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115 通学風景

「視線を感じる」


 学校に近付くにつれて体に刺さる多くの視線に、周は思わず疲れたようにこぼした。


 視線の質は様々で、真昼と手を繋いで歩く男は誰だといったものや嫉妬、好奇心混じりのものもあれば羨望の眼差しもある。


 予想していたと言えば予想していたのだが、実際に味わうと想像以上に居心地が悪いものだった。


 向けられる視線にこもるのが負の感情だけではないのが幸いだが、それでも慣れないものは慣れない。

 地味で目立たない生活を好んで送ってきた周には、やはり落ち着かなかった。


「仕方ないですね。パッと見、すっかり変わっていますし」


 いかにも恋人ですよというアピールも兼ねて手を繋いで寄り添いながら歩いているのだから、当然同じ登校中の男子から視線が飛んでくる。


 ただ、体育祭で示された周と今真昼の隣を歩いている周はかなり違うらしく、口では誰何されないが視線がひしひしと問いかけてきていた。


「そんなに違うか?」

「ええ。なんというか、もちろん髪型が変わったので見た目が違うというのもありますけど、しゃんと背を伸ばして自信ある表情をしていますから、印象がかなり違いますよ」

「悪かったな普段が意気地なしで」

「自虐しないでください。……そもそも、周くんは変わったんですから。どっちの周くんも好きですけど、卑下する周くんはきらいです」

「嫌いと言われるのは嫌だから気を付けるよ」

「よろしい」


 小さく笑ってぴとりと体を寄せてくる真昼にまた視線が飛んでくる。


 今回は殺気混じりなので微妙に頬がひきつりかけたが、真昼が周囲ににこりと極上の天使スマイルを投げるとかき消えた。


 周囲に有無を言わせない天使様はある意味最強だった。


 比較的ましになった視線をちくちくと感じつつ、真昼の手を一度握り直して前を見る。もうすぐ学校につくが、学校だと尚更視線を浴びる事になるので今から微妙に胃が痛かった。


「ここでこの視線だと、教室に入るのが億劫になるなあ」

「諦めてください。……それとも、嫌?」

「嫌ではないよ。ちゃんと変わるって決めてるから」


 真昼の告白を受けた時点で、もう今までの自分では居られないと分かっていた。

 彼女の隣に居るためにも、恥じない自分であろうと決めている。努力を怠るより、多少の胃痛は覚悟で真昼に相応しい自分であるつもりだった。


 真昼は周の言葉に「……そうですか」と返して、絡めた指に力を込めた。


「あれ、まひるん?」


 隣の真昼の耳がほんのりと赤い事に気付いて声をかけようとした瞬間、後ろから声がかかる。

 聞きなれた声と気の抜けるようなあだなに振り返れば、目をぱちくりと大きく瞬かせた千歳が居た。


 きょとんといった表現が似合う表情の千歳は、真昼の姿を見て、それから視線を隣の周に移す。

 繋がれた手の辺りを見て「ははーん」とにんまりと笑った千歳は、小走りで周達に近寄って勢いよく周の背中を叩いた。


「おはよー。とうとうですかお兄さんや」

「うるせえ」

「まひるんもおはよー。うまく行ったんだねえ」


 べしべしと割と強めに叩いてくる千歳は上機嫌そうで、満面の笑みを浮かべている。


 今日は好奇心と嫉妬の眼差しばかり向けられていたので、純粋な好意の視線を向けられて少しだけ胸が熱くなった。


「おめでとうまひるん、見守り続けた甲斐があったなあ」

「色々と相談に乗ってもらいましたからね」

「うんうん。周が鈍くてどうすればいいのかとか」

「……真昼」

「だ、だって、実際周くんは鈍かったですし」


 それを言われるとあまり反論出来ない。

 ずっとアピールしてもらっていたのにきっちり受け止めていなかった自分が悪いし、千歳に相談するのも仕方ないだろう。


 その相談に乗った千歳は「まあ周だからねえ」とあまり嬉しくない評価を口にして、改めて周を見上げる。


 観察するような眼差しは、恐らくきっちり整えた周の姿を初めて見たからだろう。


「いやー、それにしても周の例の男フォーム初めて見たわー」

「どんな呼び方だ」

「いっくんとかゆーちゃんがそう言ってたからさあ。ふむふむ、いっくんほどではないけどいい男になったねえ」


 再度笑顔でぱしぱし背中を叩いてくるのは、彼女なりに気を使ったのだろう。

 見かけが変わってもいつも通りだ、という激励のように聞こえて、少し口許が緩んだ。


「お前にとったらそりゃ樹が一番だろうよ」

「そりゃもちろん。まひるんにとって周が一番なんだから文句ないでしょ?」

「そうだな。真昼の一番ならいいよ」


 千歳の一番になりたい訳ではないし、真昼が周が一番だと言ってくれるならそれで充分だった。


 ちらっと真昼を見れば、手を繋いでいる真昼は二の腕辺りに顔を寄せて小さく「……周くんが一番ですよ」と囁く。

 千歳の前での宣言は微妙に恥ずかしいのか、ほんのりと頬を染めていた。


「乙女ですなー。まひるんかわいい。周さえ居なければ抱き締めて愛でたのに」

「はいはい。通学路でやるもんでもないし教室について存分にしておけ」

「え、やった彼氏から許可出たよまひるん。あとでぎゅっとするねー!」

「え、は、はいどうぞお手柔らかに……?」


 何故か抱き締められる事になっていた真昼が困惑しつつも頷き、千歳が満面の笑みで真昼の隣を歩く。恐らく千歳は真昼の事を祝いたいのか、うずうずとしているのだろう。


 二人が仲睦まじくしているのを確認して、真昼から目を離し辺りを見る。

 視線の量は、学校に近付いているからか、更に増えていた。


(……教室行ったら、質問攻めにされそうだなあ)


 大量の視線を浴びながらこれから数分後の未来を想像して、周は二人にばれないように小さく苦笑いを浮かべた。

レビューいただきました、ありがとうございます(´∀`*)

(次でやっと教室にたどり着く)

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