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25・その……何だ……困る

1週間ぶりの更新です。


皆さんはご存知だろうか? フィオナという

恐ろしいミーム感染を。

この小説のフィオナという概念を知るだけで、

出オチや茶番という事態を引き起こします。


勢いだけのギャグ・ラブコメです。



日本・とある都心のマンションの一室―――


天界・フィオナの神殿じっか―――

そこで女神・フィオナは、両親、そして

お目付け役兼サポート役(猫Ver)と一緒に、

久しぶりの一家団欒いっかだんらんを過ごしていた。


「最近はどう? フィオナちゃん」


「どう? って言われましても。

 今のところ、またナヴィと仲間が新たな調査と

 言うか、動いてくれていますけど……


 ただそこが眷属の出身地外である事と、

 信仰地域外なので、あまり関われないんですよー」


後ろ足で頭を一通りかいた後、ナヴィは補足する。


「それは仕方ありませんよ。

 そういう仕組みになっておりますので」


「そういえばパパ、アタシこれでも今や三ヶ国に

 眷属がいるんですよ?


 なのに信者数が全然増えなくて……」


娘に質問を振られたユニシスは、口にしていたお茶を

離し、テーブルに置いて応える。


「そもそもフィオナは『果樹の豊穣を司る優しき女神』

 だからね。


 それに、直接解放してもらったフラールの民なら

 ともかく―――

 バクシアやルコルアで『豊穣の女神』として、

 信仰が得られるか、となると……」


「あーあ、どうしてパパとママの娘なのに、

 こんな地味な加護になっちゃったんだろ」


不満そうにテーブルに突っ伏してグチるフィオナに、

ユニシスとアルフリーダは微笑みながら語り掛ける。


「何も、今ある加護が全てという訳ではないさ。

 僕だって最初は、加護も何も無い人間だったんだし」


「パパの言う通りですよ。

 貴女はまだまだ神様としては初心者

 なんですからね。

 これからも頑張りなさい」


それでも不満気な表情を崩さないフィオナを、

アルフリーダに撫でられながら見つめるナヴィ。




(んー……しかし……


 いきなりハードモードになったフラールの問題は

 何とかなりましたし……


 ミモザさん・ファジー君と『枠外の者』との

 トラブルも、ちゃんと人間のルール内で解決……


 ルコルアではフィオナ様が作った

 『ぱんつぁーふぁうすと』が無ければ

 価値の無い鉱山をつかまされてオシマイ

 だったはず……)


「……あれ?

 何気にチートっぽくない?」


「ん? どうかしたの、ナヴィ」


思わずこぼれた言葉に、主人であるアルフリーダが

聞き返す。


その傍ら、自らのお目付け役&サポート対象は

父親と会話を続けていた。


「フィオナ、辛かったらいつでも帰ってきて

 いいんだよ。

 無理に神様を続けなくたって……」


「ん~、でもねパパ、もっと属性とかジャンル別に

 眷属集めておきたいからぁ~♪」


その光景を見て、ナヴィは自らに沸いた疑問を

払拭ふっしょくする。


「……まあ、たまたまでしょうね」


「?? 何の事? ナヴィ」


「いえ、何でもありませんアルフリーダ様。


 それではそろそろ、本編スタートしましょう」




│ ■ミイト国・高級ホテル『ドーセット』  │

│ ■バーレンシア侯爵一行 応接フロア   │




「う~ん……」


寝起きから間もないと思われるバーレンシア侯爵は、

人目もはばからず大きく伸びをする。


「大丈夫ですか?

 体調はもう戻られたでしょうか」


もう1人の貴族であるバートレットが、彼の体を

気遣う。


「まあ、どちらかと言うと精神的な負担だしね。


 ……ん?

 グラノーラさん、ネクタリンさんはいるみたい

 だけど……」


彼は、マルゴット、ポーラがいる事を確認すると、

姿の見えないもう一人についてたずねる。


「あ、ナヴィ様はお部屋で休んでおりまして―――」


「起こしてきましょうか?」


マルゴット、ポーラの応えと同時に応接室の

扉が開き―――

最後の同行者が部屋が入ってきた。


「その必要はないでしゅよ。

 お待たせしましゅた」


バートレットが出迎え、エスコートして

ナヴィを席につかせる。


「それでは、揃ったところでさっそく神託を……

 と言いたいところですが、先にナヴィ様にも

 状況を聞いて頂いた方がいいかと。


 バーレンシア侯爵に、ある者が接触してきまして」


「いいでしゅよ。

 しょれに、こちらも新たな情報を先ほど

 手に入れてきましゅたので」


その言葉に、ポーラはきょとんとする。




「先ほど?

 ナヴィ様は休んでおられたのでは」


「昼間に行った店を出た後に、昨日のドロボーさんが

 尾行してきたんでしゅよ。


 知らないフリをしてホテルまで帰った後に、

 彼を逆に尾行してきたんでしゅ」


ナヴィの応えに呆気あっけにとられるポーラと侯爵とは

正反対に、ルコルアでの諜報活動を見て来た2人は

それぞれ納得した表情を見せる。


「そんな事が……

 バーレンシア侯爵の件と何か関係が?」


バートレットが疑問を口にすると、ナヴィは消極的な

答えを語る。


「そりぇは無いんじゃないでしょうか。

 化粧品店に入るまで気配は感じません

 でしゅたし、偶然かと思われるでしゅよ。


 まあとにかく、バーレンシア侯爵の話を聞いて

 からでしゅ」


そこで、場は静まり返り―――

渦中の人物の口が、重たそうに開く。


「そうだね……


 実は今日、ビューワー伯爵と一緒に、方々の有力者に

 挨拶がてら、探りを入れている途中で―――」




―――バーレンシア侯爵回想中―――




それは、3件ほど貴族・豪商の家を回った後での

出来事だった。


│ ■ミイト国・首都ポルト      │


2人の貴族は、露店で賑わう道を抜けて、

横の脇道―――路地裏に入りながら語り合う。


「……なかなかシッポがつかめませんね、

 侯爵様」


「だね。『枠外の者』はともかく、『新貴族』の

 事になると、一気に警戒心が増す感じ。


 という事は上位三ヶ国でもそれなりの影響力が

 あるって事かあ。


 厄介な相手だよ、ホント」


気が抜けたような話し方だが、決して分析は

間違っておらず―――

そんな侯爵を見て、伯爵は安心と尊敬が

混じったような視線を寄せる。


「……で、どうしますか?」


「そうだねえ。この辺でいいんじゃないかな?


 ―――人通りも少なそうだし」


2人が同時に振り返ると、ハンチング帽を被った男が

思わず足を止める。


年齢は20代半ばだろうか、

短いジャケット―――紺のジャックを着込み、

パンタロンを履いた下半身は、緊張のためか

震えていた。


「どうも今朝方から尾けてきたみたいだけど……


 僕に何か用?

 それとも、用があるのは伯爵の方かな?」


「『枠外の者』、『新貴族』―――

 どちらの手の者でも構いませんよ。


 ちょうどこちらも、情報を欲していた

 ところで……」


そう、バートレットが言い終わらないうちに―――


その男は身を沈め、手の平を下に着け、額を地面に

こすりつけていた。




「も、申し訳ございません!

 バーレンシア侯爵様、ビューワー伯爵様!!


 わたしめは、『枠外の者』でも『新貴族』でも

 ありません!


 それらに対抗する組織『女神の導き』の一員、

 レンティルと申します!


 是非とも一度、お話を聞いて頂きたく……!」


「「……『女神の導き』?」」


それを聞いて、2人の貴族は顔を見合わせた。


「バーレンシア侯爵様におかれては―――


 女神様の眷属たる少年と行動を共にし、

 また高潔なる人格と聡明なる頭脳、


 相手の権力や財力をものともしない勇気で、

 『枠外の者』どもの計画を次々と潰した『英雄』と

 聞き及んでおります!」


「あのー……人違い、では?」


ぎこちなく片手を上げて、わずかな望みにかける

バーレンシア。

しかし、すぐにそれは打ち破られる。


「とんでもございません!

 わたしめは、この目で侯爵様の、フラールでの

 代官館を見ました!


 まるで廃屋と見紛みまがうようなボロ屋敷……!

 他国の民と苦労を分かち合おうと、自ら

 貧しい苦境に身を投じるその姿勢を……!」


そこが一番安かっただけなんだけどなあ、と

思っていても口には出せず、どう誤解を解いた

ものかと言葉を選ぼうとする侯爵の前で、

彼はさらにバーレンシア侯爵を称える言葉をつむぐ。




「しかも地元の民草から献上された食材を、

 見下す事もさげすむ事も無く喜んで受け取り、

 食していると―――


 生活環境すら平民と同じに落としてまで、

 民と労苦を共にするそのお姿は、まさに

 施政者しせいしゃの鏡とも言うべきもの!!」


もともと貧乏貴族だったし、食費が浮くから

喜んで受け取っていたんだけどなあ、

と思っていても彼は口には出せず―――


隣りで聞いているバートレットもフォローの

仕方とタイミングがつかめずにいたが、

この状況を打開すべく、目前で地に伏している

青年に声をかけた。


「とにかく、頭を上げてください。


 せっかく人目に付かない場所まで誘導したのに、

 こんなところを誰かに見られでもしたら―――」


その言葉に、レンティルと名乗った青年は

弾かれたように直立に起き上がる。


「もっ、申し訳ありませんでした!


 近くに我々のアジトがございます。

 ぜひ、そこでお2人にお話しを……!」


―――バーレンシア侯爵回想終了―――




│ ■バーレンシア侯爵一行 応接フロア   │




「というわけでね……」


額に手を当てながら、困惑とも笑みとも取れない

表情で、侯爵は話を終えた。


「彼らの話で判明したのは―――

 予想していた事ですが、経済的に圧迫されている

 平民はもとより、『新貴族』についてはその存在を

 こころよく思わない王侯貴族もいるという事です。


 『伝統派』とでも呼べばいいのでしょうか」


「確かに、伝統を重んじる貴族や名門に取っては、

 危機感を覚えるような勢力でしょうからね」


バートレットの話に、マルゴットが感想を

続けて述べる。


「しかし、『女神の導き』ですか。

 フィオナ様も有名になられて―――


 あれほどのご活躍をしたのですから、

 当然でしょうけど」


「んー……でもしょれって本当にフィオナ様の

 事なんでしゅか?


 フラールの一女神に過ぎなかったでしゅのに

 何か違和感が……」


素直に主人が評価されている事を喜ぶ眷属の少女とは

対照的に、従僕の方は懐疑的になる。


「あー……それなんだけど、結構あちらも

 情報が錯綜さくそうしているみたいだよ。


 『女神様』という事は知っていても、

 何の女神様なのかまでは、よく知らなかったようだ」


「『救国の女神』とか『いかづちの女神』とか、めいめい

 勝手に呼んでいましたっけ……


 中には『男装の女神』というものまで―――

 恐らく、第一眷属であるアルプと混同しているので

 しょうが」


静かにため息をつきつつ、貴族2人がその時の事を

思い出しながら話す。




「それで組織名が、『女神の導き』に

 なったんでしょうね」


「まあ仕方ないでしゅよ。

 もともとはフラールしか担当していなかった

 ワケでしゅし……


 しょれに本来は『果樹の豊穣を司る優しき女神』

 でしゅからね。

 信者のためとはいえ、手を広げ過ぎでしゅ」


ポーラが少し困った表情で結論をまとめ、

ナヴィはそれの説明と原因に言及する。


「『英雄』とか言われても……

 その……何だ……困る。


 それに僕はフラールからほとんど動いていないんだ。

 なのに、ルコルアでの出来事も僕が絡んでいるような

 事を言ってたし―――」


両手を絡ませひじをテーブルの上に着かせ、

侯爵は顔を表情と共に沈ませる。


「あ、その件でしたらバーレンシア侯爵様は

 無関係とは言えないかも知れません」


「ん? どゆこと?」


バートレットの言葉に、名指しされた彼は

視線だけ上げる。


「侯爵様の資産運用は確か―――

 今はローン・ボガッド氏に一任して

 おられるんでしたよね?」


「あー、アルプ君の果実とかで儲かった分は、

 彼が任せてくれ、と言ってくれたので、

 そうしているけど……

 まあ一任というか丸投げというか……


 それが?」


商人から確認を受けて侯爵は応える。

そして引き続き、マルゴットは話を継続する。




「ボガッド氏は優秀な商人です。投資家でもあります。


 ルコルアでの鉱山取得で鉱山主はボガッド家の

 所有となりましたが―――

 恐らくそこからくる利益も、侯爵様の配当を

 引き上げるはずです」


「えあ?」


彼女の説明に、バーレンシアは気の抜けた

声を上げ―――

それを徴税官の娘が引き継ぐ。


「確かに、ボガッド氏は侯爵様の最大の

 取引商人で、御用商人と言っても

 差し支えないほど関係が緊密です。


 資金のつながりで考えると、見ようによっては

 ルコルアの一件―――

 バーレンシア侯爵様がバックにいると

 見えない事もありませんね……」


ポーラの追撃に、バーレンシア侯爵はテーブルから

ひじを外し、顔を突っ伏せる。


「ねえそろそろ泣いていい?

 しまいには泣くよ?

 大の大人が泣きじゃっくり出るほど泣くよ?」


その後、何とか他の4人がバーレンシア侯爵を

なだめ―――

それは夕食の時間になるまで続いた。




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在2811名―――




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