157 覚悟のささやき
前回のおまけ的なお話なので短め
「……それでさ、もし、あの人を見かけたら、俺はどうしたらいい?」
真昼が周の胸にもたれているので掌で優しく頭を撫でつつ問いかけると、ゆっくりと顔を上げた真昼が静かな瞳でこちらを見つめる。
その表情にショックや苦しみなどは含まれていないので安心しながら見つめ返すと、真昼は見つめられた事に少し困ったようで眉を下げた。
「……別に、私は周くんが好きにしたらいいと思います」
「真昼がどうこうしてほしいとかはないのか」
てっきり関わらないでほしいものかと思ったのだが、真昼はゆるりと首を振った。
「別に……私と一緒に居る時に会ったとか私一人の際に話しかけられたならともかく、周くんが一人でその男性と出会ったというなら私はその対応にはとやかく言いません。流石に報告はしてほしいですけど」
「……そっか。真昼は関与しない、って事だな?」
「はい。……私に言いたい事があるなら、アポを取って直接言いにくるなりメールで連絡するなりすればいいのに、隠れて様子を見ているなんて変でしょう。自分から接触しないなら、私からアクションを起こす事はありません。放置します」
真昼は父親らしき人物の存在が気になってはいるようだが、わざわざ自分から接触しにいくという事はしたくないようだ。周が真昼の立場でもそうしただろうが、父親という事がほぼ確定しているのに無視を決め込む辺り、真昼と親の確執が深い事が改めてよく分かった。
もぞりと周の胸に顔を埋め直して甘えてくる真昼に、周は「そっか」とだけ返して、真昼の膝裏と背中に手を回して、自分の腿に横向きに乗せる。
びっくりした真昼の表情に小さく笑って宥めるように額に唇を押し付けると、すぐに顔を真っ赤にして隠れるようにまた胸に顔を埋める。
今回は照れ隠しの意味合いが大きいのか、若干勢いが強くべしべしと額を頭突きするかのように押し付けてきているので、そこも愛らしいなとつい笑ってしまった。
「……まあ、俺はさ、真昼じゃないし、他人の家に口出しはあんまり出来ないけど……真昼がしたいようにするのが一番だし、真昼が決めた事を応援するよ」
周は、あくまで他人だ。もちろん周的には「今のところは」という言葉がつくが。
だから、真昼の家庭事情に深く入り込めはしない。彼女がそれを望まない限りは、そっと側で支えるくらいしか出来ない。
それでも側に居ると決めたし、真昼の家庭がどうであれ周は真昼がいいのだ。
もし真昼が家から逃げたいと言うのならば、周はそれを叶えてあげる覚悟はしていた。
周の言葉に小さく「はい」と頷いた真昼に、周は一度わしゃりと髪を撫でる。
「いざとなったらさらってやるから安心しとけ」
真昼がギリギリ聞き取れる声量で囁いて茶化すように笑えば、ばっと勢いよく顔を上げた真昼が先程より赤みが増した顔でこちらを見てくるので、周は素知らぬ振りをして真昼の髪を撫でた。
発売まであと二週間切ってどきどき。
≪6月3日21:46追記≫
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