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31・僕もシアワセ、みんなシアワセ

最近youtubeが『魚の活け〆動画』を

私に勧める事に強烈な反対と不満を

表明いたしま見たら面白かった。


勢いだけのギャグ・ラブコメです。



日本・とある都心のマンションの一室―――


リビングでくつろぐ、家主の少女と、サポート兼

お目付け役の猫と、そしてもう一人の女性―――


「あー、フィオナちゃん今どこまで行ってる?」


「今ちょうどイベ10週目ってとこですね。

 まだコンプ半分くらい?」


お互いにスマホから目を離さず、忙しそうに画面を

タップする母と娘。

そして自分の主人の膝の上で、ナヴィは丸まっていた。


「……地球ここまで来て何をしているんですか、

 アルフリーダ様」


「あー、ちゃんと聞きたい事もあったんだけど。

 そろそろスタミナ尽きるし、いったん中断しない?」


母の言葉にフィオナはスマホから視線を上げて、

改めて向き直る。


「何かあったんですか? ママ」


「貴女の眷属の事なんだけどね。


 アルプ君、ファジー君、ポーラさん、の

 3人でしたっけ。


 様子はどうかなって」


「?? 別に、これと言って問題は無いかと

 思いますけど……」


質問の意図が今いちわからず、フィオナは

漠然ばくぜんとした答えを返す。


「まあ、まだ心配するような段階じゃ

 無いんだけど―――


 『狂信化きょうしんか』っていうのがあるの、眷属には」


「え”? 何そのダークサイドに堕ちるっぽい響きは」


驚き半分、好奇心半分という目で、娘は

アルフリーダを見つめる。

それに対し彼女は、頭をかきながら半ば

頬を赤らめる。


「そこまでたいした事じゃないのよ。


 ただ、パパが眷属時代に一度かかってるし、

 念のためにね」


「……ユニシス様が、ですか?

 想像出来ないのですが」


膝の上にいる従僕から問い返され、また

フィオナも彼と同様の目を向けている事に

気付いた女神は、まだ女神と眷属であった頃の

彼の説明をする事にした。


「えっとね。あの時はパパも若かったし。

 なんていうか、アレは―――」




―――女神回想中―――




一人の少年が、主人である女神と対峙し、

会話を交わす。


「見てください、アルフリーダ様!

 無礼者は一掃いっそういたしました!」


男性にしては長めの黒髪を風になびかせ、

爆撃後のような瓦礫を背景に、彼は主人が

褒める言葉を子犬のように待っていた。


「……ですからねユニシス、その、ちょっとは相手の

 言い分や立場を考慮して……」


「えっ? どうしてですかアルフリーダ様。


 世界にはアルフリーダ様と、アルフリーダ様の

 下僕と、アルフリーダ様の敵の3種類しか

 いないのですから、敵は問答無用で潰さないと!」


「(アカン)」


まっすぐな曇りの無い瞳で応える少年

(ユニシス君・10ちゃい)に、

女神は困惑の表情を浮かべていた。




―――女神回想終了―――




「へー……少しヤンデレ化してたんだ、パパ」


「当時はそういう便利な言葉は無かったのよ。


 長く盲信もうしん状態が続くとそうなるらしいから、

 貴女も気を付けなさい」


人差し指を口の前で立てて、指先をフィオナに

向けると、アルフリーダは娘に注意を促す。


「はーい、ママ。


 んー、でもヤンデレかあ。


 アルプとファジーが……

 あの2人がアタシのためにヤンデレ化……


 ヤッベそれはそれで何か興奮してきた♪」


自分を抱きしめるように両腕をその身に

巻きつかせ、くねくねと体をよじる娘に

アルフリーダは再び注意を重ねる。


「ヨダレをふきなさいフィオナちゃん。


 あと言っておくけど、パパはそれ黒歴史だと

 思っているんだからね。


 それでちょっと調きょ―――再教育し過ぎ

 ちゃったというか(4章21話参照)。


 ナヴィ、妙な兆候ちょうこうがあったらすぐ私に

 しらせるのよ」


「わかりました、アルフリーダ様。


 それではそろそろ本編スタートしましょう」




│ ■ミイト国・首都ポルト        │

│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・客間  │




屋敷の主人と、その客の男性が見下ろす先―――

すでに決着がついた敗者の方の女性は、敗北の原因に

思考と分析を巡らせていた。


「(いつから―――?


 いつからわたくしは間違っていたのでしょう……


 最初は手加減しました。

 でもそれは彼も同じ―――


 わたくしが剣の速度を上げれば、

 それ以上の速度で、後から跳ね返された。


 わたくしのそれまで鍛え上げてきた武技が、

 全く通用しなかった……!)」


「バーレンシア侯爵様、その方は?」


ポーラの質問に、彼ではなく隣りの商人が

顔見知りの名前を答える。


「レイシェン・シッカ子爵令嬢です。


 『新貴族』の一員で―――」


「腕前はかなりの物だよこの人。

 襲撃してくるだけの事はある。


 そこらの騎士サマじゃ、相手にすら

 ならないだろうね」


勝者の賞賛の言葉に、彼女は唇を噛み締める。




「(こんな―――

 こんな、位は高いだけの貧乏貴族なんかに……


 ……いえ、彼が貧乏だったのは過去の話。

 今はすでにそれなりの財産があり、ボガッド家の

 後ろ盾もある。


 ですが、剣の腕前は一朝一夕いっちょういっせきではどうにも

 ならないはず―――)」


ようやく肩でしていた呼吸が収まり、その代わりに

彼女の口から大きく息が吐き出される。


「大丈夫?

 なるべくケガはさせないつもりだったけど、

 君相手じゃ手加減は難しくてね。


 こうまで苦戦したのは、ビューワー君以外では

 ジャイアントベアか、はぐれ狼を相手にした時

 くらいかな」


侯爵の言葉は、そのまま重さを伴ってレイシェンの

体の疲労をさらに増加させた。


「(気付くべきでした……


 自分が弱ければ、護衛なり騎士なりを雇えばいい。


 お金の問題が無くなった今、どうして彼がその

 選択をしなかったのか―――


 答えは、『その必要が無い』から……


 この人は……『1ワンマン騎士団・アーミー』……!)」


「……とにかく、詳しい話を聞きたいでしゅ。

 あっちの部屋の方が広いでしゅから、そちらへ

 移動しましぇんか?」


ナヴィの問いかけに、シンデリンが目前の彼女に

移動を促す。


「そうですね。

 ……立てますか? 子爵令嬢」


「…………」


レイシェンは無言で立ち上がると、他の6人に

従い、部屋を後にした。




│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・応接室   │




先程までポーラが接待を受けていた部屋には

すでにバートレットが待機しており、

ギュウルフ男爵を始め、拘束された黒装束の

男たちを見張っていた。


そこにバーレンシア侯爵を始め、トーリ家の

面々とナヴィ、レイシェンが続く。


「な……っ!?

 裏切りやがったのか、テメェ!」


レイシェンの顔を見た途端、男爵は食って掛かるが、

彼女はため息をつきながら返す。


「……わたくしは負けたのです。

 この侯爵様に、手も足も出ずに、ね」


ポカンと口を開けたままのギュウルフに対し、

バートレットが後ろに回ると、彼の拘束を解いた。


「な、何の真似だ?」


「貴方も『新貴族』の一員ですよね。

 いろいろと、聞きたい事がありまして」


されるがままにバートレットに誘導され、

またレイシェンも同じくネーブルにエスコートされ、

両隣の席に着かされた。


その前には、シンデリンとバーレンシア侯爵が

対峙するように座る。


そしてナヴィは口には出さず、頭の中で

フィオナに要請を発し、バクシア・フラールにいる

眷属にそれぞれ、事情聴取の開始を告げた。




「さて、僕の事なんだけど―――


 どうしてトーリ家との縁談、まとめる気だと

 思ったのかな?」


バーレンシアの言葉に男爵と子爵令嬢は

顔を見合わせるが、観念したかのように

男の方から話始める。


「……そりゃそうだろう。

 昨日の今日だぜ」


「それ以外に―――

 急ぐ理由がありますか?」


ほとんど同時にバーレンシアとシンデリンが

大きくため息をつき―――


「私に、縁談をまとめる気はありません。

 『枠外の者』の一員として、顔を立てるために

 お受けしただけです」


「ホラ、当人にその意思が無いんだから。

 だったら僕も、無理強いする理由なんて無いよ。


 家族はガッカリするかも知れないけど……」


事の成り行きに、襲撃してきた一団も

率いてきた男女も困惑の表情を見せる。


「で、その……

 俺たちはどうなる?」


ギュウルフの言葉に、ナヴィとネーブル、

ポーラとシンデリンがそれぞれ顔を見合わせる。




「しょれは―――」


「侯爵様と、お姉さん―――

 シンデリンさん次第では」


話を振られた2人は改めて男爵と子爵令嬢に

向き直り、


「とにかく、このまま帰ってください。

 私に『枠外の者』、『新貴族』と事を構える

 つもりはありませんから」


「取り合えず、縁談の邪魔をするっていう目的は、

 達成したって事でいいんじゃないかな?」


望み通りに事が運んでいるはずの当事者の

2人は、釈然としない顔になる。


「いや、まあ?

 そうしてくれりゃ、こっちも金が入ってきて

 別にいいんだけどよ?」


「何も求めない―――

 無罪放免むざいほうめん、という事ですか?


 その、交換条件とか代償は……」


混乱しつつも、真意がわからず言葉を選びながら

確認する男女。

それに対するバーレンシア侯爵の答えは―――




「え? だってもうそれでいいじゃない。


 僕タチは結婚しない、そっちは目的はやり遂げたって

 帰って組織の人たちに報告すればおっけー。


 僕もシアワセ、みんなシアワセ。

 誰も損しない、メデタシメデタシ?」


それを遠巻きに見ていたナヴィ、ポーラ、

バートレットの3人は人知れずツッコミを入れる。


「見える……見えるでしゅよ。

 『これ以上厄介ごとはゴメンだ』

 というオーラが……!」


「奇遇ですねナヴィ様。

 わたしも侯爵様の背中から立ち昇る文字が

 ハッキリと見えます」


「確かに、他国の貴族を巻き込んでいる以上、

 表沙汰にすれば騒動になりますし、それは

 わからなくは無いのですが……」


いろいろと思い悩む一行に、開いていた神託から

連絡が入る。




│ ■バクシア国・首都ブラン  │

│ ■ボガッド家屋敷      │




「あの、すいません。

 おじい様が、『新貴族』の情報は

 聞けないのかと言ってまして―――」


「そっ、そうですよ。

 せっかくの情報源なんですから、聞けるだけ

 聞いておいてもっ」


便乗する形で女神も提案し、ミイト国である程度

さらに『事情聴取』が行われる運びとなった。




│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・応接室   │




「こうなっちまったら、煮るなり焼くなりって

 ところだが―――

 本当にそれだけでいいのか?」


「話せる事だけ話したら帰ってもいいって……

 何が目的なのか今ひとつわからないのですが」


当事者の男女は怪訝けげんな表情を隠そうともせず―――

そのまま疑問を口にする。


本来なら貴重な情報リソースのはずなのだが、

もう一方の当事者であるバーレンシア侯爵と

シンデリンが早期決着を望んだため、この条件で

落ち着いた。


「『連合共同金融安定局』……か。


 下っ端の俺は名前くらいしか聞いた事はないが、

 情報が外に出ているって事は、もう根回しは

 済んでいると見た方がいいんじゃねえか?」


「同感です。

 わたくしのような子爵レベルではなく、もっと上の

 意向で話は進んでいるでしょうし。


 設立そのものを止める方法は……無いと思います」


そこへ今度は、フラールにいる眷属が神託を通して

言葉を伝える。




│ ■フラール国・アルプの果樹園  │

│ ■アルプの家          │




「上の人に話が通ればいいんですか?


 こちらには侯爵様もいらっしゃいますし、

 何とか連絡が取れれば……」


ファジーからの意見に、バーレンシアは困った

表情を浮かべる。




│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・応接室   │




「例え僕がこの国の王様と話せたとしても―――

 それはちょっと難しいかな。

 何より、根拠がね。


 不測の事態に備える、それ自体は正当な理由だよ。


 ……反対する名分が無い」


あっさりと、しかし正論とも言える彼の言葉に

誰も反論出来ずに押し黙る。


「―――対応策ならあります。


 理論上可能、実現不可能なものではありますが」


少しの沈黙の後のレイシェンの言葉に、全員の視線が

彼女へ集中した。




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在2838名―――




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