133 変わったもの
短め。
真昼の羞恥が収まってから四人で遊ぶ事になったが、四人になってよかったことは声をかけようとタイミングを見計らっている男達が減った事だ。
四人で行動していたら一人になる事はないし、ならないように気を使っている。
それに、樹はぱっと見チャラ系のイケメンな上にいかにも人当たりが良さそうな雰囲気のある種理想的な陽キャな男なので、ナンパ目的の男達が勝手に尻込みしているようである。
ただ、千歳も真昼も樹も外見的には非常に優れているので、視線そのものは集まっている気がしなくもないが。
「まひるんまひるん、そーれ」
「きゃっ。……もう、千歳さんってば」
真昼が浅いプールがいいと無言の圧力で訴えてきたので浅いプールで遊んでいる傍ら、真昼と千歳が和気藹々と水をかけあっているのを、周はプールの縁に腰かけて眺めていた。
すっかり仲良くなった二人が楽しげに戯れているのを見るのは、微笑ましさを感じる。
あと、二人してタイプは違えど外見はとびきりの美少女なので、見ていて目の保養になる。
「いやー、いいですなあおなごが仲睦まじくするのは」
同じように周の隣で二人を眺めていた樹がにやにやしていた。
「感想が親父臭いぞ」
「ひっでえ。お前だって二人が仲良くしてるの見て鼻の下伸ばしてただろ」
「そこまでじゃねえよ」
「でも見ていていいなって思ってたんだろ、むっつりめ」
「それお前にも返るだろうが」
「オレはオープンだから」
それもどうなんだ、と突っ込みつつ、千歳に水をかけられてくすぐったそうに笑っている真昼をぼんやりと眺めた。
「で、なんでそんな遠くを見るように見てたんだよ」
へらりとした笑みを収めて聞いてきた樹は、少し体を前に倒して周の顔を覗き込む。
「いや、なんつーか、真昼が以前にも増して可愛くなったなと」
「お前ものろけるようになったな」
「のろけっつーか、よく笑うようになったなって。昔はにこりともしなかったんだよ」
「オレらは見た事ないけど、素っ気なかったんだっけ?」
「そう。クールっていうか毒舌というか。人を信じないやつだったからさ。……ああして笑ってるの、いいなって」
出会った頃に比べると、本当に素直に笑うようになった。
昔のクールでやや毒舌な真昼からは考えられないほどに、屈託のない笑みと素直さを見せている。
真昼が変わったのは自分と一緒にいたからという自負はあるが、千歳のお陰でもあった。同性だからこそ話し合える事もあるし、分かり合える事がある。
ああして楽しそうな姿をしているのを見ると、やはり嬉しい。
「オレも椎名さん変わったなって思ってたから同感。昔はなんつーかお人形みたいで近寄りがたかったんだけど、今はすごく可愛い周大好きっ子にしか見えない」
「大好きっ子って……あのなあ」
「いやー、あんなに純粋に好意向けてるんだから分かりやすいよ。ただでさえ特別扱いしてたの見え見えだったし」
「……ちなみに聞くけど、樹から見て真昼って結構前から俺の事」
「むしろ何でうじうじしてるんだレベルで好意が溢れてたぞ」
「マジか」
付き合う前から薄々好かれているのは察していたが、自分が思うよりも前からそういう風に見えていたらしい。
「椎名さんが周を信頼して好意を寄せていった辺りから多分変わってきたんだと思うよ」
「……そうかよ」
「あとはちぃの存在かなあ。よくも悪くもハイテンションでフレンドリーだからな、引っ張られてる」
「制御頼むぞ彼氏さんや」
「ちぃは本当にダメなところまでは踏み込まないからへーきへーき。それにほら、あんなに笑ってるんだから」
樹が指で示す先をもう一度見れば、真昼が千歳にくっつかれて恥ずかしそうにしつつもはにかんで受け入れてる姿がある。
真昼も千歳を信頼しているのが眼差しで分かるし、表情も柔らかい。ああして信頼できる相手が増えているのは、よい事だ。
願わくば、一番信頼出来る相手が自分であって欲しい。
心配すんなよ、と背中を叩いた樹に苦笑を返していたら「へいへいそこのプールサイドで黄昏れてる若人さんや、こっちに来て遊ぼーぜい」と千歳が真昼にくっつきながら手を振っている。
真昼も、周に来てほしそうに控えめに手を振っていた。
「かわいこちゃんに呼ばれたらそりゃ応えない訳にはいかないですなあ」
よいしょ、とプールサイドからプールに降りて腰まで水に浸した樹がにやっと笑って二人の方に向かうのを見て、周もまた笑って真昼達の方に向かった。