159 祭りのお誘い
「今日夏祭りなんだけど折角なら行かない?」
夏休みも残すところあと一週間前となったところで、千歳がいきなり昼前に訪ねてきた挙げ句そんなことを言い出した。
「……あのさあ、そういうのってせめて前日に言えないもんなのか」
あまりに唐突すぎる。予定が入っていたらどうするつもりだったのだろうか。
そもそも夏祭りという事は外出するという事であり、外出するなら準備が要る。事前に言っておくべきだろう。
幸い、周も真昼も今日は予定を入れていなかったし、夕食のメニューも決まっていない。幾らでも予定は変更出来る。
「ごめんごめん、なんかいっくんから二人は忙しそうって聞いてて連絡遠慮してたらうっかり当日になっちゃって」
「それを言われると困るが、それでもそういうのは早めにいっておくべきでは? あと、今日いきなり来たのもどうかと思うぞ」
「ごめんって。一応まひるんには連絡いれておいたんだよ?」
「到着の十分前でしたけどね……」
千歳に冷えた麦茶を出していた真昼が苦笑しつつ付け足す。
真昼から急に「千歳さんが来るそうです」と困惑しながら言われたので、周も当然困惑した。突撃友人のお宅訪問は樹もやった事があったが、まさか千歳までするとは思うまい。
家に居ると確信していたからやってきたのだろうが、やはりもう少し早く言って欲しいものである。
キンキンに冷えた麦茶を美味しそうに飲んでいる千歳にため息をつきつつ、ちらりと真昼を見る。
真昼は別に祭りに行く事自体は異存ないようだ。
周としても、真昼は最近父親の件が影響してなのか微妙にテンションが低めなので、気晴らしに連れていってやりたいところだ。父親がまた接触してくるかもしれないが、存在を一時でも忘れさせてやれればと思った。
「まあ、行くのはいいけど……どうする真昼、浴衣着るか?」
「え? いえ、浴衣は生憎と持ち合わせていないので」
「いやその……あるぞ、うちに。多分真昼のサイズに合わせたやつ」
「何でですか」
「母さん」
志保子の存在を示すと途端に「ああ……」と納得するので、真昼の中で志保子は真昼に可愛い服ならなんでも着せたがる人間なのだという認識なのだろう。それで間違ってもいない辺りが笑えない。
先日帰省から帰って来た時に送られた荷物の中に、明らかに周の着るべきでない服が幾つも入っていたのだ。
『機会があったら真昼ちゃんに着せてね。写真もよろしくね』
といったメモと共に浴衣やら何やらが詰め込まれていて、呆れた覚えがある。
「え、まひるん浴衣着るの? みたーい!」
「お前は着ないのか」
「やだ。浴衣って可愛いけど動きにくいし帯とかでお腹いっぱい食べられなさそうだしー」
「それは千歳が食い意地張ってるだけなんじゃないのか」
「失礼な」
千歳はあまり窮屈な格好を好まない上によく食べてよく動くタイプなので、浴衣のような淑やかさが求められるような服は着たがらないようだ。
「そういや樹はどうするんだ」
「え、いっくんは普通に来るよ? 現地で合流する手筈になってる」
「もうそれ俺らが行く前提みたいな感じだな……」
「ふふ、まひるんなら断らないかなって」
「俺らの都合を気にしろよそこは。特に用事なかったけどさ」
「ごめんごめん」
反省してなさそうな千歳に瞳を細めてしまったが、仕方ないだろう。
まあ、樹には数日は用事がないとメッセージで言っていたので、そこから誘う事を決めていたのだと思う。
流石にアポは取ってほしかったが、気分転換も大事だとは思うので、今回は千歳の誘いもありがたかった。
「んで、真昼はどうする? 浴衣着たい?」
「……私だけ浴衣って目立ちません?」
「別に真昼だけが嫌なら俺も着るけど……」
「えっ、あるんですか」
「ちゃっかり母さんが一緒に入れてたんだよなあ」
おそらくこれで祭りにでもいってこいという配慮だったのだろう。真昼の父親の件ですっかり夏祭りの有無を調べるのを忘れていたので、今思えば千歳の誘いはベストタイミングだったかもしれない。
周も浴衣、という言葉に急にそわそわしだした真昼に、周としては男の浴衣なんか見ても楽しいもんではないと思うんだがな、と内心で呟く。
卑屈になる訳ではないが、女性の浴衣姿には華があるが、男性にはない。雰囲気は出るだろうが、鑑賞するほどのものでもないと思う。
ただ、真昼は見たいと言わんばかりにちらちらとこちらを見てくる。可愛い彼女たっての希望なので、浴衣を着る事自体は受け入れてもいい。折角真昼の隣に並ぶなら浴衣の方が多少は見映えもするだろう。
「まあ、真昼が見たいなら着るけど」
「み、見たいです」
「即答。いいけど、あんまり期待すんなよ。俺のは普通の浴衣だから」
紺の無地に小豆色の帯のシンプルで控えめな色合いのものだったので、特に目立つ訳でも映える訳でもない。
それなのに真昼は期待するような眼差しを向けてくるので、周も苦笑して「まあなるべく似合うように着るよ」と言って真昼の頭を撫でるのだった。
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