128 天使様とどきどき
どうしても視線を寄せてしまう真昼を伴って比較的浅いプールまでやって来た周は、手にしていた小さな防水鞄を揺らしつつ隣の真昼を見る。
「で、どうする?」
「どうする、とは?」
「いや、真面目に泳ぎ方教えるにはレジャー施設は向いてないし。それに、いきなり泳げと言われても困らないか?」
「それはそうですけど」
周は割と泳げる方なので泳ぎ方を教えられはするが、スイミングスクールのようなレーンがある場所ではないので教えている最中に確実に人にぶつかる。
そもそもレジャー施設のプールは、本当に泳ぐというよりは水と戯れる意味合いが強いし、本当に泳ぎたい人間はこういった人が沢山居る施設ではなくスクールに行っているだろう。
「泳ぎ方覚えたいならそれでもいいけど、俺としては……その、折角なら、真昼と一緒に遊びたいと思うんだが」
「そ、それはその、私もです。周くんと一緒に居られたら、それで」
ぎゅう、と身を寄せて上目遣いの真昼に小悪魔の破壊力を思い知らされつつ、可愛い恋人の頭を撫でて自分の落ち着きを取り戻しておく。
「じゃあ、一緒にゆるゆる遊ぶか。その、真面目に泳ぐんだったらそのラッシュガード脱がないといけないしさ」
今は周のラッシュガードに華奢でありながら豊艶な肢体が隠されているが、泳ぐとなれば邪魔になるので脱がなくてはならないだろう。
そうしたら周囲の男性が真昼を見るだろうし、周は周で目をそらしかねない。
彼女の水着姿を堪能するのは彼氏の権利ではあるのだが、長時間直視すると色々と死にそうになるのでそれもままならないのだ。
周の目線からだと胸の辺りが非常に防御力が低くて攻撃力が高いので、特に見ていられない。
「……ずっと隠しておくつもりですか?」
「いやまあ、真昼を見せるのもったいないというか……」
「……周くんは見たくないのですか?」
「いや、見たいけど見ていたら死ぬ自信がある」
「なんで死ぬんですか……」
呆れたような真昼だが、恐らく真昼がこの感覚を理解する事はないだろう。
勿論、周も男なので見たいという欲求はあるが、しゃがみこむ羽目になる訳にもいかない。そんな羽目になれば社会的に死ぬし精神的にも死ぬ。
「……真昼だって、俺の半裸見たら死にかけてるだろ」
「そ、それはその」
「つーか、他の男の半裸でも駄目そうなのに今日はちゃんと見てるんだな」
てっきり真昼の純情具合だと他の男であろうが水着姿を見れば照れていそうなものだが、今日の真昼は周の言動には照れていても格好に照れている様子はない。
指摘に、真昼はもじもじと肩を縮めている。
「……そ、の。周くんにしか興味ないですし……見てません」
「お、おう……」
「……ほんとは、今日もすごくどきどきしてますけど……周くんをどきどきさせるために、我慢してます」
ぺた、と周の平たい胸に手を当てて鼓動を感じて「どきどきしてます」と恥ずかしがりつつ笑った真昼に、周は唸りそうになるのを堪えて真昼の頬に軽く噛みつく。
ぱちり、と瞬きをして固まった真昼に、半ばまで閉じられたラッシュガードの隙間から覗く肌、その心臓の上の辺りを指先でほんの少しだけ押す。
指先で触れただけでも、柔らかさと鼓動が伝わってきた。
「……帰った後まさぐられたくないならその辺にしといてくれますか、小悪魔さんや」
あんまり煽ると痛い目見させるぞ、という忠告に真昼はぼっと湯気をたてそうなくらいに顔を赤くして、いそいそと周から体を離す。
周が色々と真昼をまさぐる様子でも想像したのか視線が泳いでいるし混乱しているのが見えた。
ただ、手だけは繋いでいたいのか、先ほどまで心臓の鼓動を感じていた周の指先を握る。
「……周くんの、すけべ」
「真昼が煽ってるんだけど。堪能していいって言ったのはそっちだし」
「そ、そうですけど」
「頼むから段階踏ませてくれよ。勢いでするとか嫌だからな、大切にしたいんだよ俺は」
まだ頬にキスしかしていない状態で何段もスキップして大人の階段を登る訳にもいかないだろう。というか、体目的のようで周が嫌だ。
大切にしたい、の言葉に真昼は僅かに瞳を揺らして感動したように潤ませ、今度は周の胸に顔を埋めるように抱きついた。
「おい」
「……周くんのそういう優しいところ、すごく好きです」
幸せそうな微笑みをたたえた真昼に、周は色々と込み上げてくるものを飲み込んで真昼の頭を撫でた。
真昼の水着がイラストで見られる日がくるのだろうかそわそわ(っ˘ω˘c)
そこまで続くといいなあ……。