30・お姉さんの扱いそれでいいの!?
コンビニでおやつを探していて、
『美味そう』と思って立ち止まったら
ペットコーナーだった時の衝撃。
焼きカツオとか美味しそうじゃねえか
チクショウ(;゜∀゜)と思った今日この頃
皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
勢いだけのギャグ・ラブコメです。
日本・とある都心のマンションの一室―――
いつものようにスマホを見ながら寝転んで
くつろぐ家主の少女と、そのそばで
毛づくろいをする一匹の猫―――
ナヴィは最後に顔を洗うと、フィオナの方へと
向き直る。
「そういえばフィオナ様。
最近、ここでの生活はどんな感じでしょうか」
ありふれた何気ない日常会話で、それとなく
困った事やサポートする事がないかを聞き出す。
返ってきた言葉は―――
「ぷしゅ~、って感じですね」
「ぷしゅ~、って感じですか」
また各々がスマホに毛づくろいにそれぞれの
動作を再開し、数秒後にナヴィが先ほどの
言葉を首を傾げて問い質す。
「……どういう意味ですか?
いやそれより何で擬音?」
その疑問に女神はスマホから視線を外し、
ナヴィに見ながら笑顔で手を上下に振る。
「やだもー、何年サポートやってんのよナヴィ。
アタシの言動に意味を求めるなんて」
「実質1年くらいしか経ってないんですけどね。
あと何で堂々と自信満々でそんな事言えるんですか。
……それじゃ、そろそろ本編スタートしますね」
│ ■ミイト国・首都ポルト │
│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・客間 │
「はああぁああ!?」
「ええぇえええ!?」
レイシェンの結婚同意の指摘に、バーレンシア侯爵と
シンデリンは思わず2人同時に声を上げた。
「いやいやいや!? 違うよ!?
僕は今日どうやって断ったらいいかを考えて
来たんだよ!?」
「わ、私だってそうですよ!?
適当に話を合わせてお帰り頂いたら断りの一報を
入れようかと」
男女の弁解に、目の前の女性は流すように話を続ける。
「―――では、どうしてこんなにも早くコトを
急いだのですか?
昨日の今日で招待状を出し、それを受ける……
出す方も出す方ですが、受ける方も受ける方です。
これは何より、予めお2人で予定が決められていた
何よりの証拠……!」
突き詰めてくる言葉に、男女はブンブンと
首を横に振りまくる。
「ちちち違うからね!?
こんな面倒な事はさっさと終わらせたいと
思ってたし、話が急過ぎるからって断るつもり
だったんだから!
そりゃ美人だし財閥の娘さんだしもったいないとは
思いますけれども!」
「私だって急いだのは、これ以上ヘンに疑われたく
ないからであって……!
だから早急に破談にして終えるつもりだったん
ですよ!
確かに彼は顔もいいし超優良物件だけど!」
焦りまくる男女を前に、なおもレイシェンは剣先を
2人から離さずに涼し気な目で問い詰める。
「まるで示し合わせたかのように同じような
弁解を……
言い訳する理由すら打ち合わせしていたという
事ですか。
これで確信しました。
この縁談、決してまとめさせません。
『枠外の者』・『新貴族』のためにも……!」
「だーかーらー!!」
「違うって言っているでしょおぉおおー!!」
また息を合わせたかのように―――
男女の絶叫が室内に響き渡った。
│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・庭園内 │
異変を感じたナヴィを先頭に、後にバートレットが
駆け足で続く。
「ナヴィ様、取り合えずネクタリンさんの方へ
向かってください!
私の足に合わせては……」
そこに、バクシア・フラール両国から神託がつながる。
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
「侯爵様の方は大丈夫だと思いますから。
ネクタリンさんの安全を第一に―――」
「そうなの? アルプ。
ちょっと頼りなさそうな―――失礼、
そこまで強い人には見えなかったんだけど」
第一眷属の言葉に女神は疑問を感じ―――
それと同じ疑問がフラールから発せられる。
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「ボクも侯爵様に会った事はありますけど、
すごく強そうには見えなかったと言いますか……」
「アタイも同じだ。
人気があるのは知っているけどさあ」
ファジーの言葉に姉のミモザも同調するが、
そこにアルプの母が入って続ける。
「ああ、お2人は知らないんですね。
バーレンシア侯爵様の実力を……」
│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・応接室 │
同じ頃―――
すでに屋敷への侵入を果たした、レイシェンとは
別の勢力が、ポーラとベルティーユのいる部屋へと
突入する。
しかし、そこで彼らは想定外の戦力に出くわし、
思わぬ苦戦を強いられていた。
「何だよ、この女……!
こんなのがいるなんて聞いてねぇぞ!」
ネーブルが剣を構え、その足元にはすでに2人ほど
打ち倒され、気を失っている。
その後ろで、2人の女性が互いに身を寄せ合い
固まりながら様子を見ていた。
「くそっ、ナヴィとかいう侯爵の付き人と
一緒にいた女か……!
まさか剣術の心得まであるとはな。
とにかくお前ら、早く何とかしやがれ!
ココには他にもネーブルっていう腕の立つガキが
いるんだよ!
今そいつにまで踏み込まれたら……!」
「はへ?」
「……え?」
首謀者の1人であるギュウルフ男爵の言葉に、
そのネーブルに守られている2人の女性は顔を
見合わせる。
「あの、ネーブルさんってこの人の事じゃ」
ポーラの言葉の意味がわからず、彼らは
ネーブルの顔を凝視する。
そこには、軽く薄紅を付け、肩掛けフレアに
ロングスカートをまとい―――
長剣を構えた『女性』がいた。
「え? ネーブルって男じゃなかったのか?」
「確か12、3才くらいの少年って話じゃ」
手下と思われる男たちの視線が、ギュウルフ男爵に
集中する。
「どういう事だ、いったい?」
その質問に、ネーブルは静かに目を閉じ―――
「あなたに優しさがあるのなら触れないでください」
「お、おう??」
理解出来ない返答に気の抜けた声を返すも、すぐに
状況を理解して対応する。
「と、とにかくだ。
お前さんがネーブルって事でいいのか。
それならちょうどいい。
オイお前ら、コイツをココに釘付けにするぞ!!
人質にするのは無理だが、時間稼ぎくらいなら
出来るだろ!」
それが号令であるかのように、残りの人数で
3人を取り囲む。
「く……!
これでは、バーレンシア侯爵様の救出が……!」
「あのー、ネーブルさんのご主人様は
トーリさんなのでは?」
ネーブルの言葉に、フィオナという仕える対象を持つ
ポーラが、一応ツッコミを入れる。
「……ん……
いつもの事……気にしないで……」
「いつもの事!?
それでいいの!?
あなたのお姉さんの扱いそれでいいの!?」
困惑するポーラの声が響き―――
だが状況は変わらず膠着したままの状態で、
ネーブルの顔に焦りの表情が浮かぶ。
「侯爵様とて、無抵抗とは思えませんが……
いったいどれくらいの戦力でここへ?」
「あっちに行ったのは『お嬢さん』1人だよ。
もっとも、ここにいる全員が束になってかかっても
勝てない『お嬢さん』だけどな」
ネーブルの問いに、ギュウルフは口元を歪めながら
答えた。
│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・客間 │
「やれやれ……
縁談を邪魔しに来たのはわかったけど、
それでどうするんだい?
いくら何でも、他国の侯爵家を襲っておいて
タダで済むとは思ってないだろう。
下手をすれば国際問題だ」
肩をすくめて、バーレンシア侯爵は当然の疑問を
口にする。
「侯爵様に黙って頂ければいいだけの話です。
乱入してきた賊―――それも女ただ一人に
負けたと、
そう吹聴したければ別に構いませんわ」
「フム……って事は、腕に相当自信があるって
見ていいのかな?」
彼の言葉に、彼女は剣を構え直す。
「今まで負けた事が無い……
などど傲慢な事は言いません。
ただし、ミイト国・王族直属の騎士団でも、
わたくしに勝てる男性は多くはないでしょう。
この国で5本の指に入る程度の腕前だと
ご承知くださいませ」
殺気にも似た気配を身にまとい、レイシェンは一歩
歩み出る。
それに対し、侯爵は受け流すようにペースを乱さず
頭をかきながら独り言のように呟いた。
「んー……
女の子と戦うのは趣味じゃないんだけどなあ」
「ご安心を。
大人しくして頂ければ、打ち身程度で済みますから」
そして―――お互いの剣の切っ先が消えた。
│ ■ボガッド家屋敷 │
「ナヴィ様、今はどのあたりに―――
もう屋敷の前ですか?
はい、ネクタリンさんの方を最優先に……!
侯爵様なら、シンデリンさんをかばった状態でも
何とかすると思います」
状況を確認しつつ、指示にも似たお願いをする眷属に、
フィオナはその根拠をたずねる。
「えっと……
バーレンシア侯爵さんって、そんなに強いの?」
その問いに、アルプは彼女の方へ向き直り、
「人間相手なら、まず負ける事はないと思います。
フラールでも、野菜の差し入れのお礼なのか、
よく害獣を倒して肉や毛皮を領民に下賜して
くださいましたから」
アルプの言葉の後に、母・ソニアが実家で
それを継ぐように語る。
│ ■アルプの家 │
「ビューワー伯爵様もよく、『狩りで余った
獲物だから』と領民に下賜する事がありましたが、
侯爵様もバクシアの自領で似たような事を
しておられたようです。
鹿やウサギ、他にもイノシシとか仕留めては
領民に分け与えておりました。
伯爵様と2人で、街道に出た狼の群れを
退治してくださった事も……」
ポカンとしながら、ファジーとミモザの姉弟が
その話を聞いていた。
「狼の群れを2人でって……」
「治安対策は貴族様の仕事かも知れねーけどよ。
たった2人でヤルか? フツー」
│ ■ボガッド家屋敷 │
バクシアにいる眷属が、その疑問に応えるように
説明する。
「伯爵様も仰ってましたが、直属の騎士や自警団を
雇うのは、お金がかなりかかるそうでして……
侯爵様に言わせると『自分でやれば確実だし、
お肉や毛皮も手に入るし、領民にも喜んで
もらえて満足♪』だそうで……」
「確かに、狼の群れを相手に戦えるのであれば、
人間相手に遅れを取る事はないだろうけどよ」
ソルトが呆れたようにため息をつき、それに続いて
女神と老人が感想を漏らす。
「い、意外とスゴい人なんですね」
「人は見かけによらぬと言うが……」
「あの、おじい様……
侯爵様から聞いてはいなかったのでしょうか?」
おずおずとたずねる義理の孫に、ローンは穏やかな
表情を返した。
「ワシもまだまだ常識に囚われておるようでな。
どうしても、バクシアでの基準でモノを見てしまう。
しかし、元はといえばアルプに優しくして頂いた
恩返しのつもりだったのだが―――
もしかすると、とんでもない傑物と関係を
持てたのかも知れんな」
そこへ、ナヴィから神託を通して状況を告げられる。
(聞こえますか、フィオナ様。
ポーラさんの安全を確保・確認しました)
│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・応接室 │
(おお! さすがはナヴィです。
賊はどうしました?)
「捕らえて縛ってありましゅ。
危険はもう無いでしゅよ。
間もなくバートレットしゃんも駆けつけるはず
でしゅので、連中の事はお任せしようかと。
これからバーレンシア侯爵しゃんのもとへ
向かいましゅ。
念のため、私とネーブルしゃんで、他の2人を
護衛しながら―――」
拘束され、床に転がっている集団を一瞥すると、
彼はネーブルと視線を合わせ、ポーラとベルティーユを
挟むようにして、部屋を後にした。
│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・客間 │
「お嬢様、ご無事ですか!?」
「侯爵様、大丈夫でしゅか!?」
勢いよく扉が開かれ、その先の室内で4人が見た
光景は―――
「トーリさんは無事だよ。
そっちこそ、ケガは無かったかい?」
バーレンシア侯爵が剣を下ろし、その後ろには
シンデリンが控え……
男女の眼前に、右腕を押さえながら膝をつく
礼服の女性の姿があった。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2835名―――