181 休み明けテストの結果
次の週には、夏期休暇明けテストの結果が出ていた。
予想通り、いつもと変わらず真昼の名前は一番最初に載っている。それを誇るでもなく静かに見つめていた真昼は、周の視線に気付いて淡く微笑んだ。
若干よそ行きの天使の笑顔であるが、その眼差しは強い信頼の愛情が込められているのは、見える。
「ん、一位おめでとう」
「ありがとうございます」
「いっつも頑張ってるから成果が出続けてるんだよなあ、えらい」
日頃から周の世話を焼いているのにも関わらず一位を取って余裕の見える態度は、自分が今まで培ってきた知識とたゆまぬ努力に裏打ちされたものだろう。
周と過ごしている時もよく参考書を解いていたり暗記カードを眺めていたりするので、周が見ているだけでも勉強に手を抜いた様子はない。
「そういう周くんこそ、今回は五位でしたね」
「ありがたい限りだ。真昼の教え方が上手いお陰でもあるよこれは」
「ふふ、お褒めいただき光栄です。周くんは飲み込みが早くて教えるのも楽しいです」
「そりゃどーも。……普段の生徒はどうなんだ」
「やる気が出た時の集中力は目をみはるものがありますけど、普段はその、苦手意識が先に出てしまうみたいで」
「千歳らしい」
ちなみに千歳は真ん中辺りに居たので、お手製のプリントが役に立ったようだ。
樹も普段より順位はよく、いつもより二十位ほど上がっていたので彼の努力が見える。普段は飄々としつつも何だかんだやれば出来るタイプの男なので、今回はそのやる気が仕事をしたのだろう。
「とりあえずこれでしばらくは一安心ですね」
「帰ったらテストの答案持ち寄って反省会だなあ。どっかミスってたみたいだし、癖にならない内に訂正しておきたい」
「そうですね。実に勤勉でよろしいです」
「そりゃ隣に立って恥ずかしくない程度にはなっておきたいんでね」
基本的に、周は運動神経に優れている訳でもなければ樹のような天性のムードメーカーでもない。顔はまあまあ整っているが、真昼のような神の恩恵を得たような美貌と釣り合うかと言えば否だ。
周と真昼間ではお互いに好き合っていて中身が好きだからこそ付き合っているが、他人からすれば納得のいかないものである。
だからこそ、少しでもうるさい外野を黙らせるために、そして隣に立って胸を張れるように、出来る範囲で努力している。勉強はその内の一つだ。
「それに、まあ、成績いい方がチャンスはあるしなあ」
「何のですか?」
「んー。将来的に自分の望む就職が出来るように?」
成績だけが全てではないが、成績がよければ成績がふるわない人間よりも自分に合う環境に行ける機会が増える。
親が勉強していい成績を取れというのは、つまるところ選択肢を増やすために促しているのだ。将来したい事が出来た時にそのしたい事に手を伸ばせるか、先んじて自分の手札を増やしておけばあとで苦労も後悔もしなくて済む。
周の両親は周が比較的自発的に勉強するし成績がよい機会に繋がると理解しているので最低限の注意しかしないが、それでも「チャンスを掴むため、手繰り寄せるためには勉強はしておいた方が後悔しない」と周に言い聞かせていた。
「なるほど。現実的で計画的ですね」
「まあそれは真昼もだろうけど。それに、俺はほら……男だから」
「はい?」
「支えたい相手に金銭的にも養われるなんてあっちゃプライド的に駄目だからなあ」
生活的には養われる気しかしないが、流石に真昼に金銭面でも一方的に養われたりしたらちっぽけなプライドがズタズタになりそうである。
出来れば、真昼を養って余りあるくらいには稼ぎたいものだった。
周が何を言いたいのか理解したらしい真昼がほんのりと頬を染めて「そ、そうですか」とぎこちなく返すので、周はつい笑ってしまった。
「相手が優秀すぎるから俺も頑張り甲斐があるよ」
「う、ご、ごめんなさい……?」
「いーや、真昼は真昼らしく居てくれたらいいので。これは俺が勝手に頑張る事だから」
「……じゃあ勝手に私も応援しておきます」
小さく笑って「まずは反省会ですね」と軽く周の裾を摘まんだ真昼に頷いて、周は真昼を伴って教室に戻った。





