126 実家帰省について
「真昼、うちの実家に行くのいつ頃からがいい?」
夏休み初日、いつも通り周の家にやってきた真昼に周は問いかける。
本来ならもう少し早めに決めておくべきだったのだが、真昼と交際し始めて浮かれていたり諸々忙しかったりで相談していなかった。志保子からはいつでもいいと言われているので、真昼の予定さえ空けられたら例年通り八月のお盆付近になるだろう。
周の質問に真昼がぱちりと瞬きを繰り返している。
「……あ、やっぱうちの実家にくるの嫌とか」
「ち、違います。ご実家にお邪魔する事を今思い出して……。その、私はいつでも」
「そっか。滞在期間どうするかだよなあ。俺としては、二週間くらいは居てもいいかな、盆挟んで二週間くらい」
慌てたように手を振って嫌ではないアピールする真昼に苦笑して、それならどのくらい地元に居るかと悩む。
今のところお盆の辺りは樹や門脇達の誘いがある訳ではないし、一般的にはお盆は家族と過ごす事が多いのでその辺りになるだろう。登校日もないので、行くならその辺りだ。
去年は自分で最低限の家事をするのも面倒で二週間以上居たのだが、今年は真昼も居るし予定を合わせなくてはならない。ゆっくりするなら一週間から二週間程度だろうか。
「私は特に予定は入れていませんので。千歳さんとも遊ぶ日程まだ決めてませんから、その、連れていって貰う期間は周くんが決めてくれると」
「じゃあ二週間くらいでいいかな。結構居る事になるけどいいか?」
「はい」
特に予定を入れていた訳ではないらしいので、周の提案した日数に落ち着く。
真昼は女性なので服もたくさん必要そうなので先に荷物を送っておくように提案しておき、周は志保子にメッセージを送っておいた。
仕事中であろうしすぐに返ってくる事はないだろうが、おそらく嬉々として承諾して滞在を長引かせようとするだろう。可愛いもの好きの母親は、真昼の性格のお陰もあり非常に真昼を気に入っている。
「しかしまあ、母さんすごく喜びそうだな」
「ふふ、そうですね」
「……覚悟してろよ」
「え?」
「母さんは真昼を構いたがるから」
まず間違いなく構い倒される。
娘を欲しがっていた母親の事だ、これ幸いと娘が出来たように振る舞うだろうし可愛がるだろう。
「ありがたい限りですけど……」
「そうならいいんだけどな。……つーか」
「はい?」
「……付き合い始めた事、言うべきなのかな」
ためらいがちに呟くと、真昼も固まる。
一応まだ志保子には報告していないらしいのだが、一緒に実家に行く際態度で気付かれてからかわれるかもしれない。それよりは事前に言って被害を少なくした方がいいのか、という葛藤だ。
ただ、被害が少なくなるかもしれないだけで、逆に被害が拡大するかもしれないのが志保子の怖いところである。
「……ど、どうしましょう。改めて報告するのも恥ずかしいですね」
「だよな。絶対根掘り葉掘り聞いてくるぞ」
「でも、大切な息子さんである周くんをいただいてしまうので、ご挨拶するべきなのかと」
「俺が真昼をいただくんだけど……」
一般的には、男性が女性をもらうものだと思っている。真昼の家庭を考えても周がもらうべきであって、真昼にもらわれるのはない。志保子も真昼をもらってくる事に異存はない筈だ。
もちろん、望むなら自分などいくらでもあげるのだが、真昼をもらってくるのは確定だ。
ほぼほぼ確定事項だろう、と思って言ったのだが、真昼は聞いた瞬間に顔を真っ赤にしてクッションを抱き締めている。
「……そういう事さらっと言えるのは周くんのいいところですけど、さらっと言えちゃうのが悪いところです」
「どっちだよ」
「私だけに言うならいいところです」
「俺が真昼以外に言うと思ってるのか……」
真昼以外に目もくれないと分かりきっているだろうに、真昼は何を心配しているのだろうか。
「……そういうところも、ですけど、いいです。これは周くんのよいところであり、修斗さんの教育の賜物なのではないかと思います」
「なんで父さん」
いきなり修斗の名前が出て困惑するしかないのだが、真昼がクッションを抱えながら寄りかかるのでとりあえず頭を撫でておく。
ご機嫌取りというより純粋に可愛かったので愛でるように撫でると、真昼は恥ずかしそうに瞳を伏せつつもされるがまま。心なしか心地良さそうにしているので、悪くはないのだろう。
「……多分、周くんは将来修斗さんに似ますよ」
「そうか? 俺、あんな風に童顔じゃないんだけど」
「そうじゃなくて、中身が」
「あそこまで穏やかで落ち着いていられる自信ないけど」
「……そうじゃないです」
ばか、と周の耳にギリギリ届くような声で呟いた真昼が二の腕にもたれかかってくるので、わざと体を後ろにずらせば体勢が崩れてぽてんと膝の上に体が落ちてくる。
ぱちりとカラメル色が幾度か瞼に隠されてまた現れてを繰り返すのを眺めて、周は笑って頬を掌でなぞる。
「俺はあんな風に紳士的では居られないけど、俺なりに真昼を甘やかせたらと思うよ」
「……そういうところって言ってるんです」
「父さんの甘やかしは俺以上だぞ」
「……私には、溺れそうなくらいです」
膝に頭を乗せたまま、頬に添えた周の手を包み込むように自分の手を重ねた真昼は、穏やかな表情で瞳を閉じる。
すり、と自ら頬に触れるように寄せた真昼は口許に笑みをたたえていた。
「……もっと溺れさせてくれますか?」
「望むならいくらでも。……まあ、来週のプールは溺れてもらっても困るんだけど」
「……ばか」
今度ははっきりと聞こえる拗ねた声での可愛らしい罵倒に、周は声に出して笑って真昼の頬をまた撫でた。
まひるんの水着に未だに悩む( ˘ω˘ )





