177 HR後
夏休み明けの登校日なので、全校集会を終えて担任によるクラスでの連絡が終われば、そのまま帰宅出来る。
というのも、翌日にはテストが控えているせいなのだが。
「テストしたくないー」
解散になった後樹の席にやって来て机に突っ伏した千歳は、心底嫌そうに呟く。
「そうか? 日頃から勉強やってれば復習って程度だし、考査期間中は早めの帰宅が出来るから割と楽なんだけどな」
「それは周とかまひるんみたいな優等生の発言ですー、一般的にはテストは嫌なものですー。ねーゆーちゃん」
「あはは。まあ、どっちの気持ちも分かるかなあ。俺としては、部活がないから寂しくもあり体を休めて気楽でもあるね。テスト自体に思う事はあまりないかな」
「くっ、ゆーちゃんも何気に優等生だった……」
陸上部のエースとして活躍している門脇だが、完全な体育会系という訳ではない、寧ろ勉強は出来る方だ。上中下で言えば上の分類になる。
千歳は帰宅部ではあるが元陸上部であり頭を使うより体を動かしたい派なので、机に向かう日頃の努力が物を言うようなテストは苦手らしい。そもそも、勉強が好きではない、というのが一番の理由だろうが。
「いっくーん、みんながいじめる」
「そんな事言われてもなあ。まあ、頑張るしかないぞ、ちぃ」
「いっくんの裏切り者。夏休みこそこそ勉強してるし」
「流石にあんまりな成績だと自由にさせてもらえないからなあ」
からりと笑った樹は、親からもっと成績を上げろとせっつかれていると聞いた。
樹は元々要領がいいし地頭もよいのだが、千歳を優先しがちなので平均的な成績に収まっている。それが樹の父親には気に入らないのだろう。
こいつの家庭も色々大変だよなあ、と同情しつつ帰宅の用意をしていると、既に用意を済ませたとおぼしき真昼が鞄を手にこちらに向かってきていた。
「すみません、お待たせしました。先生とお話ししていて……」
「いいよ、樹達と話してたし。千歳が明日のテスト駄目だーって嘆いてるだけだったけどな」
「それは私にもどうしようもないですね」
「見捨てられた!」
「流石にテスト前日で範囲の内容を全部覚えるというのは無謀というか無理ですので……何のために長期休暇があったのか、という話にもなりますから」
ごもっともな発言に、一度顔を上げて真昼を懇願するように見ていた千歳は、もう一度机に突っ伏した。
これは自業自得なんだよなあ、と哀れみの視線を千歳に投げる。流石に、周も千歳の記憶力と日頃の努力の問題をどうにか出来る訳がない。
ただ、気遣いつつもシビアな発言をした真昼は、困ったように微笑みながら鞄の中からクリアファイルを取り出し千歳にファイルごとそっと手渡す。
「多分こうなると思っていたので、テストに出るであろう重要な所だけまとめたものがこちらになります。赤点は免れると思いますよ」
「まひるん天使!」
「それやめてくださいとあれほど……」
飛び起きて真昼に抱き付いた千歳に、真昼は苦笑している。
ちなみにテストに出そうな要点をまとめたプリントの作成には、周の手も入っていた。
テストを作成する教員の癖を理解している周と真昼が話し合って要点且つ出しそうなところをピックアップしている。教員の癖というヤマが外れたら申し訳ないが、それでも確実にテストに出そうな所を選出しているのでまずまずの点数は取れるだろう。
「周くんもお手伝いしてくれましたので、私だけでなく周くんにもお礼を言ってくださいね」
「周……」
「何だよ」
「生クリームほっぺにつけたまま夢中でクレープ頬張るまひるん画像とホラー映画鑑賞してぷるぷる涙目のまひるん画像どっちがいい?」
「千歳さん!?」
「どっちもかなあ」
「周くんまで!」
いつの間にか撮影されていた事に眉を吊り上げて顔を赤らめている真昼に、周もついつい笑ってしまう。
「冗談だって」
「……本当に?」
「まあもらえるならもらうけど」
写真そのものに罪はないし、友人に見せる真昼の可愛い姿を収めた写真がもらえるというのなら喜んでもらうだろう。
周の言葉に真昼は不服そうな顔をしているが、千歳がけたけた笑っているので周に怒りは向かず、千歳に「千歳さんのばか」と拗ねたような声を上げていた。
「いやー、仲良い事はよき事なんだよまひるん。周が恋人の写真を欲しがるくらいに夢中って事だし」
「それはそれ、これはこれです」
きっぱり言い切ってぷいとそっぽを向いた真昼に周も千歳も笑ってしまって、更に真昼が拗ねてしまうのであった。





