145 家族での朝食
あとがきにお知らせがありますー。
「あら周おはよう」
ダイニングでは既に両親が座って待っていた。
周の分も朝食が用意されているが、キッチンから調理音がするし見慣れた亜麻色が見えるので、真昼が約束のオムレツを作ってくれているのだろう。
「……おはよう」
「ほら座って座って。真昼ちゃんが今周の朝ご飯作ってくれてるから」
「おう」
周が諸々落ち着かせていたせいでかなり遅れたので、身支度に時間がかかる筈の真昼が先に来て用意をしたのだろう。
元々オムレツを作ってもらう約束ではあったのでちょうどよかったかもしれないが、今後は朝っぱらからいちゃつくのは控えめにしたいところである。
「仲いいわねえほんと」
「……交際してるなら別に普通だろ」
「まあそれもそうだけど、彼氏彼女の仲を通り越してるからねえ。若奥さんみたいだよね」
のほほんと周を見ていた修斗の言葉に、キッチンからがしゃっと皿をシンクに落としたような音がした。
割れたような音ではなかったのでよかったが、動揺して落としたのは確かだろう。
「あら真昼ちゃん大丈夫?」
「は、はい、お皿も割れてません。すみません落として……」
「いいのよー。誰にでもミスはあるもの」
半ば人為的に起こされたミスなのだが周は口にせず、にやにやとこちらを見てくる志保子の視線をスルーする事に決めた。
「で、昨日何かあったのかしら」
周のためにオムレツを作ってきた真昼が席についたところで、四人での朝食が始まった。
ご飯を一口分口に放り込んだところで志保子からストレートな疑問が飛んできたので、固まってしまう。
取り敢えず口に物を入れながら喋る訳にもいかず、よく噛んで飲み込んでから口を開く。
「……何でそう思ったんだよ」
「私達が帰ったら様子違ったから。何かあったんだろうって」
「流石に息子の様子が違ったら分かるよ。親を甘く見ては駄目だよ」
平常通りでいたつもりなのだが、どうやら両親には見透かされていたらしい。
やや心配そうな眼差しを向けられるが、周としてはもう乗り切った事で過ぎた話なので、心配されるほどのものではなかった。
「別に。東城と会ってちょっと言われただけだよ」
「ああ、そういう事か。……その様子だと、吹っ切れたみたいだね」
「そうだな。吹っ切れたっていうか、乗り越えたというか。もう、煩わされる事はないと思う」
「一回り男らしくなったんだね、いい事だよ」
もう平気だ、という事に修斗は安堵しているようだった。
当時は両親に多大なる心配をかけたので、やはり今でも心配だったのだろう。一応高校生の頃にはある程度立ち直っていたのだが、それでも不安なものは不安だったらしい。
修斗が安堵する一方、志保子は東城という名前に微妙に呆れたような表情だった。
「変わらないのねえ、東城さんの所の子は。ご両親はとてもよい方なんだけどね。まだ反抗期なのかしら」
本人の性格や仕事上、志保子の顔は広いしコネクションも無駄にある。周が知らないだけで恐らく想像がつかないところにまでコネクションがあるだろう。
当然、地元の人間とは交遊があるし、東城の両親とも関わりがあった。
周も東城の両親とは会った事があるが、裏表のない非常にいい人達だった記憶がある。息子のした事を謝られた事もあり、彼らに思うところはなかった。
「さあな。別に関わりないし興味ないし。もう会う事もそうそうないだろ」
「周のそういう割り切り方は長所よね。……もし凹んでたら、実家に帰ってくるようになんて言わなければよかったと思ってたもの」
半年に一度顔を見せるようにという約束ではあったが、両親も気に病んでいたようで少しためらっていたらしい。
「帰るのを決めたのは俺だし。……それに、結果的によかったよ、会って。吹っ切れたし」
周からしてみれば、会ってよかったと思っている。
このまましこりになって胸の奥に残り続けているより、正面から乗り越えて糧にした方がいい。それに、周の心が癒えていた、という証明にもなった。
東城や久しく会わない数人のお陰で真昼と会えたのだから、むしろ感謝してもしきれないかもしれない。彼らにとっては不快かもしれないが。
なんの憂いもないと言わんばかりの周に、志保子が柔らかい笑みを浮かべる。
「子供って成長するものよねえ。あの時は壊れそうで心配してたんだけど……もう心配も必要なさそうだわ」
「愛は人を強くするものだからね」
「クサイ台詞言うなよ……」
「でも実際そうだろう?」
「……そうだけどさ」
「はは。周もようやくいい人を見つけたって事で嬉しいよ。私にとっての志保子さんのように、ね」
「……は、はい」
静かに話を聞いていた真昼が照れたように縮こまっていて、修斗も志保子も微笑ましそうな眼差しを向けている。
「真昼ちゃんも周に頼ってね。いつも周の世話ばかり焼いてて心配になっちゃうわ」
「い、いえ、私は……いつも、周くんに頼りきりですから。支えられています」
それはこちらの台詞なのだが、真昼は本心から思っているようで周を見てはにかむ。
「それならよかった。……周も、椎名さんの献身に甘えすぎずに支え合っていくんだよ?」
「分かってるよ。ずっと側に居るんだし、支え合うのは当たり前だろ」
言われずとも、真昼とはこれからも支え合って生きていくつもりだ。
隣に居る人に寄りかかってばかりで相手の負担を考えられない人間にはなりたくない。確かに周は真昼が居なければ駄目人間ではあるが、人として駄目になるつもりはなかった。
今回周が真昼に支えてもらったように、真昼に辛い事があれば背中を支えるし、手を引いていく。
それが共に生きていくという事だと両親を見て強く胸に刻まれたし、周もそうありたいと願った。
その相手が見つかったのは、きっと周にとって最大の幸福なのだろう。
生半可な覚悟で真昼の隣を歩くわけではない、と隣の真昼を見たら、顔をこれでもかと真っ赤にして震えていた。
泣く前兆にも見えたが、これはそれより羞恥で満たされて爆発寸前といった方が近い。
周と視線が合った瞬間瞳を伏せてしまうので、間違いなく恥ずかしくて居たたまれないようだ。
それでも逃がしてやる訳もなく、テーブルの下で手を握ってみせれば、びくんと衝撃を逃がすように体を跳ねさせた後、手を握り返してくれた。
「やだもう可愛いわねえ。これからお仕事がなかったら目一杯可愛がるんだけど」
そんな真昼の様子を眺めていた志保子が満面の笑みを浮かべている。
本人の言葉通り、仕事がなかったら真昼を愛でていただろう。
「二人はさっさと仕事行ってこい」
「その間に周はいちゃつくと」
「そうだよ悪いか」
もう何を言っても茶化されそうなので堂々と肯定すれば握られた手が震えるが、力が緩む事はない。
恐らくではあるが、喜んでくれたのだと思う。
以前の周なら完全否定していたので、志保子は素直に認めた事に驚いて、それから嬉しそうに笑った。
「開き直ったわねえ」
「うるさい」
「いい事だわ。周にも春がやってきたんだもの」
「もう夏くらいの暑さかもしれないね」
「年中常夏の二人に言われたくない」
「そんな二人の間に生まれたあなたも常夏予備軍ねえ」
実に楽しそうに、そして祝福するように笑みを浮かべた志保子に渋い顔をするものの、真昼が嫌がってなさそうなのでまあいいかと諦めてそっぽを向いた。
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