146 いちゃいちゃとは
両親が仕事に出かけたので、二人はとりあえず周の部屋で並んでベッドに座る事になった。
場所のせいではあるだろうが、普段通りの距離だというのに真昼は微妙にぎこちなさを見せていて、やけに周を意識しているのが分かる。ちらちらとこちらを見て視線が合えばぽっ、と頬を染めるので、こちらも微妙にくすぐったさを感じた。
「そ、その、いちゃつくって」
どうやらいちゃつくという言葉が気になっていたらしく、おずおずといった風に問いかけてくる。
「ん? ああ、両親にはああ言っとけば必要以上には詮索されないから。否定した方がからかわれるし」
「つまり、本当はいちゃつかない、と……?」
「いや、俺的にはいちゃつきたいかな」
「……は、はい」
もじ、と体を縮めて恥じらう仕草を見せている真昼に、意識されてるなあと苦笑い。
「嫌なら別にいいけど」
「そんな訳ないです。私が嫌がる訳がないです。周くんとなら、その、どんな風にでも……い、いちゃつきます、から」
「そっか」
「で、でもその……い、いちゃつくって、具体的にどうすれば」
真昼の言葉に、沈黙が訪れる。
「……キスとか」
「キスとか」
「……キスとか?」
「キスだけじゃないですか」
「い、いや、具体的にって言われると。抱き締めたり手を繋いだりは……いつも、してるし、さ」
今まで意識せずにいちゃついていたというか睦み合っていて、意識していちゃつくとなると具体的にどうすればいいのか分からない。
くっつくのはいちゃつくだろうしキスもいちゃつくという範疇であろうが、それだけでいいのかが分からない。
というよりそもそも前々からナチュラルにいちゃつくという事をしていたようにも思えるので、それ以上に仲を深めようとするなら何をすればいいのかが分からなかった。
「もっといちゃつくのってどうするべきなんでしょう」
「……とりあえず、くっつく?」
目新しい事ではないが落ち着いて、その癖胸が高鳴る行為を提案すると、小さく「……はい」と肯定が返ってくる。
真昼から寄りかかろうと躊躇いがちに体を寄せてくるので、周はそれを受け止めようと手を伸ばし……そのまま、真昼の膝裏と背中に手を回して、持ち上げる。
ひゃっ、と裏返った可愛らしい声に微笑ましさを感じつつ、真昼をベッドの上であぐらをかいた周の脚の間に移動させる。
「俺はこっちの方がいい」
「……は、はい」
「嫌?」
「そ、そんな事は。ただ……その、こうしてたら、周くんに包まれてるみたいだなって……」
「お言葉通り包もうか?」
可愛い事を言ってくれた真昼を包み込むように腕を前に回して抱き締めてみせれば、途端に顔を真っ赤にしてほんのりと涙目で振り返ってくる。
自分が言えた義理ではないが、真昼は割と照れ屋なのでちょっとの事で頬を染めてしまうのが、可愛い。付き合って二ヶ月ほどではあるが、未だに接触に慣れないでいるのだから、その初心さも分かるというものだろう。
ただ、それは周も同じで、顔には出さないが心臓が高鳴りを収めてくれない。
今真昼に耳を胸にくっつけて心音を聞かれれば、すぐにドキドキしている事が分かるだろう。
「……周くんにぎゅっとしてもらうの、好きです」
「そうか。お望みならいくらでも」
ほっそりとした体を抱き締めつつ耳元で囁くと、分かりやすく体を揺らす。
耳弱いよなあ、と小さく笑ってふぅ……っと吐息をかければ、更に体を揺らして勢いよく振り返った。
「……周くん」
「ごめんごめん、つい」
「ひ、人がくすぐったいの弱いからって……」
ひどいです、と不満げな眼差しで唇を尖らせる。
「この間聞いた周くんの昔の事言いますよ」
「おっとそれは困るな」
耳元でそんな事を囁かれては悶絶してしまいそうなので、あまりからかいすぎないように気をつけつつ、真昼に触れていく。
どこまで触っていいのか、どういう風に触っていいのか分からないので、無難に手を撫でて握ってみたり後頭部に口付けしてみたりするが、やはりほんのり物足りなさを感じる。
もっと触れたいし、柔らかさを味わいたい。
そう思うものの、この程度のスキンシップくらいしか無理なので、やはり優しく触れるだけに限っている。
真昼の方はこれでも恥ずかしいのか、耳を赤くしてされるがままになっていた。
(ほんと、可愛いなあ)
散々スキンシップしてきたのに、最近では真昼の方が照れだしている。前は周の方が動揺していたというのに、立場が逆転しているようで面映ゆさを感じた。
「……周くんの手、おっきいですね」
「ん? まあ身長の分大きめかもな」
「周くんの手、好きです。……周くんに触られるの、好き」
「そういう事言ってると触っちゃうぞ」
危うい言い方をされると我慢の紐が緩むので自重してもらいたいところなのだが、真昼には周の思うような意図は考えていないらしく「別に触られても……」と小さく呟いている。
そんな油断をされると、こちらとしては非常に困るのだ。
可愛く、そして男のタガを外しかねない言葉を口にした真昼に、周はそっとため息をついて彼女のお腹に手を触れる。
くすぐったそうに身をよじった真昼に構わず、へその下あたりに触れた指先で、ゆっくりとなぞりあげて。
つぅ、ともどかしい速度で触れて、勾配にかかる手前で指を止める。
「このまま上がってもいいって事になるけど?」
まだ登山していないが、簡単に山に登って征服する事も出来る。なにせ、周の掌は真昼の言う通り大きく、真昼の勾配の強い起伏すら包み込めるだろう。
登山していいんですかねえ、とわざとらしくこぼせば、真昼が腕の中で湯気をたてそうな勢いで真っ赤にしている。
振り返ってきた真昼の頬がゆでダコのように赤いが、周は構わず笑ってみせた。笑うだけに留まらず、頬にキスも落とす。
「いちゃつくって、こういう事も含むし」
「……う、あ、周くん……」
「俺がいちゃつくのがあまり分からないってのは、こういう風な触れ方を除外してたからなんだけど」
流石に二ヶ月の付き合いたてカップルがこういった触れ方をするのもどうなんだと思うし、控えていた。真昼の意思を尊重するつもりでいた。
しかし、真昼が無意識にそういう事を言うから、警告のためにも一度言っておかなければならなかった。
「俺も男なんだから気を付けろって前にも言っただろ。ほんとに触るぞ」
「う。……で、でも、そういう周くんも顔赤いです。出来るんですか」
「うるさい」
自分の顔が赤いのなんて分かっている。恥ずかしい事を言っている自覚もある。
ただ、言わなければ分かってもらえそうにないので、言うしかない。
周の言葉に真昼はしばらく沈黙した後、ゆるりと周の拘束をほどく。
拒まれたと悟り苦い笑みを浮かべようとした周に、真昼は体ごと振り返って、周に抱きついた。
ぎゅ、とくっつく真昼に、柔らかい感触と甘い匂いを強く感じさせられる。
「……周くんが、本当に触りたいなら……恥ずかしいけど、受け入れます、よ」
小さく、か細い声でそう呟いて周を見上げる真昼に、周は硬直した。せざるを得なかった。
健気で可愛らしい事を言って周を見つめる彼女の表情に、頭が真っ白になったと言ってもいい。
羞恥と不安と、ほんの一匙の期待を混ぜ込みながらも周を信頼したように見つめ体を預けている真昼は、言葉通り周ならば何だって受け入れてくれるだろう。それだけ周を好いてくれているのは、表情や雰囲気からも伝わってくる。
全てを委ねるように体を預けてきた真昼に、周は遅れて思考が動き出して、体が動く。
一番最初にしたのは、真昼に口付ける事だった。
ん、と小さく喉を鳴らしたのが、ひどく近く聞こえる。
柔らかく瑞々しい唇の感触を味わいながら、華奢な体を抱き締めて体で柔らかさを感じる。
掌で触れる事はせず、ただ少しだけ隆起の柔らかさを感じて、そっと手を離した。
頬を紅色に染めた真昼がはくはくと口を動かしているのを見ながら、真昼の首筋に顔を埋める。
「……お預けで結構だ」
多分歯止め利かなくなるから、と付け足して、真昼の白い首に口付けを落とす。
痕を付ける訳にもいかないのであくまでキスに留めつつ、湧き上がってきた欲求を必死に飲み込むまで顔を上げまいと決意した。
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