16 エプロンと手料理は男のロマン
21時に本日最後の更新します。
真昼が周の家で料理をするという事になって、真昼は周に条件を出した。
・費用は材料費折半に加えて人件費という事で+α周が払う。
・用事があり食事を共に取らない場合は前日までに連絡。
・買い出しと後片付けは分担して行う。
最初の人件費については、時間を奪う事に対して申し訳なさが勝った周が言った事で真昼に譲歩してもらった形だが、その他は特に揉める事なくすんなり決まった。
作ってもらうにあたって当然の事だったので悩む事はなかった。
という訳で取り決めを行った翌日、早速真昼がスーパーの袋片手、否両手に抱えてやって来て調理の準備をし始めたのだが。
「……本当にろくに使った形跡ない新品ですね……」
「うるせえ」
家にエプロン姿の女子が居る、という男のロマンが具現化したような状況の中、周はなんともいたたまれない気分を味わっていた。
髪を一つに結った真昼の姿が新鮮だった、というのもあるが、キッチンがほぼ未使用に近い事を改めて指摘されて気まずいというのが大きい。
「いいもの揃えてもらってるのに宝の持ち腐れ」
「お前が使うから腐らないだろ」
「結果論ですね。折角の調理器具が泣いてます」
「じゃあお得意の料理で泣き止ませてくれ」
俺には無理だ、と潔く認めれば呆れた表情を返されるものの、それも想定済みだったのかため息だけで文句は言わないようだ。
「で、作りますけど調味料あるんですか」
「あるぞ、馬鹿にしてるのか。保存方法と賞味期限もばっちりだ」
「あら意外」
「封を開けていないからな」
大体、未開封のまま冷暗所保管していたので、心配はないだろう。
買ったのはいいものの使う機会に恵まれなかった、というかキッチンに立つ事がほぼなかったので結局未使用だったのだ。調味料も真昼という料理人に使われて本望だろう。
「それ威張る事ではないですからね。まあ、足りなければうちから一旦持ってきて使いますけど」
「助かる」
「ひとまずは基本的な調味料があればなんとかなるでしょう。あと、今日の献立は独断で決めましたがいいですか」
「俺はあんまり詳しくないし食えればいいからなんでも。好き嫌いないし」
「そうですか。じゃあ早速作りますけど……調味料の場所とか教えてください」
「このかごに入ってる」
「……本当に未開封ですね……」
調味料をまとめていたかごを眺めてあきれたように眉尻を下げていたものの、先に言っていたのですぐにいつも通りの表情に戻って水道で手を洗い始めている。
「じゃあ作り始めますので、あなたはリビングで待つなり部屋で待つなりしていてください」
「そうする。手伝える事ないし」
「本当に潔いというか……まあいいですけど。私も料理出来ないのにうろちょろされても困りますし」
「お前も明け透けだな」
「事実ですから。取り繕う必要もないでしょう」
真昼の言う通り明らかに邪魔になるので、周は素直にリビングに戻って真昼の背中を観察する事にした。
手を洗い終えた真昼が早速調理に取りかかっている。
何を作るのかは知らないが、用意されていた材料的には和食だろう。
あんなに美味しい料理を自宅で作ってもらえる、というのは何とも不思議な気分で夢なんじゃないかと思ったが、実際真昼が一つに結った髪を揺らしながら材料を捌いているので現実なのだ。
(……なんつーか、奥さん持った気分)
そういった感情は互いに持ってないのだが、あまりにもこの状況が家庭を持っているような風に見えて、つい想像してしまった。
別に真昼とどうこうなりたいとは小指の爪の先ほども思ってはいないが、美少女が自宅のキッチンに立つという状況自体にはいろいろと思うことはあったりする。
やはり、好意があるないとはまた別に、可愛らしい少女が手料理を振る舞ってくれる、というシチュエーションには周も胸に来るものがあった。
「……何か変な事考えてません?」
「妙な憶測はやめろ」
振り返らずに指摘してきた真昼に顔がひきつりかけたが、真昼が振り返る事はなかったのでばれはしない。
妙に鋭いなこいつ、と感心したりひやひやしたりしつつ、周はほんのり湧いた邪念未満の男心を捨てて真昼の背中を観察した。