26・来てるなーアタシの時代来てるなー
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その場合は保証の対象外になります。
なお、初期状態での不具合は仕様です。
勢いだけのギャグ・ラブコメです。
日本・とある都心のマンションの一室―――
女神・フィオナと、そのお目付け役兼サポートの
ナヴィ(猫Ver)は、くつろぎながらとりとめの無い
会話をしていた。
「そういえばフィオナ様」
「何? ナヴィ」
一方はイスに腰かけて机の上のPCに
見入りながら―――
もう一方はイスに座る彼女の膝の上で
体を丸めながら声をかける。
「いえ、時々天界市役所から送られてくる
手紙や通知ですが―――
きちんとご覧になってますか?」
特に姿勢を変える事もなく、フィオナは答える。
「んー? だってアレ、ナヴィが知らせて
くれるんじゃ」
「緊急や速達の場合は中身は見ますけど、
別に全ての内容に目を通しているわけでは
ないですよ?」
そこでキーボードを叩く音、マウスの操作音が
ピタリと止まる。
「……見てないんですね?」
「え? ま、まあ、何ていうかそのー、
天界から何も言ってこないって事はー、
別にすぐにどうという事は無いんじゃないかなーと」
面倒くさそう&思いがけない爆弾がある可能性を
想定してか、フィオナは消極的に応える。
「ダメですよ。
ちゃんと内容を読んでください」
「えー、だって今忙しくて……」
膝の上から机の上に飛び乗り、改めて
フィオナと対峙するナヴィ。
「忙しいって、単にネット見ているだけでしょう」
「いやその……
これから動画で『食虫植物の生存競争』を見ながら
微笑む作業に入りたいんですが」
「言い訳のレア度が高過ぎるだろ。
何だその動画は。
微塵も緊急性を感じないので却下です」
観念したのか、席から立つと近くの棚からガサゴソと
それまでに来た手紙を整理する。
「取り合えず『重要』って書いてあるのがあったら
それから開けましょう」
「来た時点で開けて欲しいんですけどね。
まあたいていは自分が目を通してますけど、
フィオナ様がポストから持ち帰ってそのままの分も
あると思いますので……」
1人と1匹で手分けして手紙を仕分けしていくと、
緊急性は見られないものの、気になる表記の通知が
見つかった。
「あら? こんなのありましたっけ?
『眷属に関する手引き』?」
「フィオナ様に直接関係は無さそうですが……
もう3人も眷属がいるんですから、確認しておいた
方がいいのではないでしょうか」
ナヴィの言葉に従い、女神は封を開けて内容に
目を通す。
お目付け役もまた、一緒にのぞき込む。
「えーと、何なに……?
『眷属の功績と称号』?
眷属は神に従った後の行為と結果によって
自動的に称号が付与されます……?」
「そういえば最近、神眼展開は使ってますか?
いくら当初の危機は去っているとはいえ、
たまに見るくらいはした方がいいですよ」
「そうね。ちょっとやってみますか」
言うが早いか、彼女の目の前にスクリーンのような
ものが現れ、画面の中に眷属の地域と共に、彼らの
ステータスが表示された。
「お、我が最愛の弟夫(候補)アルプは―――
■アルプ・ボガッド(旧姓クリスプ)
称号1『癒しの使徒』
称号2『運命を覆す者』
ほほう、これはなかなか……」
「ファジー君にもついてますね。
■ファジー・ベリーニ
称号1『理を照らす者』
称号2『不当の破壊者』
ルコルアでの功績によってですかね、これは。
ポーラさんはこれから、という感じですか」
眷属3名のステータスを見たフィオナは、
満足そうに画面と目を閉じる。
そしてこぶしを握り締めガッツポーズを決めて―――
「イイネいいねイイですねー♪
さすがは我が眷属!
2人ともええやん!? 素敵やん!?」
「そしてそれを今の今まで肝心の女神に
認識されていなかった2人が不憫でならねえ」
「こ、今後は気を付けますよっ!
それじゃそろそろ、本編入りましょうっ!」
│ ■ミイト国・高級ホテル『ドーセット』 │
│ ■バーレンシア侯爵一行 応接フロア │
「―――という事があったのでしゅよ」
夕食後、ミイト・バクシア・フラールの三ヶ国の間で
神託が開かれ―――
ナヴィを始め、各々が状況を伝えていた。
ネーブルの事、尾行者、『女神の導き』を―――
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
「バーレンシア侯爵様は、我々の中でも
身分が最も高い方ですからな。
加えて『枠外の者』に対する実績もある―――
確かに対抗勢力からすれば、これほど味方にして
頼もしい存在はありますまい」
最も人生経験が豊富な初老の老人が、感心するように
見解を述べる。
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「そういや、ルコルアでも聖人君子みたいな
扱いだったような。
噂レベルだけど……」
「その辺はお義父様の影響も強いんじゃ
ないでしょうか。
事あるごとに侯爵様を褒め称えていた
ようですし」
それぞれの眷属の姉と母が、続けて感想を述べる。
│ ■バーレンシア侯爵一行 応接フロア │
「『枠外の者』に苦しめられている民衆にとっては、
救世主に見えても仕方がないでしょうね」
「ついこの前まで階級だけは高い名ばかりの
貧乏貴族だったのに、どうしてこうなった……」
ポーラの説明に、半ば放心気味で応える侯爵。
そこへバクシアにいる眷属から問い合わせが入る。
│ ■ボガッド家屋敷 │
「あの、そういえばナヴィ様。
ナヴィ様が尾行した曲者の話は……」
「ああ。俺としちゃそっちの方が気になるぜ」
アルプ、そしてソルトの問いに、ミイト国にいる
お目付け役が返答する。
│ ■バーレンシア侯爵一行 応接フロア │
「あー、こちらの『新貴族』の手の者でしゅたよ。
ラムキュール氏もいたので、『枠外の者』も
絡んでいましゅね」
「まあ、目を付けられている事は想定内ですが。
それで、彼らはどのような事を?」
バートレットが神妙そうな顔で聞き入り―――
少し間を置いて、ナヴィは口を開いた。
「今回の件でしゅが―――
しゅでにバーレンシア侯爵様が『女神の導き』と
接触しゅた事は相手の耳に入っているみたいでしゅ。
そしてどうも、バーレンシア侯爵様と
シンデリンしゃんが、裏で手を組んでいると
思われているっぽいんでしゅよ」
ナヴィの言葉に、その場にいた女性陣は
顔を見合わせる。
「え?? どうして侯爵様が?」
「初対面でしたよね?」
マルゴット、ポーラの当然の疑問に、彼は答える。
「私とネーブルしゃん―――
偶然出会ったんでしゅが、どうもしょれを偶然とは
見てないっぽいんでしゅ」
│ ■ボガッド家屋敷 │
「あー……昨日の今日だもんな。
そりゃ情報の受け渡しか、密会したと取られても
仕方ねーよ」
ソルトが頭をかきながら話すと、今度はフラールの
情報屋も反応する。
│ ■アルプの家 │
「だよねえ……
そもそもナヴィ様は神託が使えるから
直接会わなくても大丈夫だけど、
そんなの相手は知らないだろうし」
「あの、そういえばバーレンシア侯爵様は
大丈夫ですか?」
姉に続いて弟が、心配そうにたずねる。
│ ■バーレンシア侯爵一行 応接フロア │
「ん? ああ大丈夫。
これだけ状況が揃っていると、結び付けて
考えるのはむしろ自然だろう。
それと―――あの、フィオナ様は?
先ほどから反応がないのがちょっと怖い……」
意外と冷静に対処しつつも、バーレンシアは
女神に話を振る。
│ ■ボガッド家屋敷 │
「え? フィオナ様ですか?
あの、何やら天界の―――お父様? に
お話しするのが忙しそうで……」
アルプの視線の先には、片手をブンブン
振り回しながら、虚空に向かってしゃべり続ける
女神がいた。
「ねーねーパパ聞いてます!?
え!? だって『女神の導き』ですよ!
『女神の導き』!!
アタシを崇めるぐろーばる団体がついに!!
これはもう来てるなーアタシの時代来てるなー
ごめんねー普段はパワーをセーブしてたんだけど
ちょっと力を解放し過ぎちゃった? みたいな?」
「これ大丈夫なの? 女神様……」
その光景を、お邪魔していたメイと情報屋、
そして老夫婦も遠巻きに見つめる。
│ ■バーレンシア侯爵一行 応接フロア │
「あー、本人が楽しそうならいいんでしゅけどね。
害が無いなら放っておいてくだしゃい。
後で情報共有さえしてもらえれば。
もし元に戻らないようなら連絡を」
ナヴィは流れ作業のようにフィオナをスルーすると、
侯爵の方へ顔を向ける。
「情報共有はこれくらいでしゅが―――
どうしましゅか?」
「う~ん……
そうは言われてもねぇ。
しかし、僕とトーリさんが裏でつながっている、か。
当人は疑われている事、知っているのかな……」
│ ■ミイト国・首都ポルト │
│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷 │
「はああぁああ!? 何それ?
私があの侯爵と裏で密かに結託してる?
何でそんな事になってんのよ!」
同時刻、自分の屋敷で―――妹と従者を前にしながら、
シンデリンは思わず叫びを上げた。
「ん……報告に間違いは……無い……
ネーブルお兄ちゃんと、あのナヴィって人が
会っていたのを見られたのが……原因みたい……」
ベルティーユの言葉に、当事者の人物は自分の主人に
深々と頭を下げる。
「あー、アレ見られちゃっていたのか。
確かにタイミングとしては出来過ぎかも……
申し訳ございません、お嬢様」
「お詫びは体でお願いします!!」
即答するお嬢様の声を流れるように無視すると、
妹の方に情報の再確認を行う。
「ベルティーユ様、それで―――
状況といいますか、どのくらいその情報を元に
疑われているかわかりますか?」
「……情報元は、昨日ネーブルお兄ちゃんが
邪魔した……ギュウルフ男爵で……」
「あー、あいつかあ……
ていうか男爵だったんだ」
「……それに、シッカ子爵もバーレンシア侯爵様を
調べていて……
それで、その情報と合わせて……
……そこに『枠外の者』、ラムキュール氏も
いたから……」
妹が従者と2人で話し込み、蚊帳の外になった
シンデリンはその光景をただ眺めていた。
(やばい! 無視されるのって思った以上に寂しい!)
「……シンデリン様もちゃんと聞いてください。
当事者なんですから」
ネーブルのツッコミに、一人心の中で叫んでいた
彼女も、ようやく話し合いに戻った。
│ ■ミイト国・首都ポルト │
│ ■シッカ子爵邸 │
「―――でよ、どうすんだ?
ラムキュールの旦那」
ビンから直接ラッパ飲みしながら、男爵は
自分のスポンサーにたずねる。
「もしこのお見合い自体、仕組まれたものだと
すれば、表立って反対は出来ん。
結婚になれば祝事だからな。
しかし、なぜだ?
どうして消極的だったお見合いに、こんな―――」
「それを逆手に取っての事だとしたら?
『枠外の者』は利益に敏感ですし、ねえ。
意外と根に持っていたのかも知れませんよ?
後始末を押し付けられた事を―――」
商人の疑問に子爵令嬢が笑顔で応え、口元を
歪めながらラムキュールは続ける。
「笑いごとではありませんぞ、シッカ子爵令嬢。
ミイト国有数のトーリ財閥とバクシア国の
ボガッド家が組めば、無視出来ない勢力となる!
しかもこの両家はもともと『枠外の者』だ。
その影響は計り知れない……!」
│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷 │
「……それで……お姉さま……
どうするの……?」
「いくら何でもリスクが高過ぎるわ。
『枠外の者』『新貴族』―――
両方敵に回すくらいだったら」
ため息をつきながら、妹の問いにシンデリンが応え、
│ ■バーレンシア侯爵一行 応接フロア │
「どうしますか? このお見合いは……」
「僕には荷が重過ぎるね―――
余計な事に巻き込まれる前に」
ポーラの問いに、イスに深く腰掛けて
バーレンシア侯爵が深く息を吐き、
│ ■シッカ子爵邸 │
「このお見合い、何としてでも―――」
「『壊して』差し上げましょう……♪」
商人が立ち上がり片手でテーブルを叩き、
子爵令嬢が言葉の後に、グラスを口に付けた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2815名―――