105 体育祭の組分け
「あー、私赤だー」
来月に控えた体育祭の組分け発表に、千歳は残念そうに声を上げた。
先に結果が見えていた樹が白にふられているため、一応敵対チームとなっている。
「折角なら名字にちなんだ色がよかったなー」
「それどっちにせよお前ら敵対するぞ」
樹の名字は赤澤、千歳の名字は白河。二人が紅白カップルと言われるゆえんである。
「そうか……これが悲劇……敵同士なのに惹かれあってしまった禁断の愛……」
敵同士になった二人が嘆く振りをしていちゃいちゃしているのを呆れも隠さず眺めた周は、振り分けが書かれた用紙を眺める。
周は、門脇と一緒の赤組だった。おまけで千歳も居る。
逆に樹と真昼は白組に振り分けられていて、陸上部のエースである門脇が居るとはいえ、自クラスの振り分けを見た限りやや運動部が白組に片寄っている。
まあ周としては勝とうが負けようがどちらでもよいのだが、真昼にあまり無様な姿をさらさないかやや心配だった。
「周は何出る?」
千歳とのいちゃつきを終えてきた樹が話しかけてくる。
彼は千歳と共にこのクラスの体育祭の実行委員だったりする。クラスのムードメーカーらしい樹らしくあるが、あまり面倒を好んだりはしないのでよく立候補したな、というのが素直な感想である。
「種目何あったっけ」
「選べるのだと短距離走に各種リレー、障害物競走に借り物競走、二人三脚、玉入れとかあと綱引きかな。部対抗リレーとかは帰宅部の周には関係ないだろうし」
「玉入れがいいかな」
「地味なやつ行くな……最低二種目だぞ」
「じゃあ玉入れと借り物競走希望しとこ」
真昼に無様な姿は見せたくないが、リレーや短距離走はそもそも運動部の独壇場といった感じなので、周の出番はない。
二人三脚も組む相手の樹は敵チームだし、門脇が居るものの運動部の脚力とスピードについていける自信がなかった。
それなら無難なものを選ぶ、という呟きに、樹が苦笑を浮かべる。
「ほんとお前目立たないやつ行くな……いや借り物競争も場合によっては目立つけどな」
「あまり走る事がないからな」
「ブレねえなお前」
運動部と正面衝突を避けたいし、文化部の事を考えた競技に参加しておくのが一番安全だった。
「問題は男子全員参加の騎馬戦なんだよな……お前敵だし」
別にクラスで特に仲が良いのが樹と門脇というだけで、他の男子と話さない訳でもない。
お情けで門脇のチームに入れてもらえなくもなさそうだが、それでもやはり微妙な疎外感を感じそうな気がするのである。
大体は仲がよい同士で組むのだから、陰キャと自負している周は体育祭にあまり気乗りしなかった。
「ああ、それなら多分大丈夫だぞ」
「ん?」
「優太とカズ、誠がお前と組みたいって。ほら噂をすれば」
樹が指で示した方を見れば、三人の男子がこっちに手を振っていた。そのうちの一人は門脇で、残る二人はあまり話さない相手である。
周も彼らの事はある程度知っている。
門脇が仲良くしている相手であり、門脇が「折角なら俺の友達とも仲良くなってほしいな」と爽やかな笑顔で言っていた相手である。
一人は門脇と同じ陸上部で長距離走を得意としている真面目そうな雰囲気の青年が柊一哉、樹がカズと呼んだ男だ。
もう一人は男子の中でも比較的小柄で、女子曰く儚げと言われる青年が九重誠。
どちらも周達と門脇が一緒に居ない時に彼が過ごしている友人だ。
「おーい藤宮、こっちこいよ。騎馬戦のチーム組もうぜ」
彼らの中心で相変わらずの爽やかな笑顔で呼びかける門脇に、周が戸惑えば樹が「行ってこいよ」と背中を物理的に押してくる。
やや躊躇いがちに近寄れば、にこにことした門脇が迎え入れた。
「まだ藤宮は誰とも組んでないよな? よかったら俺達と組んで欲しいんだけど」
「俺はいいけど、二人的には良いのか?」
「構わないよ」
先に答えたのは、大人しそうな九重だった。
「優太も一哉も上背あるし、身長的には君が一番いいと思う」
「ああ、なるほど……」
恐らく九重は上に乗る側なので、騎馬の三人が体格が違えば乗りにくいし動きが遅くなると懸念しているのだろう。
周は身長が高い方だし、門脇や柊と並んでもそう身長は変わらない。
体格だけで言えば周はひょろくて彼らのような頑強さとしなやかさはあまりないのだが。
「柊はいいのか?」
「いいもなにもそういうつもりで呼んだんだけどな。優太が仲良くしてるってのも気になったし」
「安心しろ、藤宮はいいやつだぞ」
「まあ優太の見る目は確かだしそこは疑ってないぞ。それはそれとして、俺自身が好んで付き合うかと言われたら接してみないと分からないから」
ごもっともな台詞をいただいて苦笑している周を、柊がじっと見つめる。
周を吟味するような視線に微妙に居心地が悪かったが、いきなり仲のよい人間達の間に入るのだからこれくらいは当然だろう。
「まあ、よろしく頼む」
少なくとも付き合いを拒否する相手ではないと判断されたらしく、少しだけ柔らかい笑顔を向けられたので周も同じように小さく笑って「こっちこそよろしく」と告げた。