161 合流
短め。
「おお浴衣」
祭りのある会場最寄りの駅まで向かうと、樹が早めに待っていた。
どうやら浴衣だとは思っていなかったらしく、周達の姿を見て感心したように目を丸くしている。
「数日ぶり。浴衣は母さんがどっちも送ってくれたやつ」
「はえー、志保子さんも用意周到だなあ。つーかエスパー」
「それは思った。まあ、ちょうどよかったから着させてもらった」
まるで二人が夏祭りに誘う事を事前に察知していたかのような荷物の中身だったので、ある意味感心した。
後でお礼も兼ねて真昼の浴衣姿の写真を送ろうと決めつつ、改めて樹を見る。
樹は普通にラフな私服であるが、デニムやシャツを適当に着るだけで決まっているので、イケメンとは罪深いものである。浴衣を着ればさぞ似合った事だろう。
「うんうん、美女の浴衣を見れて眼福ですなあ」
「ちょっといっくん、私はー?」
「ちぃはいつでもどこでも可愛いから」
「……パックしてたら腹抱えて笑った癖に」
「そんなちぃも可愛い可愛い」
「思い出し笑いしてるじゃん!」
べしべし、とやや強めに叩かれても肩を震わせて笑っている樹に、真昼も苦笑していた。
ちなみに周も実家に帰省した際顔にパックを貼った真昼を見た事があるが、おかしいとか面白いというより美を維持するのも大変なんだなあ、偉いな、と感心した記憶がある。
その時周までパックの餌食にされそうになったので、流石にお断りしたが。
この顔も頑張って綺麗に整えているからなんだよなあ、と真昼の頬を指の背で化粧を落とさない程度に撫でると、真昼がくすぐったそうに笑う。
それだけでこちらを見ていた周囲の人間が息を飲むのだから、自分の彼女は本当に美人なのだと改めて思った。
「彼女が可愛いと目立つなあ」
「いや二人が並んでる時点で目立つんだよなあ……」
「まあ、夏祭りだからって浴衣を着てくる人間が少ないし、必然的に目立つだろうよ」
「いやまあそうなんだけどそうじゃないというか……まあいいけどさ」
これだからお前は、と肩を竦められるが、周はスルーして真昼をそっと寄せる。
周囲に自分のものだぞ、という牽制を込めての行動に真昼はぱちりと瞬きを繰り返すが、意味が分かったのかうっすらと頬を染めて機嫌よさそうに自ら周の腕にくっついてきた。
真昼の様子に千歳も樹もにやにやと笑っているが、本人は構わず周に寄り添っている。
「私達も負けてらんないねえ、そーれ」
「はっはっは、近う寄れ」
ノリノリで対抗するようにくっついた二人に苦笑しつつ、ぴとりとひっついた真昼を見下ろす。
上目使いになった真昼が信頼に満ちた瞳をしているので、周もそれに応えるように側にあった小さな掌を握る。
「じゃ、そろそろ行くか? 突っ立ってても仕方ないし」
「もうお祭りも始まるもんね。よーし食べるぞー」
色気より食い気な発言をしつつ樹の腕にくっついて元気よく手を挙げた千歳に樹も笑い、祭り会場の方に体を向けて歩き出す。
周も一度真昼の瞳を見て笑い、真昼の手をしっかりと握り締めて彼らの背を追った。
レビューいただきました、ありがとうございます!
発売まであと五日ですよ((((( °ω° )))))





