104 ぎこちない
短め。
「あの人と喧嘩したか?」
勘が鋭い樹は周と真昼の微妙な距離感を察したのか、昼食時にそんな事を聞いてきた。
ちなみに本日は千歳と真昼は不参加で、男子三人での食事となっている。
「え、喧嘩したの藤宮」
「いや、喧嘩はしてないけど……まあ、その、なんだ」
「何だその濁し方」
「……まあ、色々とあって、あいつがちょっと意識してるだけだ」
流石に添い寝して翌日に押し倒したとか、言えなかった。
具体的な事は言わずに今の状況を伝えると、樹の呆れたような眼差しが刺さる。
「お前さあ、いつまでへたれてんの?」
「……うるさいな」
「まあ藤宮って慎重なタイプっぽいからね。確証を得るまでアプローチ出来ないんじゃないのかな」
「それがへたれって言うんだけどな」
二人から遠慮のない言葉が飛んできて地味に刺さる。
いきすぎた慎重さというのは自覚している。門脇の言う通り、真昼が自分の事を好きだと分かるまで告白なんて出来たものではない。
それに、交際したいと思う反面、周囲の怨嗟が恐ろしくなるのであまり気が進まない。想い人がモテるという弊害がここにも出ていた。
「……せめて、もう少し俺が釣り合うくらいになったら、考える」
「藤宮ってどちらかと言えばスペック高いのに卑屈だからなあ」
「ほぼ最高スペックの門脇に言われても」
周が門脇ほど文武両道でルックスも整っていれば、そう苦労しなかっただろう。
真昼と付き合う事になれば、妬みはあれど相応しい男女がくっついたな、というところに落ち着く。
逆に、大衆が想定していないような普通の男がかっさらえば非難轟々だろう。自分と大して変わりがないのに高嶺の花を手折るのだから、妬みも増す筈だ。
「まあ妬むとかそういうもんはないが、それだけあれば自信が持てたのかなって思うよ」
「今からでも自信つけてあの人に突撃しろよ」
「だから今頑張ってるんだろ。すぐにつくもんでもねえ」
勉強面は鋭意努力中、とりあえず今後も十位以内を維持出来るようにするつもりである。
比較的周は記憶力と要領はいい方なので、そう苦戦せずに成績は維持出来るのが救いだ。あとはその維持のラインを上げていくだけである。
問題は、運動だろう。
門脇のように運動神経抜群ならよかったのだが、周は一般的な能力しか持ち合わせていないし、どちらかと言えば勉強面に偏っているので、目をみはるような活躍なんて望めない。
もう少し運動も得意であれば、来月に控えた体育祭でももう少し活躍出来るだろうに。
「俺は俺なりの速度で頑張るつもりだから、あんま急かさないでおいてくれ」
「藤宮がそう言うならそれでいいんだけど……見てる方はやきもきするよね」
「それな。背中蹴る会の会合次いつしようか」
「お前らまじで何作ってるんだよ」
まさか本当に作っていたとは思わず顔をひきつらせる周に、門脇が困ったように「まあ応援って意味だから……」と微笑みながら肩を竦めた。





