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122 放課後の別行動

「周くん、今日寄るところあるので別々に帰っていいですか?」


 七月に入ったある日の事、放課後いつものように一緒に帰ろうとしたら真昼にそんな事を言われた。


 むしろいつもは真昼が一緒に帰りたがるのでその申し出は意外で、思わず真昼の顔を凝視する。


 基本的に寄り道するにしても周も共に行くので、それをやんわりと拒んでいるのは周に知られたくない事があるのだろう。


 ただ、真昼の表情からは別に後ろめたい事ではないと分かるし、心配する事はない。

 夏は日が暮れるのが遅いし、長時間寄り道しないのであれば問題ないだろう。本音を言えば、一緒に帰りたくはあるが。


「ん、分かった。じゃあまた後で」


 どうせ家で一緒に過ごすと分かりきっているので、真昼の意思を尊重する。


 受け入れられた事に真昼は少し安堵したようだったが、ふと何かに気づいたように目を少し見開いて、それから少しだけ警戒するような眼差しを見せる。


「……他の女の子と帰ったりしないでください」

「俺がすると思うか?」

「しないですけど、女の子側から誘われる可能性がありますので。……その、駄目とは言いませんけど、やです。この間、声かけられてましたし……」


 声を洩らさなかったのは奇跡だった。


(……もしかして、やきもちやいてるのだろうか)


 周が誘われるなんて日頃の真昼への態度を見ていればまずないのだが、真昼は心配になったらしい。

 ちなみに周が声をかけられていたのは、仲を応援している女子からの「がんばれー」というものであり、心配の必要はない。


 微妙に居心地悪そうにしつつもすがるような不安げな表情で見上げてくるので、可愛いなあと頭を撫でたくなったが、周囲の目があるので控えておく。


 以前やらかして周囲が真昼の笑顔に固まっていたので、流石に同じ轍は踏まない。


「大丈夫だよ。真昼しか見てないし、誘いにも乗ったりしないよ。あって千歳に連れ回されるくらいだ」

「……それならいいですけど」


 千歳は許容範囲内らしい。そもそも樹が居るので間違いなく周を見る事はないし、周も千歳を見る事がないので安心なのだろう。


 周の言葉に少し安堵したように肩の力を抜いた真昼は、今度はやや恥ずかしそうに周を見上げる。


「あと、その、万が一で誤解を招くのは嫌なので先に行き先言います」

「内緒にしなくてよいものなのか?」

「は、はい」


 その割に言い淀んでいる気がするが、真昼は言葉を続ける風なのでおとなしく真昼の言葉を待つ。


「そ、その……お買い物に、行ってきます」

「そうなのか? でも別に恥ずかしがる事じゃ」

「千歳さんと……そ、その、水着買いにいきます、ので」

「……水着?」


 確かに、七月に入って水着は本格的に売り場に出ている。

 周達がよく通うショッピングモールでは広めの水着の特設会場が設けられており、クラスの女子達も水着買いに行こうと言っていたのは記憶に新しい。


 ただ、まさか真昼が自ら水着を買いに行くなんて思っていなかった。


 何せ、真昼は泳げない。

 これは本人の自己申告であるが、泳ぎたくないから水泳が必修科目にない学校を選んだらしいので、とにかく泳げないのだろう。


 その真昼が、水着を買いに行く。


「……一緒にプール、行くんじゃなかったんですか……?」


 もじ、と身を縮めて恥じらいながら囁かれた言葉に、周は体を固まらせ、それから掌で顔を覆う。


(……そういう顔で言わないでほしい)


 案の定、教室に残っていたクラスメイトがこちらを見ている。

 呆けたような表情から生暖かい笑みまで様々な表情を向けられて、周は居心地が悪いやら恥ずかしいやらで非常に落ち着かない。ただでさえ真昼の照れた顔を見て心臓が落ち着かないのに、こんな雰囲気で見守られれば、居たたまれなくなる。


「……そっか。その……行ってこい」

「は、はい。……どんなのがいいですか?」

「際どくない方向で」


 即答せざるを得なかった。


 真昼のルックスならどんな水着でも着こなしはするだろうが、なるべく必要以上の露出がない方向が望ましかった。

 なにせ、周と真昼は付き合い始めて数週間であり、真昼の素肌なんてほぼ見た事がない。


 学校ではしっかりと首元までボタンを閉めているしタイツもはいている。暑くないのかと心配になるくらいには隙のない格好だ。

 家は家で基本的に胸元が見える服はあまり着ないし、スカートも長めのものが多い。ショートパンツをはく時も下にタイツをはいている。


 つまり、胴体の素肌をほぼ見た事がない。というかまるきりない。そもそも見る機会がない。


 そんな状態で水着でセクシーなものを選ばれたら、周は当分その場にしゃがみこむ羽目になるだろう。


 きっぱり言いきった周に真昼はぱちくりと目を丸くして、それから小さく吹き出した。


「周くんらしいですね」

「俺が死ぬ。派手じゃないのがいい」

「ふふ、どうしましょうか」

「真昼」

「周くんに喜んでもらえるの、千歳さんと相談しますね」


 小さくはにかんだ真昼に、周はきゅっと唇を結ぶ。


(千歳に変なの勧めるなってメッセージを送っておこう)


 死活問題であり、真昼に引かれないためにも阻止しなければならない。

 今は他クラスの友人に借り物を返しに行っているらしくこの教室に居ない千歳にメッセージを送る決意をして、微妙に悪戯を考えていそうな真昼の頬をつついた。

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