27・泣いてわめいて荒ぶって
こんなクソ小説の事なんかより知ってる?
ナマズって成長を止めるホルモンが無いから
際限なく大きくなるそうですよ?
勢い(だけ)でやっているギャグ・ラブコメです。
日本・とある都心のマンションの一室―――
そこの家主である女神は、やや不満気な表情で
お目付け役兼サポート役(猫Ver)と対峙
していた。
「うぬぅうう~……なぜなにどーして?
なにゆえ信者数が増えないのでござる?」
「悩むかグチるか時代劇ふうの口調になるか
どれか1つに絞ってしてくれません?
それは軍神様にも指摘されていたでしょう。
そもそも、どのような女神か認識されていないと
ダメだと―――」
リビング、テーブルの上にナヴィが陣取り、
それを目の前にしてフィオナが顔を突っ伏せる。
「でもでもぉ~、『女神の導き』が結成されたのも、
アタシの功績を見て来たからでしょ?
それってアタシの眷属とアタシが下した
決断によるものじゃないですかあ~……」
「確かにそうだとは思うんですけど―――
問題はその活躍がフィオナ様ご自身に
つながらないというか、イメージが……
第一、最初のアルプ君を除いては本来の役目と
かけ離れておりますし、どう説明したものか」
お目付け役の言葉に、バンバンとテーブルを叩きながら
彼女は反論する。
「そんな事あーりーまーせーんー!!
きちんと話せばわかってもらえるはず!」
「んー……では、ちょっと練習してみます?
私も人の姿になりますから」
言うが早いかナヴィはテーブルから降り、人間の姿と
なると―――
シルバーの短髪を手櫛でかき上げながら、イスを
下がらせて座り、フィオナと向き合う。
「では、私をあちらの人間だと思って説明して
みるでしゅよ」
「あ、う、うん。でも地球で貴方が人の姿になるのって
すごく久しぶりというか―――
あ、ちょっと待ってて飲み物持ってくるから。
大丈夫大丈夫、睡眠薬とか絶対入れないし」
軽くため息をつきながら、彼はフィオナに先を促す。
「いいから練習しましゅよ。
しょれに、アルフリーダ様の加護もある私に
しょんな薬が効くとでも?
こっちから質問する形式でやってみましゅから、
応えてくだしゃい」
「は、はぁ~い……」
しぶしぶながらもナヴィの提案に同意し、2人は
練習を開始する。
「では、フィオナ様―――
お姿を見せて頂きありがとうございましゅ。
お仕事……というのも変でしゅか。
この世界でどのような事を?」
「はははっはい!
神様やっています!」
その答えに不安になりながらも、あくまでも練習と
いう事でナヴィはスルーし―――
「ではあの、女神・フィオナ様のその御力―――
しょれはどのようなものでございましょうか?」
「え、ええと、ですね。
果樹の豊穣を少々……」
緊張しながら声を振り絞るフィオナに対し、
ナヴィはさすがにツッコミに切り替える。
「お見合いじゃないんでしゅから……
しょれに、バカ正直に『果樹の豊穣』と
言われても、しょれがあの組織の何の役に
立つんでしゅか?
……仕方がないでしゅ。
何とかしょの時までに、適当な自己紹介を
考えておきましゅよ」
「お、お任せしますっ!
それでは、ほ、本編スタートしますねっ!」
│ ■ミイト国・高級ホテル『ドーセット』 │
│ ■バーレンシア侯爵一行 応接フロア │
「おはようございましゅ」
「おはようございます、ナヴィ様」
バクシア・フラールとの神託を終えた翌朝―――
応接フロアで、ナヴィとポーラが挨拶を交わす。
「……他の人たちはどうしたのでしゅか?」
「ビューワー様は、手紙が届いているとの事で
フロントへ―――
グラノーラさんはバーレンシア様を起こしに
部屋に行っております」
そう聞いたナヴィは、バーレンシア侯爵の
寝室につながるドアに視線を移した。
「……という事は、侯爵様が一番起きるのが
遅かったという事でしゅね」
「一番心労といいますか、精神的ダメージが
大きかったようですから……」
あの後―――
バーレンシア侯爵はお見合いの放棄を
願い出たのだが、さすがに貴族として
体裁が悪いと周囲の説得を聞き入れ、
お見合いはするが適当に話を合わせた後、
向こうの希望があっても断る、という結論に
落ち着いたのだった。
もちろん、シンデリンも『枠外の者』・『新貴族』も
破談を望んでいる事は知る由も無い。
また、『女神の導き』に対しては現状、
積極的な接触は控えるが、
お見合いが終わったらマルゴットが自前の諜報部隊と
連携させ、その連絡役として、ソルト・トニックを
指名する運びとなった。
「んあぁ~……よく寝た。
特にここのベッドは極上の寝心地だから余計に……」
「あ、ナヴィ様。おはようございます。
バートレットさんはまだ戻っておりませんか?」
侯爵と商人が応接室に姿を現した時―――
同時に玄関側の部屋のドアがノックされる。
「おはようございます。皆様揃っておいでですね。
侯爵様、寝起きで悪いのですが―――
シンデリン・トーリ様からお手紙が来ています」
「ん、グラノーラ君から話は聞いているよ。
まあ今、このミイト国で手紙を寄越す相手って
彼女くらいだろうし……」
伯爵から手紙を受け取り、そのまま封を切って
中身を取り出す。
「別に、朝食の後でもいいんじゃないでしゅか?」
「どうせ内容はお見合いの事だと思うし、
せいぜい、予定の日付くらい……
……は?」
決して長くはない文面の内容に目を通し―――
それを持つ手が一瞬止まり、間の抜けた声を発する。
「?? どうかしたのですか?
侯爵様?」
ポーラの質問に気付いていないのか、目は手紙に
向けられたままで、しかし聞いた事への答えを
侯爵は口にした。
「……あし……た……?」
│ ■ミイト国・首都ポルト │
│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷 │
「……明日……?」
「何でそんなに急な日程に?」
妹・ベルティーユと従者・ネーブルの問いは、
当然の疑問と言えた。
しかし、当の本人からの答えは―――
「もーこれ以上時間なんか掛けていられないっつーの。
もともと乗り気じゃなかった縁談で、疑いまで
かけられたんじゃやっていられないわ。
ここでモタモタしてると、新たな疑惑とか
吹っ掛けられそうな気がするのよね」
シンデリンは彼女なりにリスク分析をしていた。
その結論として、『この件はさっさと切り上げる』
と判断したのである。
「……んー……
一理……ある……?」
「少々安直な気もしますが―――」
半ば消極的だが納得する妹に対し、従者の方は
不安が拭えない感じを捨てない。
「それじゃあこれ以上どうしろって言うのよ。
泣いてわめいて荒ぶって相手から
『今回は見送りという事で……』
で終わらせる?」
「……確かに……相手から断らせる事がベスト……」
「え? 泣いてわめいて荒ぶるのは容認するの?」
姉妹のやり取りが始まり―――
これといった意見が出てこない従者は、ただそれを
見つめていた。
│ ■ミイト国・首都ポルト │
│ ■シッカ子爵邸 │
「おう、ラムキュールの旦那。
悪い知らせと悪い知らせがあるんだが―――」
「良い知らせは無いのか……
まあいい、それで? 何があった?」
シッカ子爵邸に集っていたギュウルフ男爵と
ラムキュール氏は、家主(の娘)であるレイシェンの
目の前で、情報をやり取りする。
「例のお見合いは―――
どうも、トーリ家……シンデリンのお屋敷で
やるらしいぜ」
「あそこには腕の立つ従者がいましたっけ……
ただ、ホテル『ドーセット』でないだけ
マシとしましょう。
さすがにあそこで手荒な真似は出来ませんからね」
お見合いについての情報を共有し―――
レイシェンは不穏な言葉を微笑みながら返す。
それに関心も無い表情で、ラムキュールは次を促す。
「―――で?
もう1つの『悪い知らせ』は?」
「そのお見合いってのが、明日だとよ」
男爵の言葉に、商人と子爵令嬢は顔を見合わせた。
│ ■バーレンシア侯爵一行 応接フロア │
1時間ほどして―――
ホテル付属のレストランで朝食を済ませてきた一行は、
改めて今後の事を協議する。
「……まあ、考えてみれば悪い事じゃないかもなあ。
さっさと終わってくれた方が僕も嬉しいし」
「それにしても―――
ずいぶんと急ですよね。
いくら自分の屋敷でするとはいえ、準備とか用意とか
いろいろあると思いますのに」
侯爵の言葉にポーラが返し―――
ナヴィがフラールの貴族と商人に質問する。
「こういうのって普通なのでしゅか?
こちらの世界では―――」
「いえ、聞いた事もありません。
ポーラさんの言う通り、いくら何でも準備の時間が
無さ過ぎるかと」
「何か、事を焦っているかのような―――
ただ、ミイト国とはいえ商人が貴族に出来る
要請ではないと思います。
それなりの『準備』はこちらにも必要でしょうね」
バートレットの言葉を聞いて、バーレンシアは
持ってきた荷物、その中の武器に目をやる。
「『アレ』の出番にならなきゃいいけど……
ああいうのって、好きじゃないんだけどなあ」
│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷 │
朝食を終えて、食後のティータイムに入った
姉妹と、それを立ったまま見つめる少年。
一息ついたと思われる頃に、ネーブルの方から
沈黙を破る。
「―――それで、当日の『警護』はどうなりますか?」
「最低限でいいでしょ。最悪、貴方さえいれば。
それにお見合い日程が確定したのって今日だし―――
バカな考えを持つ人がいても、昨日の今日じゃ
対応出来っこないわ」
シンデリンの言葉に、口に付けていたカップを
テーブルの上に置いて、ベルティーユが姉に
問いかける。
「……確かにネーブルお兄ちゃんは強い……
……でも……」
「信用してくださるのは嬉しいですが、過信は
禁物です。
相手の人数にもよりますが、私が守り切れるのは
2名が限界だと思ってください」
カップのふちを人差し指の腹で撫でながら、
シンデリンは妹にも従者にも視線を向けずに語る。
「他国の侯爵様に傷でも付けたらさすがに
国際問題になるわ。
優先すべきはバーレンシア侯爵様と心得ておいて」
「では後はベルティーユ様をお守り出来れば……
これで完璧ですね」
「いや多分その場にいねえだろ妹は。
というか何で真っ先に私を外すの?」
抗議する自分の主人に彼は微笑み返し―――
「知りたいですか?」
「そういう事を聞きたいんじゃ無いっていうか
アンタはどうしていつもそういう―――!!」
主人が従者に食って掛かり、それを涼し気に受け流す
光景を、今度は主人の妹が眺めていた。
│ ■シッカ子爵邸 │
「明日……ですか。
情報が表に出たと思ったら、即座に―――」
「これでは対策も取れんな。
しかし、これで確信した。
あの侯爵と彼女は、本気で話をまとめるつもりだ」
レイシェンとラムキュールは悲観的な感想を
漏らした後、彼女の方はすぐに持ち直す。
「まあ、いいでしょう。
それに、準備不足なのは恐らく向こうも同じ。
妨害だけならわたくし一人でも可能です」
「あぁん? お嬢様がか?
いくら腕に覚えがあると言っても、男相手じゃ」
ギュウルフ男爵のからかうような言葉が終わらない
内に、彼の喉元には剣の切っ先が突き付けられていた。
「我がシッカ家はもともと王族直属の
騎士団が出自―――
人間相手なら、遅れは取りませんよ?」
にこやかに、しかし目は笑っておらず―――
剣を収めると、ラムキュールに視線を移す。
「貴族というものはメンツが全てですからね。
乱入した賊相手に打ち負かされたとあれば、
縁談も何もあったものではないでしょう」
「……トーリ家も不始末は隠そうとするだろうしな。
だが従者はともかく、侯爵の腕前はどうなのだ?」
「身分だけ高い貧乏貴族の腕前など、たかが
知れています。
せめてそこの男性より歯応えがあればいいのですが」
放心して腰を抜かしているギュウルフを一瞥すると、
彼女はまた、その口元に冷笑を浮かべた。
「(それに今回の件―――
『枠外の者』に貸しが出来ます。
わたくし自身のためにも、シッカ家のためにも……
何としてでも妨害工作を成功させねば……!)」
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2819名―――