23・せいぜい『レベル5』がいいところ
1週間ぶりの更新です。
説明しよう。この小説を読む事により、
見識が増え脳細胞が活性化し、これにより
血液がサラサラになり、成人病などを
予防出来るのだ(ウソ)。
日本・とある都心のマンションの一室―――
「まったく……
ウチに格闘ゲームなんて無いのに、どうして
サントラだけあるのかと思ったら」
前回、格闘ゲームサントラを買っていたという
話を聞いて、ナヴィ(猫Ver)はフィオナに
確認、もとい呆れながら話しかける。
「フッ、楽しみ方に決まりなんて無いわ……!」
格好付けて応える女神を前に、ナヴィは大きく
ため息をつく。
さすがに何か言い訳をしないとマズいと思った
フィオナは、何とか回答を口から吐き出す。
「そ、そーいえばですねっ。
もしアタシが格闘ゲームに出るとしたら、
どんなキャラになりそうかなっ?」
「またくだらない事を……
そもそもフィオナ様、
『果樹の豊穣を司る優しき女神』
でしょう?
攻撃手段皆無なのにどうしろと」
「む……」
冷静なツッコミを入れるナヴィに、対抗心が
燃え上がったのか、フィオナは食い下がる。
「あ! 眷属のコと一緒っていうのは?
アルプの果実で体力回復、ファジーは
『ぱんつぁーふぁうすと』持って遠距離攻撃……!
あれ? 結構バランス取れているかも」
「その場合フィオナ様が要らなくない?
第一、接近されたら終わりのような」
くだらないと言いつつも、しっかりと付き合うナヴィ。
そしてフィオナもまた考えて―――
「そうだわ!
近距離はナヴィ、あなたがやればいいのよ!
これでバランスは完璧になるわ!」
「だからフィオナ様が要らなくない?」
あくまでも冷静にツッ込むお目付け役に、
フィオナは涙目になって抗議する。
「何でアタシをそんなに除外しようと
するんですかー!!」
「だって要らないしなあ……
あ、そろそろ本編入りますねー」
│ ■ミイト国・首都ポルト │
高価な調度品が並び、床や板壁に至るまで
装飾が施されているような室内―――
そこで旧知の男女が話し合う。
「どうして貴方が出てくるのかしら?
―――ラムキュールさん」
「それはこっちのセリフだ。
どうして我々の『計画』を妨害した?」
シンデリンがその言葉の意味を分かりかねていると、
隣りの妹が口を挟む。
「……シンデリンお姉さまは何もしていない……
……何の話……?」
「では聞きたい事が―――
ホテル・ドーセットでの一件……
あれについてご説明頂きたいのですが」
その声と共に一人の女性が入ってくる。
彼女の姿を見た途端、話し合っていた姉妹と
男性は、立ち上がって姿勢を正した。
「シッカ子爵様……
ご無沙汰しております」
「まだわたくしに爵位はありません。
ただのシッカ家の長女というだけ―――
いつも通り、レイシェンで結構ですよ」
シンデリンの挨拶に、子爵と呼ばれた彼女は
涼し気に答えて同じテーブルに近付く。
170cmはあろうかというシンデリンよりも
いくらか上の長身に、さらに金色の長髪を波立たせ、
左右に座ったトーリ姉妹とラムキュールを
見下ろすようにして席についた。
「この屋敷に呼ばれた時から予感は
していましたが……
つまり『新貴族』が絡んでいる、
という事でしょうか?」
その言葉に、両手を組んでテーブルの上に置きながら
彼女はため息をつく。
「詳しい話は聞いておりませんが―――
先日、ディーア公爵のお嬢様を巻き込んだとの
情報が入ってきました。
どうやら『お仲間』が、公爵に伝手を作るために
仕組んだみたいなのですが」
「バトラコスという『こちら側』の者が―――
ミリアお嬢様の私物を盗み、それを返す事で
公爵に渡りをつける予定だったのだ。
そこにいる誰かさんの連れが邪魔してくれた
ようだがね」
鼻息荒く語るラムキュールに対し、ベルティーユの眉が
ピクリと上がる。
「……まさかアレ、『新貴族』の仕業……?
……どこの命知らずかと思ったけど……
あのホテルで……正気なの……?」
「王族も来るホテルでの出来事とはいえ、
しょせんは子供―――
どこで落としたかもわからないし、
子供の記憶なんてアテにならない。
どうとでも誤魔化しようはある……
というところかしらね?」
「…………」
鼻で苦笑しつつ、レイシェンは補強するように
自分の考えを述べる。
それを無言でラムキュールは否定も肯定もせず
不機嫌そうな表情で流していた。
「そんな顔しないで、ラムキュールさん。
わたくしも『新貴族』の一員として、悪い手だとは
思っておりませんから。
でもここ最近、『枠外の者』といい―――
ちょっと動きが性急だと思うのです。
何かあったのですか?」
「貴女も聞いているはずだ。
例の女神、そしてその眷属とやらに、
どれだけ我々の計画が潰されているか。
フラール、バクシア、ルコルア―――
まるで我々の計画を察知したかのように、
いつの間にか先々で妨害される。
それも物理的な物ではなく間接的・
かつ合法的に、な」
苦々しく言い放つラムキュールに対し、
微笑んでいるかのような表情を崩さずに、
レイシェンは対応する。
「バックになっているのはバクシア―――
ボガッド家ですよね?
神様だの眷属だの、そんなあやふやな情報に
惑わされず、きちんと現状を把握したら
いかがですか?
神様が合法的に妨害するなんて事はないでしょう。
どちらにしろ、我々『新貴族』の計画の足を
引っ張らないで頂きたいものです」
室内のただ一人の男性に視線を向けるも、彼は
黙って視点を動かさずにいた。
用件は済んだとばかりに彼から視線を外すと、
今度は姉妹の方へ顔を向ける。
「それはそうと、最初の話に戻りますが―――
あなたの連れ? でしたか……
それがドーセットでの一件を妨害したと。
どういう事ですか?」
「あれはネーブルと、バーレンシア侯爵の
お付きの人が『対応』したのですが……
騒ぎにしなかっただけでも感謝して欲しいと
思っているくらいですわ。
ただでさえ後始末のお見合いを押し付けられて
いる上、そこまで面倒見切れません」
言葉使いこそ丁寧なものの、謝る気は微塵も
感じられず―――
シンデリンは毒付くように返す。
「拙速だったのはこちらも認めよう。だが―――
……?
ネーブル? 君の執事の少年か?
確か現場にいた、妨害したと思われるのは
2人の女性だったはず……」
ラムキュールが混乱しつつ頭の中の情報を整理し、
それを姉妹に問い質す。
「……彼は……こちらのある作戦を遂行中……
……お見合い対策……
詳細は……明かせない……」
「そ、そーいう事よっ」
彼女たちの答えに納得行かずとも、ルコルアで
女装したファジーに一本取られていた彼は、
ため息をつきながらイスに深く座り直す。
「……まあいい。
連絡もしていなかった事だし、確かに今回の件、
君たちを強く責めるワケには―――」
・・
「え?? 『攻め』?」
いきなり会話に割って入ってきたレイシェンに、
3人の視線が集中する。
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■高級青果店『パッション』応接室 │
―――ガバッ!!
「同士の予感……ッッ」
同時刻―――
何かを察知したかのように、フィオナが
寝かされていたソファから上半身を勢いよく
起こした。
「!? だ、大丈夫ですかフィオナ様」
看護に付き添っていたメイが、心配そうに
たずねると、フィオナは空気が抜けたかの
ように、またソファに横になった。
│ ■ミイト国・首都ポルト │
│ ■シッカ子爵邸 │
「あ、あの、いえ、その。
わたくしったら……
どうぞお続けになってください」
あたふたと誤魔化すように語る貴族令嬢を不審な目で
見つつも、ラムキュールは話を再開させる。
「だが―――トーリ君。
あの件は、今からきちんと説明出来るように
整理しておいた方がいいだろう。
いずれ君は『枠外の者』の一員として、
査問を受ける事に……」
・・
「え?? 『受け』?」
「……はい?」
不審を通り越して、意味不明な目をレイシェンに
ラムキュールは向け―――
一方で姉妹の方は生暖かい視線で彼女を見つめる。
│ ■天界・フィオナの神殿 │
―――ガタッ!!
「同胞の予感……ッッ」
同じ頃―――
何かを察知したかのように、アルフリーダが
イスから勢いよく立ち上がった。
「座りなさい」
それに対し、夫であるユニシスは冷静にツッコミを入れ
妻に着席を促す。
│ ■ミイト国・首都ポルト │
│ ■シッカ子爵邸 │
「シッカ子爵令嬢、どうなされたのですかな?
先ほどから言動が少し、その……
お体の具合が悪いのですか?」
「あ、アハハ……
イエナンデモアリマセンコトヨ?」
ラムキュールの問いに目が明後日の方を向いて
泳ぎながら、レイシェンは応える。
「―――あれは、『レベル7』ね」
「……お姉さま、それは過大評価……
まだせいぜい『レベル5』がいいところ……」
「ま、待ってください!
それは何の評価ですか!?
わ、わたくしはやましい事は決して……!」
女性3人のやり取りについて行けず、
ラムキュールはただ茫然と目の前の光景を
眺めていた。
│ ■ミイト国・首都ポルト │
│ ■化粧品店 │
「あの、ナヴィさ……ナヴィさん。
お待たせしました……?」
一通り、店内で買い物を済ませたポーラは、
戻って来て目の当たりにした光景に驚く。
そこには、まるで気心の知れた長年の親友のように
ネーブルと談笑しているナヴィの姿があった。
「あ、お帰りでしゅ、ポーラしゃん」
「もうお買い物はよろしいのですか?」
会話を止め、彼女に対応する2人に困惑しつつ、
ポーラは答える。
「は、はい。
それにしてもその、お二人とも、いつの間にか
ずいぶんと仲良くなられたみたいで……」
その言葉に2人は顔を見合わせ、同時に笑顔になって
彼女に応える。
「うふふ、そうでしゅね……」
「お互い、苦労を分かち合えると言いますか、
理解し合える友に会ったと言いますか」
ナヴィの背後に燃え盛る炎のような、そして
ネーブルの背後に吹雪のような気配を感じ取り、
思わずポーラは後ずさる。
(友というより、戦友と言った方がいいような……
何でしょうかこの雰囲気)
彼女の戸惑いをよそに、彼女(男)たちは
頭を下げて別れの挨拶をする。
「では、ナヴィさん。
私はこれで―――」
「ネーブルしゃん、お気をつけて」
こうしてナヴィは店の外まで『彼女』を見送ると―――
今度はポーラの荷物に目を向ける。
「じゃあ持ちましゅよ、ポーラしゃん」
「えっ? あ、あの、これくらいは」
「女性の荷物持ちは『男』の役目でしゅよ、
ポーラしゃん」
クスッ、とポーラは微笑むと、言葉通りに
ナヴィに荷物を手渡した。
そして、自分たちが泊まるホテル・ドーセットへ
2人が歩き始めた時―――
それを遠くから見つめる男がいた。
(ありゃあ、昨日の……?
俺の邪魔をした女どもじゃねーか。
一方は同じ『枠外の者』のトーリ家のモンだって
聞いたが……
もう一方はバーレンシア侯爵の関係者だって
話じゃなかったか?
それが何で、同じ店から出て来る?)
そこにいたのは―――
先日、ネーブルとナヴィに盗みを邪魔された
『新貴族』の手の者だった。
ネーブルに続いて、後から出てきた昨日の
当事者に困惑しつつも、自らの疑問を解くために
標的に狙いを定める。
(このバトラコス様に恥をかかせたんだ……
只者じゃあねえ事はわかっている。
ここはひとつ、アイツを尾けてみるか……)
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2801名―――