教室を見渡しながら、千歳が小さく呟く。
内装は元が教室なので限度はあるが、教室の勉強机を誤魔化すようにかけられたテーブルクロスやクッション、ロッカーの上に飾られた小物が雰囲気を醸し出している。
本格的なものとはとても言えないが、学生の催し物としては充分だろう。そもそもメインは衣装を身にまとった生徒なのだから。
「そうだな。これだけ出来ていれば充分だと思う」
「そうですね。カーテンや小物類だけでも結構変わりましたし」
「中々いい仕事してくれたよな。このカーテンなんか雰囲気バッチリだよ」
借りてきた金色の飾り紐がついた豪奢なカーテンを指差すと、小さく「汚したら大変そうだけど」と千歳が呟く。
カーテンの側にはあまり席を置かないようにしているが、もし汚したらクリーニング代が大変そうである。
「ま、これだけすればいいでしょ。あとはお客さんが来るのを祈るのみだね」
「……椎名さんがメイドやってるって時点で入れ食いな気がする。むしろ椎名さん目当てで溢れそう」
「俺の彼女は餌じゃないんだけど。それに、他の女子も衣装似合ってたんだし、真昼だけが目当てってのは失礼だと思うぞ」
真昼しか興味がないとはいえ、客観的に見てメイドの衣装を着る女子達は見目整っているし、似合っていた。確かに贔屓目抜きにしても真昼は群を抜いて可愛らしいが、真昼だけが似合っているという訳ではない。
「いっくんは今の周の発言を見習ってもいいと思う」
「いて、いてて、ちぃも可愛いから」
「とってつけた褒め言葉ー。もっと褒めてくれないとこの前話してたところのアフタヌーンティーコースの刑だよ」
「あそこ高いから!」
「リアルに一つのテーブルに一人バトラーがつくらしいからいっくんは見て学ぶといいよ」
「色々と勉強代が高い!」
わちゃわちゃと仲良くデートの計画を練っている友人二人は置いておき、隣で静かにしている真昼を見る。
何故か、真昼は微妙そうな顔をしている。
「真昼?」
「……周くんは、私の事……い、一番、可愛いって、思ってくれますか?」
「急に何だよ。さっき他の女子褒めたの気にしてるのか。……当たり前の事を聞かれても。俺にとって、一番似合ってたし可愛いよ」
「は、はい」
周にとって真昼が特別なのは前提だったのだが、やはり真昼的には気にしてしまうらしい。
どうやらちょっとしたやきもちをやいてくれたらしい真昼には小声でしっかりと称賛すると、真昼もそれだけで納得してくれたのか嬉しそうに口許を綻ばせていた。
学校なのでくっついてくる事はないが、はにかんで服の袖をちょこんと摘まんでくる。そんな仕草すら人目を惹くのだから、自分の彼女の可愛らしさに今度は周が小さなモヤを胸に抱える羽目になった。
(……当日はもっと視線を集めるんだよなあ)
今はクラスメイト達の、それも複雑ではあるが生暖かい視線だから、まだいい。
問題は、文化祭当日だろう。
不躾な視線を送る人間や弁えない人間も出てくる事が予想される。
(なるべく離れないようにしよう)
そのためにシフトを同じにしてくれたらしい樹達にはひっそりと感謝をしつつ、口許に照れた笑みをたたえる真昼と揉めつつも仲睦まじそうな樹と千歳の二人を交互に見て、小さく苦笑いした。
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