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132 見慣れた相手

 声の方を向けば、予想通りの顔が見えた。

 やや軽薄そうなタイプのイケメンにボーイッシュな美少女。どちらも学校でよく拝む顔である。


「何で樹が」

「いやストーカーはしてないぞ。マジでたまたま。流石にそこまで野次馬根性こじらせてないから」


 真面目に手を振って否定しているので、おそらく本当に後をつけてきた、という事ではないだろう。


 そもそも、後をつけてきたなら二人の性格的に真昼がナンパされている所で助けに行った筈だ。タイミング的に真昼と合流してからこちらを見付けたのだろう。


 千歳の表情からも、わざとではないと分かる。


「いや、今週プール行くって事は聞いてたんだけど、流石にこんな広いところで日にち被った挙げ句鉢合わせるとは思ってなかったんだよね。二人きりのラブラブを邪魔してごめんねー」

「……あのなあ」


 鉢合わせた事については偶然なので文句を言うつもりはないのだが、最後に揶揄するようなにやにや笑いと言葉が飛んできたのでじろりと見る。

 といっても、千歳も水着なのであまり胴体を見るのは失礼なので顔を見て睨む事になるのだが。


 オレンジのセパレートタイプの水着を着ている千歳は、周の視線に気付いたのかまたにやにやして「やんえっちー」と体をくねらせる。


 視線からして体を見ていないのが分かりきっているのにふざける千歳には盛大にため息を送りつつ、樹に「こいつどうにかしろ」と眼差しで訴ると「夏だから余計に元気なんだよなー」との事。彼は止める気がなさそうだった。


 まったく、と呆れつつ真昼を見れば、ナンパ男達から隠すために閉じていた前を開けている。ラッシュガードとはいえやはり真夏に首元までファスナーを上げているのは暑かったらしい。


 胸元までファスナーを下ろして少し空気を送っている真昼に、千歳が瞬く。


「んん? まひるん?」

「はい?」

「……あれ、まひるんその水着にしたの?」

「その水着?」

「え、だってもう一つ黒の紐むぐっ」


 途中で千歳の声がくぐもったのは、真昼が掌で千歳の口許を塞いだからだろう。

 軽く腰を浮かせて千歳に手を伸ばしている真昼は、周の視線を感じたのか一度ぴたりと固まる。


「……何でもないです」


 そう言って首を振った真昼は、頬が赤い。


「もう一つあったんだ」

「やっ、あっ、あれは、その、……公衆の面前で着るには恥ずかしいです、し」

「こぼれそうだしね。周と二人きりなら着るって可愛い事をむむぅ」

「千歳さんは黙らなきゃ駄目です」

「はぁい」


 再び真昼に口を塞がれている千歳だが、悪びれた様子はない。


 人前で着るのが恥ずかしいと言うほどの水着を買った真昼にも驚きだが、二人きりなら着るなんて事を言っていたのなら、大胆さに周の心臓が暴れだしそうだ。


「……そんなに際どいのか?」

「際どいっていうか、まひるんのスタイルがいいから布面積が狭く見えるっていうか」

「千歳さん」

「これ以上言うとホントに怒られそうなので周は実際に見せてもらって理解しておくれー」

「みっ、見せません!」


 熟れた林檎のように頬を赤くして却下する真昼に、周が微妙に残念だと思ってしまったのは悪くないだろう。

 もちろん真昼が嫌がるなら無理に見たいとは言わないが、やはり彼女のそういった姿が見たくないと言えば嘘になる。


 千歳の口ぶりから極端な露出と言うよりはスタイルのよさを浮き彫りにしたものらしい。

 今の時点で周としては結構直視がきついのだが、その水着がこれ以上肌が見えるのだとしたら、真昼の拒否は救いなのかもしれない。

 それはそれとして、男としては見てみたさはあるが。


 ほんのり残念がっていたのが見えたのか、千歳がにやにやしているし、真昼は真昼で微妙に視線をこちらにちらちらと向けている。


「見せないの?」

「……応相談です」


 千歳の言葉にか細く返した真昼が、周と千歳の視線から逃れるようにラッシュガードのフードを被って俯く。

 ただ、見えなくても顔が燃えて火傷したのではないかと思うくらいに真っ赤なのは、想像がついた。


「……千歳、あんまからかうな。真昼も俺の事は気にしなくていいから」

「でも可愛いでしょまひるん」

「なに当たり前な事言ってるんだ」

「おおうナチュラルだね君も……」


 真昼が可愛いのはいつもの事なので流すと、千歳がほんのりと呆れたような眼差しを向けてくる。


 元々付き合う前から真昼が可愛い事は認めていた筈なのでそう驚くような事でもないのだが、二人からしてみれば周がすんなり同意したのが意外だったようで目を丸くしていた。


「……結局周って恋人溺愛してるんじゃねえか……昔は恋人なんて出来ないし恋愛しないって言ってたのに……」

「やかましいわ」

「いやー、これが愛は人を変える的なやつなのかー」

「お前ら馬鹿にしてんな? そもそも真昼が可愛いのは周知の事実だし、彼女が可愛いのは当たり前だろうが。樹だって散々千歳が可愛いって自慢してたし」


 樹と仲良くなって千歳を紹介されてからというもの日々のろけられていたので、周が多少言った所で樹ののろけに勝てる程ではない。

 そうおかしな事でもないだろうと逆に二人に呆れて見せればやれやれと肩をすくめられた。


 その態度が微妙にむかついたので睨んだのだが、樹は苦笑するだけだ。


「まあでも、それくらいにしておいた方がいいんじゃないかな」

「何がだよ」

「椎名さんが大変そう」


 何故真昼の名前が、と真昼を見たら、フードを掴んで深く被った状態で震えていて、おそらく非常に恥ずかしがっていた。

 あまり人前で褒められると照れるらしい真昼に慌てれば、微妙に顔を上げた真昼に恥じらいからか涙目で見つめられる。


「……周くんはそういうところがいいところで悪いところです」


 そう呟いた真昼はまたフードを深く被ったので、周は真昼が羞恥から立ち直るのをおろおろと待つしか出来なかった。

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