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29・いやスッゲー困るんですけどそれ

最近、会社近くの和食店で出される

メバル西京漬けが、実はサワラなのではないかと

思い始めた今日この頃皆様いかがお過ごしでしょうか。


勢いだけのギャグ・ラブコメです。



日本・とある都心のマンションの一室―――


「ふぬぬぬぬ……くうぅううう……ぬうぅおおおお」


スマホを両手で持ち、目の前で祈るようにうなる

女神を、お目付け役(猫Ver)は受け流す。


「……すごく聞きたくないのですが話の流れを

 考えて一応。

 何をしていらっしゃるのですか?」


ナヴィの問いに、姿勢を崩す事なくフィオナが

応える。


「あと1回……あと1回しか10連ガチャが

 引けないのよ。


 何としてでも限定キャラをこれで引かないと……

 マジ神様お願いします……!」


「お前が神様なんだよ。


 ていうか他の神様だってそんなお願い

 聞き届けたくないでしょうに」


ナヴィの冷製なツッコミが終わると、ふと室内に

声が響いた。


『そうよフィオナちゃん。


 こういうのは偶然だからいいのよ。

 そこに運命の出会いがあるのだから』


「マ、ママ……


 わ、わかったわ。

 アタシ、自力で手に入れてみせる!」


アルフリーダが諭すと娘は納得し―――

その流れをナヴィはただ受け入れる。




「しかし、アルフリーダ様。

 それであまりお金を使い過ぎるのも考えものかと。


 そういえばご主人様は

 『時と成長を司り、見守る女神』……


 こういう場合、救済措置とか何か

 出来ないのですか?」


『ン? 出来ない事はないわよ。


 ホラ私なら『りせまら』やりたい放題だし』


言っている単語の意味がよくわからず、

ナヴィは首を傾げるが、解決策があるのならと

彼は一つ提案する。


「んー、つまり何とか出来るのですか?


 それなら、フィオナ様が外れを引き過ぎる

 ようであれば、アルフリーダ様が手を貸して

 あげればいいのでは。


 ゲームの事ですし、精神衛生上その方が……」


お目付け役の言葉に、2人はしばし沈黙し―――


「え? うーん、いやでも……

 それはそれで何か違わない?」


『ええ、それはホラちょっと何か違うっていうか?』


「(面倒くさい人たちだなー)


 まあ、それならそれで。

 それじゃそろそろ、本編スタートしますね」




│ ■ミイト国・高級ホテル『ドーセット』   │

│ ■バーレンシア侯爵一行 ポーラの部屋   │




「こ、こんな感じでいいでしょうか。

 グラノーラさん」


「貴族のお屋敷に行くのではありませんから、

 礼服などの決まりはありませんけど……


 今、私が出来るコーディネートはこれが

 限界です、ネクタリンさん」


トーリ家から手紙を受け取った翌日―――

シンデリンのお屋敷へ向かうために、ただ一人の

バーレンシア侯爵の同行者となったポーラの

衣装をめぐって、女性陣は奮闘していた。


「動きやすくていいのですが……

 ちょっと地味なのでは」


「私たちは平民ですし、あちらより目立つのも

 避けなくてはなりません。


 これくらいでいいと思いますよ」


白いブラウスにややおおぶりのフリル、

ウエスト部分にコルセットを付け、その下に紺の

ロングスカートが続き、白と黒のモノトーンを

基調とした、やや細身の中性的な印象に仕上がる。


そして準備を終えた2人は、男性陣が待つ部屋へと

移動した。




│ ■バーレンシア侯爵一行 応接フロア   │




「あ、準備は出来ましたか?

 ネクタリンさん」


「は、はいっ」


「グラノーラさんがいて助かったよ。

 僕にこういうセンスは全く無いから」


「い、いえそんな……」


伯爵と侯爵の言葉に、ポーラとマルゴットが

それぞれ応え―――

そしてナヴィが、自分の出来る準備の確認をする。


「ポーラしゃんにはお屋敷に入った後、

 神託を繋げたままにして頂きましゅ。


 何かあれば、私とバートレットしゃんが

 突入しましゅので」


こうして―――

バーレンシア侯爵一行は、当人とポーラが

屋敷へ、


ナヴィ、バートレットは近い場所で待機し、

不測の事態に備える事になった。

(マルゴットは留守番)




│ ■ミイト国・首都ポルト      │

│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷   │




「お待ちしておりました。

 バーレンシア侯爵様。


 ネクタリン様は別室でお待ちして頂く

 事になりますが、よろしいでしょうか」


出迎えたネーブルとはすでに『3度目』となる

対面となったポーラに緊張の色は無い。


どちらかといえば、『主人』の方の表情が少し

固くなっていた。


「(あの、大丈夫ですか? 侯爵様)」


「(ああうん、僕は平気。

 それより、神託の方はちゃんと繋がっている?)」




│ ■バクシア国・首都ブラン  │

│ ■ボガッド家屋敷      │




「こちらはかんどりょーこーです。どーぞ」


「僕の方も良く聞こえます」


バクシアで、女神と第一眷属が返事をする。




│ ■フラール国・アルプの果樹園  │

│ ■アルプの家          │




「ボクの方も大丈夫です。


 ポーラさん、ナヴィ様の腕は確かですので

 どうかご安心を」


「ファジーの誘拐阻止の実績があるからなあ。

 大船に乗った気でいてくれ」


続いてフラールで、第二眷属とその姉がポーラに

言葉を伝える。




│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・門外   │




「う~ん……そう言いたいところなんでしゅけど」


期待されている肝心の戦力は、悩むような声を上げる。


「さすがに上位三ヶ国の財閥のお屋敷……


 全力で走っても、屋敷まで5分は覚悟しないと

 いけませんね」




│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷   │




「(あー……

 このお屋敷、本当に広いですもんね)」


屋敷内に入っているポーラは、伯爵の感想に

神託を通して同意する。


(私でも1分以内の突入は厳しいです。


 トラブルがあっても、何とかその時間だけは

 持ちこたえてください)


「(は、はい)」


歩きながら神託の中でナヴィに返事をし、やがて

案内人のネーブルの足が止まる。


「……では、ネクタリン様はこちらのお部屋で

 お待ちください。


 その間は、妹のベルティーユ様もいらっしゃい

 ますので、話し相手になって頂ければ」


ネーブルの言葉にペコリと頭を下げ、『主人』に対して

挨拶をする。


「は、はい。

 そそ、それでは侯爵様ご武運を……!」


(別に戦いに行くんじゃないんだけどなあ)


とは思っても口には出さず―――

苦笑しつつ、少し緊張がほぐれたバーレンシアは、

そのままネーブルにエスコートされて廊下を進んだ。




│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・客間   │




「……どうぞ、おかけくださいませ」


ネーブルにイスを下げられ、促されるままに

バーレンシア侯爵は座る。


目の前には、部屋で待っていたトーリ・シンデリンの

立ち姿があった。


「ご足労ありがとうございます、侯爵様」


軽く会釈すると、そのまま対面の席に座り―――

品定めをするような視線が、男の体を貫く。


「それでは私はこれで―――


 何かあればお呼びください」


室内には男女1組が残され、用意されたお茶に

手を付けるでもなく、互いに見つめ合う。


「(ドーセットでも一度お会いしたけど……

 顔は悪くないのよねぇ。


 身分も申し分ないし、貧乏貴族だったのは

 すでに過去の話で―――

 今やバクシアのボガッド家を後ろ盾とする

 有望株。


 フラールでの実績もあるし、英雄視されるのも

 無理は無いわ。


 フツーに考えれば超優良物件なんだけど……


 ま、私にはネーブルがいるから)」


冷静に分析と評価をしていく彼女とは対照的に、

バーレンシア侯爵は冷や汗を必死で隠そうとしていた。


「(うわー、何かめっちゃこっち見てるんですけど。


 これはアレ? アレか?

 一気に決めちゃいましょうって事?

 いやスッゲー困るんですけどそれ。

 何で僕の事そんなに気に入ったの?


 そりゃ彼女だって美人だしお金持ちだし何と言っても

 序列3位のミイト国の財閥の娘だけどさあ。


 でも今回ばかりは断らないと……

 いっそぞくでも乱入してくれたらウヤムヤに

 なるのに。


 トラブルカモン! ハプニング早よ来い!)」


お互いの思惑がすれ違い交錯する中―――

別の場所で侯爵の望み通り、不穏な動きが

起こりつつあった。




│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・応接室   │




「失礼します。

 ネクタリン様、ベルティーユ様―――


 お茶のおかわりはいかがでしょうか?」


「あ、い、いえっ。

 私は大丈夫です」


別室の応接室でベルティーユの歓待を受けていた

ポーラは、さすがに緊張の色を濃くしており、

続かない会話に苦慮していた。


そんな状況でのネーブルの登場は、彼女に取って

救いのように見え、表情が和らぐ。


「……私も……別にいい……

 ……2人の様子は……?」


「まあ、まだ始まったばかりでして―――」


やっと会話の糸口を見つけたと思ったポーラは、

2人のやり取りに割って入る。


「あの、ネーブルさん。

 ちょっといいですか?


 このお屋敷に入ってから―――

 ネーブルさんとベルティーユ様しか

 見ていないんですけど」


「基本的に掃除も料理も、シンデリン様のお世話は

 私1人でやっておりますからね。


 実のところ、使っている部屋も場所もあまり

 無くて、そんなに手間ではないんですよ。


 さすがに1ヶ月に1度は専門の業者に頼みますが

 ―――ん?」


ネーブルは何かに気付いたように疑問を発し、

窓に視線を向ける。




│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・門外   │




「……んみゅ?」


「?? どうかしましたか、ナヴィ様?」


急に声を上げたナヴィに、バートレットが

聞き返す。


「んー、何か屋敷周辺に、不特定多数の気配が

 近付いているような感じでしゅ」


「!」


ナヴィの言葉に、伯爵が腰の剣に手を伸ばした。




│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・庭園内   │




広い庭園の中―――

ジリジリと屋敷に近付く複数の人影があった。


先頭は男女で、この2人が背後の10名弱を従え、

襲撃と思われる方針を話し合う。


「では、わたくしは侯爵のいらっしゃる部屋へ

 直接向かいます。


 ギュウルフ男爵、あなたは手勢を率いて、

 付き人の方へ」


名指しされた男は、納得出来ない、理解出来ない

という顔で聞き直す。


「いや、お嬢様は何人連れていくんだ?」


「わたくしは1人で十分です。


 もしついて来たいという者がいるのであれば―――

 わたくしの剣技に巻き込まれない自信がある者のみ

 許可します」


レイシェンの言葉に、黒装束に身を包んだ一団は

答えを返さずに黙り込む。


「賢明なご判断ですね。


 では、せいぜい引っ掻き回してください。

 ―――行きますよ」


そして、彼女と男爵、そして黒づくめの一段は

無言で行動を開始した。




│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷・客間   │




「うん?」


疑問の声と同時に、バーレンシア侯爵は席を立ち、

窓の方を向く。


「?? どうかされました?」


シンデリンが彼の行動に対し意図をたずねる。


「……お屋敷の庭園って、そんなに使用人が

 いるんですかね?」


「いえ、別に―――

 手入れの日であれば業者の人が来ますけど」


シンデリンの言葉が終わらないうちに、彼は

後方へ飛ぶようにして、シンデリンの側に

立ち位置を変え、剣を構える。


「って事は『お客さん』だねえ。


 トーリお嬢さん、なるべく動かないようにね」


何が起きているのか、把握し切れていない

シンデリンも立ち上がり、彼の横にその身を

寄せる。


そして、ゆっくりと窓とは反対側の扉が開き、

『お客さん』が姿を現した。


「お初にお目にかかります、バーレンシア侯爵様―――


 トーリさんはご存じですよね?」


シンデリンを背後にかばうようにして、

侯爵は彼女と対峙する。


甲冑ではなく礼装で剣を持ち―――

レイシェンは、その姿に合わせるように

うやうやしく頭を下げた。




「……正気なの?

 いくらあなたとはいえ、子爵令嬢がこんな事をして

 タダで済むと思って―――」


彼女が知己の者だと確認したシンデリンは、

抗議にも似た言葉を突き付ける。


「ご安心を。

 組織も納得するものでしょうから。


 あなた達は何としてでもこの縁談、まとめるつもり

 だったのでしょうけど……


 是が非でも阻止させて頂きます。

 

 『枠外の者』、そして『新貴族』のために……!」


レイシェンの言葉に2人はポカンとなり、

やがてお互いに顔を見合わせ―――


「はああぁああ!?」


「ええぇえええ!?」


男女の絶叫が、広い客間に鳴り響いた。




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在2832名―――




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