103 天使様と忠告
「真昼」
「は、はい……っ」
添い寝した日から、真昼は周に話しかけられると微妙にうろたえるようになった。
どうやら周が押し倒した事を意識しているらしく、触れようものならほんのりと顔を赤らめておろおろとするのだ。
その様子はうぶそのもので可愛らしいのだが、前より若干距離を取られるようになったのが地味にショックだった。
普段は無意識なのか意識的なのかは知らないが、無邪気に無防備にスキンシップをはかっていた癖に、今更距離を取られると周としても凹む。
本人が周を意識してくれているのは間違いないものの、今まであった温もりが離れてしまったのは、やはりもどかしい。
いつものように食後隣に座った真昼に視線を投げると、視線に気づいた真昼は淡く頬を色付かせて露骨に目をそらした。
理由は分かっていてもそういった態度を取られるのは、複雑な気分だった。
試しに手を伸ばして指先に触れるとびくんとこれ以上になく体を揺らして、周の体温から逃げるように少しだけ周との距離を開けるように座り直す。
クッションを抱えてぷるぷる震えている真昼に、周も再び手を伸ばすなんて出来ずにそっとため息をつく。
(滅茶苦茶意識されてる)
おそらく周の危険性、というか男の部分を思い知ったからなのだろうが、避けられるのは傷付く。
自分から仕向けた事なので到底文句は言えないものの、へこんでしまうのは男のサガである。
「離れようか?」
このままだと延々とぷるぷる震えていそうで流石に可哀想なので、真昼の心が落ち着くまでは距離を取るしかないか……と諦め気味に問い掛けると、勢いよく真昼が顔を上げてこちらを見た。
「そ、それはしなくていいですけどっ、私にも心の整理というものがですね」
「今まであれだけ忠告して聞いてくれなかったのがそもそもの原因だと思うんだがな」
「うっ。でも、まさかあんな風に言い聞かせてくるとは思わないじゃないですか」
「ああでもしないと俺がしぬだろ」
「何でしぬんですか」
「社会的にだよ」
交際関係にない女性と添い寝して夜を過ごした時点で外に漏れれば大問題なのに、あのまま真昼が油断しきって周を受け入れていたら、歯止めがきかなくなる。
だからこそ一度強引にでも注意したのだ。
その結果真昼が意識しすぎてぎこちなくなっているのだが。
「ほんと、気をつけてくれよ。俺に何かさせる隙を与えないでくれ」
「……そ、それは、分かりました、けど」
「俺もあんまり調子に乗って触るのが悪いけどさ。次やったら、俺も何するか分からないからな」
今度真昼が目の前で寝たら、自分が何をしでかすか本当に分からない。
彼女の信頼を裏切りたくないと思うと同時に、彼女に触れたくて仕方ないのだ。無防備にされたら、触って愛でる自信がある。
真昼が自分の事を好きだから油断しているのか、人として信頼して油断しているのかは分からないが、もうそろそろ我慢の限界に近いのだ。
「……周くんは、私の事」
「なんだ?」
「……何でもないです」
小さく呟かれた言葉が気になって聞き返せば、真昼は相変わらずの真っ赤な顔で横に首を振った。
(なんでくっつかないんだろう)