02・心の平穏とか精神安定のためとか
次で100話かー。
あまり実感が無い(;・∀・)
ここまで応援してくださった方々、
ありがとうございます。
勢いだけのギャグ・ラブコメです。
日本・とある都心のマンションの一室―――
家主の少女が机に座り、PCに向かって
独り言のように何かつぶやきながら、
キーボードを叩く。
【 して、今度は何用かな? 】
【 何ぞ我らを使う案件などあったか? 】
『アンカー』とネットを通じて連絡を取っていた
フィオナは、バリボリとお菓子を食べながら
対応するコメントを打ち込む。
「いやー、何ていうかもうちょっとこう……
ラブ展開があってもいいなっていうか?
気付いたら周りのキャラだけ先にそうなって
いるような―――」
【 ラ ヴ () 】
【 今はラブコメをラブとコメディに分けて、その
2つを足した後ラブだけ消した感じだしなー 】
「100%コメディじゃないですかヤダー!!
いいぜ、アタシに恋人が出来ないと思っているのなら
そのふざけた幻想をこの鋼鉄のボディで打ち砕く」
女神は室内で奇妙なポーズを決めながら、アンカー達の
書き込みに応える。
【 つーか攻略対象を絞ったらどうだ? 】
【 誰を一番先に恋人にするか、とかさ 】
【 まさか一度に全員恋人にするわけにも
いかないだろ? 】
彼らの書き込みを見ながら、女神は
ウンウンと頷く。
「そうですね、いきなり複数でのプレイは
彼らにもハードルが高そうですし」
【 自分はいいのかよ 】
【 おいやめろ。ここはR18じゃねーぞ 】
【 で? 『アンカー』はしないのか? 】
その最後の問いに女神は焦りうろたえる。
「い、いやそのっ、ですねっ。
やっぱりそういうのは自分で決めないとなーって
思っております所存でございまして、ハイ」
その答えに画面は【ヘタレ】【根性無し】
【喪女発生】【生涯片思い】と様々なコメントで
埋められ―――
それに対して女神は猛反発する。
その様子を、背後から同居するお目付け役(猫Ver)が
ため息をつきながらながめていた。
「また天界市役所からの手紙を放置して、
何をしているかと思いきや……全く。
どうせ何かくだらない事で揉めて
いるんでしょうが―――
それではそろそろ、本編スタートしますか」
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「では、まず現在の情報を確認しましょう―――」
マルゴットの言葉を皮切りに、それぞれが現状で
手にしている情報の共有を行う。
「『連合共同金融安定局』の設立ですが、
連合国家の序列上位の国々の間で―――
正式に合意が成立した模様……
ソルトとトニックの話では、半年以内に
連合国家内で公布されるとの事です」
その言葉に、侯爵はやや視線を上に反らし、
伯爵は座っているイスに深くかけ直す。
「まあ、止められないのは分かり切って
いたけどさ……」
「準備期間はあるでしょうが、正式に
決まった以上―――
いつでも動けるようにはなっている、
と見るのが妥当でしょうね」
重苦しい雰囲気が室内を支配し、沈黙が訪れる。
「(フィオナ様、何か発言しゅて
この空気を変えてくだしゃい)」
「(何ですかその突然の無茶ぶり!?)」
「(どうせ難しい話にはついていけないんでしゅから。
こういう時くらい役に立ってくだしゃい。
笑いを取ったりオチを付けるのが貴女の
仕事でしゅ)」
いきなり、お目付け役から理不尽な要求を
突き付けられた女神は、表面上は冷静を
保ちながら口を開く。
「ああ、あの―――
オリイヴ国とマービィ国ってどんな国って
いうか、身長体重その他趣味や食事の好み
などを」
「は?」
「え?」
ガルバンとレンティルはほとんど同時に、
素の驚きと疑問の反応を声として出す。
「あ、ええと……
お国の情報を知りたいんだと思います。
2つの国は、フィオナ様に取ってまだ
何も知らないところですから」
アルプがカバーし、『女神の導き』の2人は
ようやく理解した様子になる。
「な、なるほど」
「そういう事でしたか」
続いて、第二眷属がさらにサポートに回る。
「身長体重は国土の広さとか―――
趣味は文化や風習、食事の好みはそのまま
主食とか食生活、ですよね?」
「神様ですからね。
人間の感覚とはちょっと違うかも知れません。
……この解釈で合っているでしょうか?
フィオナ様」
ポーラがファジーの言葉の補足に入り、
それがそのままフィオナに振られる。
「それで大丈夫です。
ありがとうございます。
まだまだこの世界は不慣れですので、
眷属として、アタシのサポートをよろしく
お願いしますね。
(これでいいわよねナヴィ? ね? ね?)」
「(まあ笑いは取れなかっ……
想定とは少し違いましゅたが、うまく眷属が拾って
キレイに収めてくれたので良しとしましゅか)」
「(何でアタシ、出だしの芸人が滑ったネタを拾われる
みたいに言われてるの?)」
微妙に不満そうな女神とお目付け役のやり取りの後、
本格的に情報交換が行われる運びとなった。
「ふむふむ……
オリイヴ国は主に料理に使うオイルとかを
生産しているのでしゅね」
「連合国家の中では、一番流通していると
思います。
ルコルアの、鉱石を使用した工業品という
ところでしょうか。
国力としては、バクシアとルコルアの中間の
序列、くらいの国力と思って頂ければ」
ナヴィの問いにガルバンが応え、そしてフィオナは
書類に目を通しながらレンティルと向き合う。
「マービィ国は豆類が主力なんですね」
「はい。とは言っても、オリイヴ国と同じく
輸出品目の中では一番というだけで―――
基本的には自給自足で、国家内でほぼ
流通が完結しております。
それに穀物というくくりであれば―――
序列上位3ヶ国の一つ、グレイン国には
遠く及びません」
他のメンバーも配られた書類をペラペラと
めくりながら、情報の共有に努める。
「人口1万人5千人ほどという事は―――
マービィ国はここ、フラールより少し高いくらいの
序列なんですね?」
アルプが母、ソニアと一緒に書類に視線を
落としながら質問する。
「んー?
でも今、フラールの人口って2万近くだよ?」
代官を務める侯爵の言葉に、数名を除いて
キョトンとした表情になる。
「い、いつの間にそんなに増えたんですか?」
「ウソだろ?
いや確かにココの農園も人が増えたなーって
気はしてたけど」
ファジーとミモザ姉弟が驚きの声を上げると、
領主である伯爵と商人が説明する。
「アルプの義理の祖父にあたる、ボガッド氏の
おかげですよ」
「今、こちらに相当な投資をしておりますし―――
水路の工事や道路開発で、雇用が安定して増加して
いますから」
「それに、奉公労働者のUターンと相まって、
労働力は余っている状態だったからねえ。
あと、あの友好式典(4章第1話)以来、
バクシアから他の商人も先行投資のため、
どんどん入って来ているんだよ」
バートレット・マルゴットの後にバーレンシア侯爵も
続いて、現状の説明を補う。
「確かに、序列4位のバクシアが支援すれば―――
それに、ボガッド家が中心で事を進めてくれて
いるのなら、『枠外の者』の心配もありません」
「いーなー、金持ちは。
アタイらの国にも投資してくれねーかな。
ファジー、今度おねだりしてみたら?」
「ミ、ミモザ姉ったら!
ただでさえ鉱山の件(3章)でお世話になって
いるのに……!」
ポーラが納得したように感想を漏らすと、
ミモザが何の飾りもなく、素直に欲のまま
うらやましがり、それを弟が咎めた。
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
同じ頃、ローン・ボガッドは机に向かい―――
ある書類を作成し終え、その確認のため上から
見直していた。
そこへ、彼の妻・クレアがお茶を持って現れた。
「あなた、少し休憩したら―――」
「いや、今終わったところだ。
ルコルアのラムキュール屋敷の取得と、
敷地を農地化するにあたっての、農具の
発注書……
今回は骨が折れたわい」
自分で肩を揉むローンの前に、妻は静かに
ティーカップを差し出す。
「ファジーちゃんの果実を、ルコルアで本格的に
増産する計画でしたっけ。
お疲れ様、あなた」
│ ■アルプの家 │
「そういえば、私も投資開発の恩恵にあずかって
おりますけど―――
ビューワー伯爵様は大丈夫なのですか?
バクシア管理下で、税の収入は停止したままだと
聞き及んでおりますが。
いくら侯爵様の支援があるとはいえ……」
バートレットはよくバーレンシア侯爵に相談され、
その度に結構な相談料を受け取っていたが―――
さすがに限界があるだろう、とマルゴットは
心配していた。
「その言葉は、そっくりそのまま侯爵に
聞きたいと言いますか……
本当に大丈夫なのでしょうか。
いくらボガッド家の後ろ盾を得ているとはいえ、
毎回高額な相談料を頂くわけにも」
マルゴットから受けた視線をそのまま受け流す
かのように、横目でバーレンシア侯爵の方を見る。
「でもここでお金使う機会ってあんまり
無いんだよねぇ。
今は現地の使用人も何人か雇っているけど、
たかが知れているし……
まあ後は―――
僕の心の平穏とか精神安定のためとか……
それに、僕の領地からの収入も右肩上がりだし、
大丈夫じゃないかな、ウン」
│ ■ボガッド家屋敷 │
テーブルの対面にイスを持って来て、
顔を見合わせながら老夫婦はお茶を飲んでいた。
ふと妻は、夫が今まで作業していたのとは異なる
書類に気付き、視線を向ける。
「あらあなた、これは?」
「ああ、それは国内向けだ。
バーレンシア侯爵様の郊外の領地で工場を
作って、そこでアルプやファジー君の果実を
加工出来ないかと思ってな。
ストラジェン(シモン)君に相談したら、
酒やシロップ漬け、ドライフルーツにすれば
販路が広がると言われたからのう」
│ ■アルプの家 │
「(何かどこかで人知れず、問題が解決している
ような気がしゅる……)」
「?? どうしたの、ナヴィ?」
他国で物事が順調に進んでいる気配を察知した
ナヴィに、フィオナは不思議そうに問う。
「いえ、何でもないでしゅ。
しょれで、話がちょっと脱線してしまい
ましゅたが……
オリイヴ国とマービィ国、この2国は、
『枠外の者』がどのように関わって
いるのでしゅか?」
その言葉に、『女神の導き』の2人は硬直したように
背筋を伸ばした。
「……オリイヴ国よりも、緊急性が高いのは
マービィ国でしょう。
『奉公労働者』が―――
近いうちに、大量に出るような事態が
発生するらしいのです」
「……らしい?
不確定情報なの?」
ガルバンの言葉に、マルゴットは思わず聞き返す。
「推測の域を出ないというより―――
これ以上はこちらで調べられなかった、
というのが実情です。
我がマービィ国で『奉公労働者』の大量発生を
画策しているのは……
王族か……それに近い人物だと思われます」
そのレンティルの話す内容に、
全員の表情が強張った―――
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在3024名―――





