34・今度こそもう何もないよね?
毎週金曜25時(土曜日1時)更新のこの
小説だが実は日曜日から次の分を書き始め
いつも余裕ぶっこいて金曜日には修羅場に
なる事実を知る者は少ない。
勢いだけのギャグ・ラブコメです。
天界、フィオナの実家―――
そこでナヴィ(猫Ver)は、主人である
アルフリーダの旦那、ユニシスと雑談を
交わしていた。
「ふむ、そんな事が。
今回ばかりはどうなるかと思っていたのだが」
「何だかんだ言っても、きちんと活躍する
眷属を選んでいるのはさすがです」
ミイト国での一件―――
新しく眷属になったポーラの事が話題に上がり、
その働きぶりに称賛が与えられる。
「女性の眷属は初めてだったし、他の2人とは違って
助けた恩があるわけでも無かったからね。
正直、不安ではあった」
「まあ、フィオナ様も想定していなかったとは
思いますよ」
後ろ足で頭をかきながら、ナヴィは以前
アルフリーダから聞いていた話を思い出し、
それを目の前の元眷属にたずねてみる。
「そういえば、アルフリーダ様から聞いた事が
あるのですが……
ユニシス様が眷属だった時は、その―――
結構やんちゃだったと」
「あー、うん。
僕も経験あるから、フィオナにこの前
『狂信化』の確認をさせたんだけどね」
「……その、『狂信化』の危険性とは
どれくらいのものなのですか?」
「そうだね、能力UPとかそういうのではないよ。
ただ、思考というか考えが……」
―――軍神回想中―――
「……ですからね、ユニシス。
その、相手の言い分や立場を考えて、
説得する時も言葉を選びなさい」
少し長めの黒髪の少年が、主従である女性から
注意を受ける。
咎めるではなく、あくまでも優しく、諭すように―――
「えっ? きちんと最初に選択肢は提示していると
思うんですけれど」
まっすぐな瞳で応える少年
(ユニシス君・10ちゃい)に、
女神は困惑した表情で問い質す。
「……相手が消極的になったり断ったりしたら
二言目には『じゃあ死んで♪』って言って、
誰があなたの言う事を聞くんですか?」
「今までの人ほとんど?」
「(アカン)」
何の疑いもなくキラキラした瞳で自信満々に
言い放つ少年に、アルフリーダは戸惑いを
隠しつつ、対応を考えていた。
―――軍神回想終了―――
「(こりゃあ確かに、アルフリーダ様が
調教するわけだわ)」
話を聞いていたナヴィは、かつての主人の言葉
(4章21話)を思い出し納得していた。
「あの時の僕はママが絶対であって、それを
邪魔するモノは一切許さないって考えに
染まっていたからねえ。
しかも加護が武力寄りだったから余計に……」
「?? あれ? でもアルフリーダ様の加護って」
『時と成長を司り、見守る女神』の能力とは
かけ離れていると思われる加護に、従僕は
疑問を口にする。
「加護は神様の影響が強いけど、稀に眷属が
もともと持つ素質を引き出して強化してしまう
場合があるんだよ。
僕の場合、よほどママと相性が良かったのか
一気に軍神レベルまでいっちゃって」
「あー……なるほど。
そういえばそれで再教育を受けたとか
聞きましたが、大変だったでしょうね」
そこでユニシスは視線を露骨に反らし、
「まぁ……ね。
再教育というかオシオキというか……
アレよほど気に入ったのか、今でもママが時々
夜のメニューでゴニョゴニョ……」
「(この夫婦は……)
それじゃそろそろ、本編スタートしましょう」
│ ■ミイト国・首都ポルト │
│ ■高級ホテル『ドーセット』ロビー │
「お姉ちゃん?
―――あ」
ブロンドのロングヘアーにまだ幼い、それでいて
人形のように顔と体が整った少女がナヴィを
呼び止めた。
そして彼女の背後から、40代の父親らしき男が声を
かけてきた。
コート、ベスト、ズボンというシンプルな、
それでいて格調の高さが伺える衣装に身を包んで
2人に歩み寄る。
「ミリア、どうしたんだい?
―――おや、貴女は……?」
「お父様!
このお姉ちゃんと、あともう1人のお姉ちゃんがね、
あたしのブローチを拾ってくれたの」
娘であろうミリアと呼んだ少女の笑顔と、ナヴィの
顔を交互に視線を交わし―――
深々と彼は頭を下げた。
「おお、娘から話は聞いております。
貴女が拾ってくれたブローチは、娘の
誕生日に私が贈った物だったのです。
一言お礼を言いたいと思っておりました」
事の成り行きに、どうしたものかと思案して
いると、さらに男は言葉を続ける。
「失礼、自己紹介がまだでしたな。
私はクロート・ディーア公爵です。
この子は末娘のミリアです」
「……!
公爵様でしゅたか、失礼いたしましゅた。
私はバクシア国のバーレンシア侯爵様に
仕える者でしゅて……」
「おお、外国の方でしたか。
我が国へようこそ。
どのようなご用件で来られたのですかな?」
お互いに身分を明かし、それが終わると当然の
流れとして―――
父娘からナヴィの『主人』へと挨拶が行われる
運びになった。
│ ■バーレンシア侯爵一行 応接フロア │
「もう何もないって約束したじゃないです
かァーーーッ!!」
涙目で叫ぶ侯爵に、さすがにかける言葉が見つからず
男女4人は沈黙する。
しかし黙り続けているわけにもいかず、同じ貴族である
伯爵から口を開いた。
「あくまでも、お礼に来るだけだと思いますので……
あちらもきっと多忙でしょうし」
一度ロビーで挨拶を交わした後―――
同じホテルに泊まっている事を知ったディーア公爵は、
立ち話では何ですし、改めて後ほどお部屋にお礼に
伺います、と言って階上へ娘と共に去って行った。
きっかけを作ってしまったナヴィとしては気まずい事
この上なく―――
言い訳のように言葉をつなぐ。
「い、一応、用件は済んで後は帰るだけだと伝えて
ありましゅから」
続いて、サポートするかのようにマルゴットと
ポーラも次々に口を開いた。
「それに、その、このミイト国の公爵家と伝手が
出来ると思えば、貴重な機会かと思われます」
「わ、悪い話ではないのでは?」
問題はこれだけではなかった。
税金対策でバクシアと神託をつないでいたフィオナが
力を使い果たしてリタイアしており―――
つまり、この場にいる人間だけで何とかしなければ
ならない状況にあった。
「まあ、バクシアと繋がったところで―――
ボガッド氏は貴族ではありませんから、
どうこうなるわけでもないのですが……」
「まあ、ウン。
どちらにしろすぐ来るだろうし、対策なんか
立てられなかったと思う。
覚悟を決めて切り替えていこう」
佇まいを直すと、大きく息を吐き―――
それが合図であるかのように、ノックの音が
響いた。
―――10分後―――
「―――では、私はこの辺で。
お気を使わせてしまったようで申し訳ない」
「いえ、ディーア公爵とお話し出来ただけでも、
国に戻ってから自慢話が出来ますよ」
父娘で来た公爵との話は簡単な賛辞と挨拶、そして
贈り物であっさり終わり、拍子抜けのような空気が
一同で共有され、安堵していた。
「お姉ちゃん、またね」
ナヴィに向かって手を振る少女に、一同もまた
手を振って応え―――
公爵もまた微笑の表情で一礼する。
「久しぶりに楽しい時間でした。
一服の清涼剤、とでも申しますかな」
「お察しいたします。
重責ある立場上、いろいろと大変な事も
多いかと存じます」
バーレンシア侯爵の言葉に、彼はフッ、と微笑みを
苦笑のように、寂しげに変える。
「侯爵殿が噂通りの人間で良かった。
貴方がいるバクシアがうらやましい。
最近は我が国でも『新貴族』と名乗る連中が
のさばっていて―――
嘆かわしい限りです。
伝統や忠義など、過去の遺物になりつつ
あるのかも知れませんな」
「いえいえ、僕なんてそんな―――
それに、ミイト国にも忠義の厚い人物はいると
思いますよ?
シッカ子爵家とか」
「ははは、そう言ってくださると救われます。
では、私はこれで……」
そして公爵父娘を玄関まで見送り、応接室まで
戻ってくると、糸が切れた操り人形のように
ソファに突っ伏した。
「はぁあ~……
今度こそ、今度こそもう何もないよね?
話聞いてたら、実は王族と血縁であるとか……
代々宰相をやっている家柄とか……
ホントもうきっついなあ……」
憔悴と言っていいほどに疲れ果てた侯爵に、
マルゴットが話しかける。
「お疲れ様でした、侯爵様。
えっと、とにかく何かお腹に入れませんか?
考えてみれば、夕方からろくに食事も取って
いないんですから」
「しょういえば……」
緊張が解けたのか、誰からともなく空腹の感覚を
取り戻し、お腹に手をあてる。
「下にレストランはありますが、
正直、あまり動きたくない気分です。
部屋まで運んでもらいましょうか。
侯爵様もそれでいいですね?」
「うん、お願いするよ……」
「あ、ではわたしが頼んできますね」
伯爵の意見に侯爵が賛成し、そしてポーラが
すぐに行動を起こして玄関へと向かった。
│ ■高級ホテル『ドーセット』・プレミアスイート │
同じ頃―――
自室に戻ったクロート・ディーア公爵は、
娘ミリアを寝室にいる妻に任せると、一人
お茶を手に考えていた。
(バーレンシア侯爵……
清廉潔白、かつ高潔な性格と聞いてはいたが、
意外と気さくな人物であったな。
しかし、帰りがけに口にしたシッカ子爵家―――
数多あるミイト国の貴族の中で、どうしてその名を
口にしたのだ?
彼ほどの人物が言及したのだ。
きっと何か意味が―――)
「……誰かいるか」
その言葉に、彼以外いなかったと思われた室内に
突然、男が姿を現し跪く。
「ハッ、ここに」
「調べて欲しい事がある。
子爵家についてだが」
「子爵家……ですか?
規模にもよりますが数十の家があります。
全て調べるにはお時間が掛かりますが」
男の言う事に苦笑しながら、ディーア公爵は
話を進める。
「何も我が国全ての子爵家を調べろと
言っているわけではない。
調べて欲しいのはシッカ子爵家だ」
「それならばすぐにでも。
―――では、失礼します」
深々と一礼すると、顔は上げず―――
そのまま男の姿は消え、公爵1人が部屋に残された。
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
「そんな事があったのですか!?
ナヴィ様……!」
「―――なるほど、お話はわかりました。
しかし……」
翌朝、朝食後にフィオナを通じてバクシア・
フラール両国に事情が伝えられ―――
まずは第一眷属とその義祖父が、
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「なんつーか、ある意味『持ってる』よな。
バーレンシア侯爵様……」
「ミ、ミモザ姉っ!」
次に第二眷属の少年とその姉が―――
その事について同情と共に感想を述べた。
│ ■バーレンシア侯爵一行 応接フロア │
「まあ、あんな女神に関わった時点で
運はそうとう悪いかと思われましゅが」
│ ■ボガッド家屋敷 │
「どーゆー意味よ?
んでナヴィ、その侯爵サマはどうしてるの?」
女神の問いに、彼はミイト国から状況を伝える。
│ ■バーレンシア侯爵一行 応接フロア │
「さしゅがに疲れていたようでしゅので、
お昼までは寝かせておこうと、みんなで
判断しましゅた」
「今日か明日、『女神の導き』に連絡を取り、
それが終わったらこの国を出ようかと」
伯爵が今後の予定を伝え、そしてマルゴットと
ポーラが続く。
「まあ、いくら何でも」
「これ以上は―――」
「何も起こりましぇんよ」
ナヴィの言葉を最後に、ミイト国・バクシア国・
フラール国で笑い声が響いた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2847名―――