14 天使様とクラスの王子様
「なに、お前年中短パンな元気系だったっけ」
月曜の体育が憂鬱なのは、周が運動が得意という訳ではないのと、この肌寒い季節に膝丈のジャージを着る羽目になっているからである。
この季節になるともう長袖ジャージが主流になっているのだが、膝から下を晒している周は周囲からやや浮いていた。
「ちげえよ。忘れただけだ」
「ばかでー」
「うっせ」
土日は真昼と会っていないのでまだ返却されていないからこんな事になっているのだが、樹に言う訳にもいかず忘れたと言うしかない。
からかわれるのは甘んじて受け入れるが、けたけたと笑いながら背中をばしばし叩いてくるのはやり返しておいた。
樹が地味に呻くのを見ながらそっとため息をついて、視線を移す。
ただいまグラウンドで走り高跳びをしているのだが、女子も体育でグラウンドを使っての授業らしくグラウンドには女子の姿もあった。おまけに二クラス合同なため、結構な人数がグラウンドに居る。
あちらはあちらで陸上競技をしているので、待ち時間でこちらの体育を眺めている、といった感じだ。
「門脇くんがんばってー!」
基本は男女別の場所で授業があるので、女子が居ると男子達がざわめいていたものの……女子達の視線の先には、周のクラスメイトでありイケメンと名高い男子、門脇優太が居た。
周はまず話す事なんてほとんどないのだが、人当たりがよく勉強も出来て尚且つ一年でありながら陸上部のエースという事で、女子から人気なのは知っている。
周としては、天は二物も三物も与えるんだな、という感想なのだが、他の男子的には面白くないらしく微妙に渋い顔をしている男子も多い。
「おーおーなんかあっちすげえぞ」
「そうだな」
「興味なさそうだな」
「いや実際関係ない相手だぞ、クラスメイトでもろくに話した事ないし。どうでもいいわ」
別に向こうが害してくる訳でもないし、関わりがないので正直どうでもよい。
それが少数派なのだとは理解しつつも、やはり他の男子たちと同じように妬むというところまではどうしてもいかない。
というか向こうの出来が良すぎて嫉妬すらナンセンスだと思っている。
「妬まないのは周らしいよなあ」
「なんだ、モテモテで羨ましいでござるって言っとけばいいのか」
「キャラじゃねえ」
げらげら笑っている樹を半眼で見つつ、女子からの声援を浴びて爽やかな笑顔を浮かべている門脇を眺める。
男から見ても均整とれた体つきに甘いフェイスは、まさに王子様といったところだろう。実際あだ名に王子というものもある男であり、パッと見欠点らしい欠点が見当たらない男だ。
女子からの熱い眼差しや甲高い声にはにこやかに微笑みをたたえて手を振り返していて、本当に如才ない男だと感心すらする。
「こう、王子様が板についててすげえって思うわ」
「だな。あんなスマイルとか出来ねえ」
「女子達も元気だなー」
樹にとっては千歳という溺愛する彼女が居るため、他の女子には興味がないので他人事のようになってしまう。
千歳も門脇にはこれっぽっちも興味がないので、樹が彼にどうこう思う事はないだろう。
(王子様やら天使やら、うちの学校は恥ずかしいあだ名付けられてるやつ多いよな)
そういえば天使様こと真昼は結局安静にしていただろうか。
休日出掛けた様子はなかったので大人しくしていたと思うが、怪我の具合はいかがなものか。
丁度真昼のクラスとの合同だったのでこっそりと辺りに視線を巡らせて見れば、人が沢山居ても際立って目立つ容姿の少女がグラウンドの端に居た。
体操服に着替えず、授業の輪にも入っていないという事は見学だろう。
ちょこんと静かに佇む真昼に視線が吸い寄せられている男子も多く居た。
遠目ながらぱちりと目が合って、気まずげに視線をさ迷わせれば彼女の口許にはくすっと小さな笑みが浮かんだ。
その向きが周、というか男子達の集団に向いていたため、笑顔を向けられたクラスメイト達が「今俺に微笑んだ!?」「いや俺だろ」とざわついている。
「これはチャンスだ、いいところを見せて椎名さんにアピールせねば」
「王子にいいところばっか取られててたまるか」
ささやかな笑顔一つでこうもわきたたせるのはすごいと言えばいいのか彼らが単純と言えばいいのか。
「……単純だなあ」
同様の事を思ったらしい樹がこぼすので、周もつい笑った。
「まあ内申点もあるしそれなりに俺らも頑張らないとだめなんだよな」
「なんだ、周も天使様に見られてはりきってるのか?」
「いや違うけど。興味ないって言ったろ」
「ま、そりゃそうか。お前ほんとに興味ないからな」
彼女はいいぞ? と彼女持ちの自慢が始まりそうだったので「ハイハイ」と流した周は、もう一度真昼の方を見て苦笑した。
(まだ一位をいただいておりました……ありがとうございます……)





