22・お腹が空いたら起きてくる
1週間ぶりの更新です。
―――この小説を閲覧する際の注意―――
・部屋を明るくして、
・画面から目を十分に離して、
・牛乳等の水分を口に含んでからご覧ください。
勢いだけでやっているギャグ・ラブコメです。
日本・とある都心のマンションの一室―――
「では、今月分のブツはこれで―――」
「じゃあこちらも―――
確かに渡したわよ」
フィオナとアルフリーダ―――
女神であり、母子である2人は互いにある物の
受け渡しを行っていた。
「何でたかがゲームやマンガの貸し借りを
物々しくやっているんですか」
従僕でありお目付け役(猫Ver)が、その光景を見て
異議を唱える。
「いやイヤいや、ナヴィ。
こーゆーのは雰囲気っていうものがね?
ね、フィオナちゃん?」
「まあ実際に手に取る事が出来る物はともかく―――
データ化出来る物はこうして手渡ししなくても
済むよう、そろそろママにも慣れておいて
もらわないと」
「味方の裏切り!?」
「アタシ敵なの?」
母子のいつものやり取りを眺めているナヴィ。
呆れているのか慣れたのか、ただ何も言わずに
毛づくろいを始める。
「そんな事を言うなんてフィオナちゃん
変わったわ……
昔は格闘ゲームサントラの中のキャラボイスから
推しキャラがダメージを受けたりKOされた時の声を
延々とリピートして悶えるような子だったのに」
「貴様なぜそれを知っている!?」
あくびをしていたナヴィはフィオナの視線に気付き―――
面倒くさそうに首を左右に振って否定する。
「いえ、私は知りませんけどね。
知りたくもありませんけどね」
「く……っ、じゃあどうして?」
悔しげな声を表情をアルフリーダに向けるフィオナ。
それを涼やかな視線で母親は返し―――
「私は貴女の母なのよ?
娘が考える事くらいわかるわ」
「つまりママもしたんですね?」
しばらくの間、時間が止まっていた。
エアコンの音が耳から途絶え、時計の秒針だけが
室内に響いていた。
「フフフ……さっそくその推理に至るとは
やはり血は争えないという事か……」
母子の会話を背景にして、ナヴィは大きく伸びを
しながら横になる。
「……それじゃそろそろ、本編入りますか……」
│ ■ミイト国・首都ポルト │
「わぁ……!
こうして歩いてみると、よりすごさと言いますか、
レベルが違うのを実感しますね」
バーレンシア侯爵の『お付き』であるポーラは、
決定された予定に従い、ナヴィと一緒に街中を
散策していた。
「そうでしゅか?
私としては、バクシアとあまり変わらないと
思うのでしゅが」
周囲を見渡しながら、自分なりに分析した
感想をナヴィは述べる。
「確かに、街並みそのものは我が国の首都・ブランと
そう変わらないと思います。
ですが、道幅や建物の細かい装飾―――
肉体労働と思われる人に至るまで、上質な
素材の衣服を着ているのを見ると……
やはり、国力が異なると言わざるを得ません」
そう言われてナヴィは目を凝らし、改めてミイト国の
格の違いを実感する。
「ふみゅ、確かに……
バクシアでも、全員が清潔で汚れの無い衣服を
着ていたわけではありましぇん。
よく見れば道も、ゴミ一つ落ちてない
でしゅし……
こりぇはこまめに整備・維持しゃれて
いるという事―――
さしゅが、よく見ていましゅねポーラしゃん」
「あ、い、いえっ。
それほどの事では」
ナヴィに感心するように褒められて、ポーラは
赤面しつつ両手を前にブンブンと振る。
「あ! そ、そういえばナヴィ様。
お店に寄ってもいいですか?
私、お母さんとメイから、ミイト国の
化粧品や服を頼まれていまして―――
とはいえ、あまり高い店には行けません
けどね」
「まあ買い物してないと不自然でしゅし。
私には女性の行く店はわかりゃないので―――
ポーラしゃんにお任せしましゅ。
しょれにまあ―――
どうも目立ってしまっているようでしゅし」
苦笑しながらナヴィは、チラチラと送られる
周囲の視線に気を向ける。
こうして、外見的には2人の女性が、目的の店を
求めて街中を進んでいった。
「どうしたものでしょうか……」
一方で、もう一人の『女性の姿』をした少年は
考えあぐねていた。
それは、街中で周囲の注目を集めている事も
関係していた。
「さっさとどこかに身を隠したい気分ですが―――
よくお嬢様と同行している店にでも行こうものなら
即座に見破られてしまうでしょうし……
ここはひとつ高級店は避けて、初見の安い店に
入った方がいいかも」
ネーブルは悩んだ末―――
『今までに行った事がない』『女性が入る店』
を探し、最初の一軒目に身を潜める事に決めた。
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■高級青果店『パッション』 │
「……ふぅ、午前中の予約はこれで終わりですか?
シモンさん」
店の応接室でアルプがイスに座り、用意された
冷たいお茶を飲み干す。
「ああ、お疲れさん。
あとは午後だから、ゆっくり休んでくれ」
シモンは立ったまま、自分で注いだコップのお茶を
そのまま一気に喉へ流し込む。
「あれ? もうアルプの試食の予約は
いいんですか?」
「以前はもっといっぱいいたような気が
しますけど……
もしかして在庫が切れたんですか?」
同席していたフィオナとメイは、彼らの話を聞いて
疑問を挟む。
「いや、フラールの方の果実は
それなりにまだあるぜ?
ただ売るペースと、アルプの負担を考えて
今の状態に落ち着いたんだ」
「僕の食べかけが一番美味しくなるのはわかって
いるんですが……
(※アルプの眷属としての恩恵能力)
まさか食べかけを並べて売るわけにも
いかないでしょうし」
「そろそろ、新しい売り方なり商品なり、
考えないといけねーかもなあ」
アルプとシモンの話を聞きながら、女神は
少し考え込む。
「(んー……今のところ、『枠外の者』や
『新貴族』はナヴィにお任せしちゃって
いるから―――
こっちも独自で私に出来る事をしていた方が
いいかも。
あと『アンカー』どもも久しぶりに使って
やるとしますか)」
そしてフィオナは精神を集中し、地球、自分の部屋から
PC経由でコンタクトを取った。
(おーい、久々に相談に乗っては
もらえんかのう?)
【 本当に久々だな…… 】
【 まあリアル時間は13話から一週間ほど
経っているくらいだけどな 】
(そのあたりの事情はメタらないで頂けると
助かるのですが)
【 それで今回は何だ? 新商品? 】
しばらくぶりのフィオナの質問に若干不満ながらも、
彼らは対応する様子を見せ―――
久しぶりに振られた大喜利のお題のように、
にわかに掲示板は活性化し始めた。
【 ドライフルーツなんてどうだ? 】
【 缶詰はまだ無いんだっけか 】
【 ジュースとかでもいいような…… 】
(ジュース……?)
その意見が女神に引っかかり、そしてフィオナは
自分なりにその考えを加速させていく。
(確かにそれはアリかも知れません……
そしてアルプに与えた恩恵……
かじっただけでも美味になるのでしたら、
液状になるまで噛み砕いたものは……!?)
【 いや、ちょっと待て 】
【 別にこちらはそこまで言ってな 】
(そして最も効果が高いのは『口移し』!!
甘酸っぱい果実と美少年の唾液その他が混じった
極上のジュース!!
それを直接味わえる極上のあぁあああ……!!)
ブシャアアアアッ!
│ ■高級青果店『パッション』 │
「フィオナ様!?」
「えっ!?」
「ど、どうしたんだ!?
何があった!?」
突然、目の前で起こった異常事態に対応出来ずに
右往左往する3人。
時を同じくして、ミイト国からアルプに神託が
繋げられる。
(―――今とてつもなく邪悪な妄想をキャッチ
したのですが、何かありましたか?)
「ナ、ナヴィ様!
それが、いきなりフィオナ様が全身の
穴という穴から体液を吹き出して……!」
(寝かせておいてください。
お腹が空いたら起きてくると思いますから)
今後の対応を眷属に伝えると、お目付け役は
静かに神託を閉じ、今の任務へと戻った。
│ ■ミイト国・首都ポルト │
│ ■化粧品店 │
「まったく、シモン君の店で……
仕方のない女神でしゅね」
突然、神託を繋いだと聞いて、同行していた
ポーラは心配そうにナヴィにたずねる。
「何かあったのですか?
シモン君の店で」
「あ、たいした事ではないでしゅよ。
ただフィオナ様が全身の穴という穴から
体液をまき散らしただけでしゅ」
「何があったの!?
シモン君の店で!?」
理解が追いつかないポーラは、思わず大きな声を
上げてしまい、それが周囲の客の視線を集めた。
「ほら、静かにしないとダメでしゅよ」
「も、申し訳ありません。
驚かせてしまって……」
ちょうどポーラとナヴィの近くにいた一人に、
2人は深々と頭を下げた。
「いえ、お気になさらず……え?」
「……あれ?」
「んっ!?」
そこで再び―――
先日出会ったナヴィとポーラ、そしてネーブルの
3人は二度目の出会いを果たした。
「あ……えーと……」
展開に付いていけないポーラは、2人の顔を
見比べるように視線を左右に振る。
「ポーラしゃんはご自分の買い物を済ませてきたら
いかがでしゅか?
私はここで休んでいましゅので―――」
「は、はい! ではそうさせて頂きますっ」
ボロが出る前にと、ポーラはナヴィが出した
助け船に飛び乗るようにして、その場を離れた。
「いいのですか、貴女は?」
ネーブルがナヴィの座ったソファの隣りに腰かけ―――
先日のロビーのように言葉を交わす。
「ええ。しょれに実は、化粧品を選ぶのは、
あまり得意ではありましぇんの(嘘は言っていない)」
「そうですか。
私も、お嬢様と一緒に行った事の無い店での
買い物は、慣れてなくて(嘘は言っていない)」
「…………」
「…………」
男同士で、女性と同様の会話を続ける事は
難しく―――
互いに、気まずい沈黙が続く。
ナヴィは何とか話すネタを探し、それをネーブルに
向けてみる。
「そういえば、シンデリン様でしゅたか?
あの時は、侯爵様のお見合い相手の方とは
気付きましぇんで……
共にいた方は身内の人でしゅか?」
「ああ、あの方は妹君のベルティーユ様です」
「そうでしゅか。
姉妹そろって、聡明そうなお方に見えましゅたが」
一応、主人を持ち上げておこうとナヴィは
シンデリンとベルティーユを賛辞する言葉を贈る。
「まあ、聡明な事には違いないのですが―――
性格が伴うかと言いますと」
自分の姿の原因を思い出し、思わず消極的な
否定の応えが口から出る。
「にゃるほど……
お互い、主人には苦労しているんでしゅね」
「それも含めてのお嬢様ですので。
ナヴィ様も、そのようなご苦労が?」
「そうでしゅねえ……
後先考えずに直観で行動とかされましゅと。
フォローというか、後始末が大変でしゅて」
ナヴィはバーレンシア侯爵の事ではなく、
本来の自分のご主人様、その娘の事を思い出して
応えた。
「あの侯爵様が?
そんな風には見えなかったのですが……
意外とお仕えするのに苦労が絶えない
ようですね」
「しょ、しょれでも結果的には良い方向に
行っているので、お仕えがいのある方では
ありましゅよ。
しょういう貴女こそ、結構振り回されている
感じでしょうか?」
「い、いえ。そこまでは―――
確かにお嬢様は不真面目で時に欲望に
身を任せてやらかしてしまいますが。
ですが結果的に悪い方向へは行かない
お方ですので」
「…………」
「…………」
この時―――
2人の間に共通の認識が生まれた。
(この人、同類でしゅ……!)
(この人、同士だ……!)
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2794名―――