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12 友人のお宅訪問

18時にも更新してますのでまだ読んでない方はそちらからお読みください。

22時に今日最後の更新を予定しています。

 あの掃除以来ほんの少しだけ、真昼との間にあった壁が薄くなった気がするが、特に距離が近付く訳でもなかった。


 学校では全くの無関係だし、夕飯をお裾分けしてもらう時にたまに世間話をする程度。

 先日も部屋の維持はきちんとしなさい、といった旨のお言葉をチクリといただいた。何だかんだ言葉はきついが、やはり面倒見はよい少女なのだと痛感する。


 きっちり釘を刺してくれるついでにお片付けのアドバイスまでもらっているので、周の家は掃除した時のままで保たれていた。




「おお綺麗になったな」


 綺麗になった、という事で休日に樹がやってきたが、よい方向での様変わりした部屋を見て感嘆の声を漏らしている。


「まさかここまで綺麗になるとは。あんな汚かったのにな。前も手伝って片付けたのにすぐ汚したし」

「やかましいわ」

「いやだってなあ。最長何日床にものが落ちてない状態が続いたよ」

「安心しろ新記録だ。二週間は続いている」

「新記録が二週間って事に恥を知ろうな?」


 普通は床にものを放置しない、と正論を言われて微妙にしかめっ面になるものの、樹は親切心と常識から言っているだけなのであまり拒絶も出来ない。

 そもそも、真昼に手伝ってもらう前に樹にも世話をかけていたので、こういった所では強く出られないのだ。


 ぐぬ、と押し黙った周に樹が愉快そうに笑う。


「しっかしまあ、ここまで綺麗になったならちぃも連れてこれるなあ」

「やめろ、お前らのいちゃつきを何故自宅でまで見なければいけないんだ」

「遠慮すんなよ」

「俺んちを溜まり場にするな」


 何が悲しくて友人カップルの仲睦まじげな様子を見せつけられなければならないのか。

 バカップルとの呼び声高い二人のいちゃつく様を見せ続けられるこちらの身にもなって欲しかった。


 樹は冗談で言っているのは分かっているものの、しょっちゅう二人の熱を見せつけられている身としてはあまり笑えない。

 そういうのは、互いの自宅だけでやって欲しいものである。


「まあ冗談として。こんだけ綺麗になってれば汚したりしないよな?」

「善処はしている」

「お前というやつは……まあいいけどな。出したらしまう癖だけはつけといた方がいいぞ」

「おかんか……」

「もー周ったらぁ、ちゃんとお部屋はこまめに掃除しないとだめよー?」

「気味が悪いし地味にうちの母親と口調似てて怖いわ」


 わざとらしくしなを作って裏声で注意してくる樹に、周は背筋を震わせる。


 樹と母親は面識もない筈なのだがなんだか似ていてぞっとした。

 そもそも男が女を強調した仕草をするのが気持ち悪いので即刻やめてほしい。


 うぇ、と舌を出した周に樹がけたけたと愉快そうに笑う。


「周の母親はこんな感じなのか。うちはほんと素っ気ないからなー」

「むしろその方が羨ましいわ。うちの母親は事ある毎に構おうとしてくるからな」

「息子想いのいい母親じゃん」

「あれ子離れできてないだけだと思うぞ……」

「いや確実に周がだらしないから構わざるを得ないんじゃ」

「やかましい。それ抜きにしても母さんは息子に構いすぎなんだよ」


 一人っ子だからなのか、周の母親はしょっちゅう周に構ってくる。

 甘やかすとは違うが、とにかくあれこれ世話を焼いたり変な気を回したりするので、嫌いではないもののちょっと相手に困るのだ。


 高校に通うため地元から離れて一人暮らしする時にも色々と言われたりしたし、時折抜き打ちチェックにこようとするので結構大変だったりする。


「ま、それだけ周は大切にされてるって事なんじゃないのか?」

「愛が重い」

「諦めるこった。いずれそれがいかに尊いものかって後から思い知るってやつだよ」

「経験則みたいに言ってるけど、お前現在進行形で反抗してないか」

「はっはっは。ちぃの事だからしゃーない」


 父親と彼女の件で色々といざこざがある樹が言うとあまり説得力がないのだが、言っている事自体は一理あるため大人しく聞くだけ聞いておく。

 こいつはこいつで問題抱えてるんだよなあ、とひっそりため息をつくが、肝心の樹は苦労をうかがわせないのんきな表情だった。ただ、「俺とちぃの仲を邪魔するなら馬に蹴らせるつもりだしー」と若干物騒な事を言っていたが。


「とにかく、親父はなんとかするからいいよ。とりあえず周は生活をきちんとしろよー?」


 へらりと笑った樹に「言われなくても分かってる」と微妙に渋い顔を作って返して、どっかの誰かさんと同じような事を言うなあ、とそっと苦笑した。




 樹が周の家を訪れた理由は生活を見る……ためではなく、単純に遊びにきたからなので、部屋の話は早々に終わり二人でゲームしていた。

 当初の目的は一週間後に控えているテストの勉強だった筈が、いつの間にか遊びに変わっていた。


「お前無駄に回復アイテム使ってたら足りなくなるぞ」

「なんとかなるなんとかなる」

「いや何とかなるってレベル上がってないのにそれ大丈夫な訳……」


 スリルを味わうのが好きらしい樹にどう突っ込もうか悩んでいた周だったが、部屋にチャイムの音が鳴ったためにすぐさま別の悩みが生まれてしまう。


「ん? 来客?」


 樹もゲームをメニュー画面にしてから顔を上げる。


 特に他人にこの家を教えている訳ではないと知っているし、家を訪れる友人もそう居ない。そもそも来客ならエントランスで足留めを食らうので呼び出しがくる筈なのだ。


「なんか分からんな、隣人辺りじゃないか? 回覧板とか」

「なるほどー」

「ちょっと出てくる」


 ひきつりそうな顔を何とか隠しつつ適当に樹をごまかして急ぎ足で玄関に向かう。


 彼女が呼び鈴を押した後に声を上げなかったのが幸いだった。


 こちらも確認せずに手早く扉を開けて、姿が見えないようにするりと隙間から外に出てそのまま扉を閉める。


 案の定真昼が居たので、いつもと違う様子の周にぱちりと瞬きを繰り返している彼女に「しー」と人差し指を立てた。


「……小声で頼む。樹がきてる」

「樹?」

「友人だよ。遊びに来てる」

「ああなるほど」


 周の隠密行動のような様子に得心したらしく頷いて、それ以上は追及せずにいつものようにタッパーを周に手渡す。

 朝から仕込んでいたのだろう。中身がおでんという、寒くなってきた今の季節にぴったりの品だ。


 ありがたく受け取った周は、渡す事に疑問を抱いていない真昼にそっと吐息をこぼす。


「……いやほんと、お前の事はいつもありがたいと思ってるが、それを言うには時間が足りない。ごめん」

「別に礼を求めてる訳ではありませんので。……よかったですね、友人を招く事が出来るくらいに片付いて」

「土下座の感謝をした方がいいか」

「違います。やめてください」


 私が嫌な女みたいじゃないですか、とあきれた風な眼差しを向けられるので、周も苦笑する。

 微妙に本気が混ざってしまったのは、彼女には本当に頭が上がらないからだろう。土下座してもよいレベルで世話になっていた。


 流石にこの量を無償でもらい続けるのは色々と悪いので、今度改めて食事代金の話をしたいところである。


「……じゃあ、お友達さんが来てるなら、あまり話してもいられないでしょうし。失礼します」

「……いつも助かってる。樹には相手を伏せとくから」

「そうしてください」

「まあ、仮に言ったとしても信じてもらえないだろうな」

「でしょうね」


 素直に肯定されるとそれはそれで複雑ではあるものの、周が樹の立場なら実は俺椎名にご飯作ってもらってる、と言われてもまず信用しない。妄想を疑う。

 それだけ天使様は高嶺の花という存在なのだ。


 イケメンで優秀な男相手ならともかく、自分のようなぱっとしないしだらしない男に手料理を振る舞うなんて、普通天地がひっくり返ってもあり得ないだろう。


「……一つ聞いてもいいか?」

「何ですか?」

「俺にこうしてご飯分け続ける利点ってなんだ」


 普通、労力もお金もかけるのに、無償で料理を渡すなんて、しない。周が逆の立場でもしないだろう。

 好意を抱いているなんて万が一にもない確率を期待するつもりはないが、不思議で仕方なかった。


 周の疑問に、真昼は少し考えるように視線を上に向けて、それから表情も変えずに「私の自己満足です」と返した。


「何て事はないのですよ。私は一人分作るより二人分作る方が楽ですし、単純に人に振る舞うのが好きみたいなので」

「料理好きって事か?」

「まあそれもありますね。あなたは厄介な勘違いしないでただ美味しいって言ってくれるので楽ですし、あなたの食生活は見てて不安なのでやはり自己満足です」

「……そういうもんか?」

「そういうものですね。ですので、気を病まなくても降って湧いた幸運とでも思っていてください」

「へいへい」


 これ以上は真昼も問答するつもりはないらしく、折り目正しく腰を折った後「失礼しますね」と自分の家に戻っていった。


(……そういうもんなのかなあ)


 無償で与えるには相応しくないと思うんだけどな、とぼやいて、周もまた自宅に戻った。




「誰だった?」

「近所の知り合い。おすそわけだってさ。冷蔵庫いれてくるからゲーム先進めんなよ」

「あ、ごめんボス戦終わらせた」

「おいこらふざけんな」

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