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08ビジネスは甘くない



一人の少女が自分の部屋で、机を前に

深くため息をつく。


それは深く、深く―――

そしてその目には、あらゆる苦悩が

映されていた。


「……何をしていらっしゃるのですか?

 フィオナ様」


彼女の母親の従僕であり、サポート役である

ナヴィが見かねて声をかける。


「いいところに来てくれた。

 これを見てくれないか鈴木ビリー田中君」


「02話以来久しぶりに聞く名前ですねはっ倒すぞ。

 ……本がまとめられているようですが、それが何か?」


「アタシがこの部屋で大切に保管していた

 薄い本なんですが、いつの間にか机の上に

 テレポートしていたんですよ。

 しかもジャンルや作者別に並び替えられて。


 嫌な予感しかしないんですが、心当たりありません?」


   お母様

「アルフリーダ様が

 部屋を片付けて

 いかれました」


「やっぱりかよ3行でありがとうチクショオオォオ!!

 何で止めてくれなかったんですかー!?」


「私はあなたのお目付け役。

 私のご主人様はアルフリーダ様。


    証明終わり

 Q ・ E ・ D 。


 それでは本編スタートします」




│ ■フラール国・グラノーラ家屋敷の前  │




「―――では、先行して荷馬車を2台ほど、

 それとウチの奉公労働者を何人か付けるから、

 詰み込みをお願いします、アルプ」


「はいっ! ありがとうございます!」


「私とバートさんは後から合流します。

 そのまま果樹園で待機していてください」


アルプを見送ると、2人はまた屋敷の中へと戻った。


まず、アルプの果樹園に応援と共に何人か先行させ、

翌日にマルゴットとバート、2人が果樹園で合流、

その後バクシア代官の元へと行く運びとなった。


「―――意外でしたね。

 てっきり、アルプと一緒に行くものかと」


「出来ればそうしたかったけど―――

 聞いて欲しい事があったの」


「……?」




│ ■フラール国・グラノーラ家屋敷  │




「『枠外の者』―――ですか」


一室に通されたバートは、眉間にシワを寄せつつ

話を聞いていた。


「確証はまだ無いんですけど、連中の仕業だとすれば

 辻褄つじつまが合うの。


 増税に人頭税―――

 とてもじゃないけど、まともとは思えない

 『儲け方』ですわ」


「―――バクシア国の意図ではない、と?」


「ヒモ付きにしたいのであれば、ほどよく

 経済を困窮させて、バクシア無しでは

 成り立たないようにすれば済む話。


 でも、労働者の流出も起きているのよ。

 基本的な産業まで破壊されてしまうわ」


「難民にでもなったり、紛争になったら

 支配どころの話じゃなくなりますからね。


 長期的な利益は眼中に無く―――

 今儲かれば、後は野となれ山となれ、ですか」


「そんな事を考えるのは、あの―――

 利益にのみ忠誠を誓う『枠外の者』しかいません。


 その事を念頭に置いて、一緒に行動して欲しいの。

 で、バーレンシア様の事なんですけど」


そこでバートは首を傾げた。


「うーん……彼は関係無いような気が

 するんですけどねぇ……

 涙目でしたし」


「ねぇその代官って泣き虫なの?

 それとも厳しい人なの?

 アルプとあなたの話を何度聞いても全体像が

 つかめないっていうか何ていうか」


「そうは言われましても、

 そうとしか言いようが」


「はぁ……わかりました。

 直接お会いする時に見極めましょう。


 ―――バートさんも、ご協力お願いしますわ。

 警護役でいいかしら?

 それなりに報酬もお出ししますから。


 それにしても―――どうして私がアルプを引き取る事に

 反対していたんですの?

 同じ領内の領民ですのに。


 そんなに私、信用ありませんでした?」


「いえ、その……

 あの時のマルゴットの目は何と言いますか、


 獲物を狙う肉食獣か猛禽類の目を

 していましたから―――」


「そんなに!?」




│ ■日本国・フィオナの部屋  │




「―――今、何か―――

 同族嫌悪と同士と親近感が混ざった

 何かをキャッチしたような」


「やめてください。

 貴女一人で手一杯なんです。


 ―――で、何をしているんですか?

 そのメモは?」


「ん、ちょっと時間が空いたから、

 攻略を考えておこうかと思って。

 イベントとかあったら対応出来るように」


ため息をつきつつ、彼は女神に現状把握を迫る。


「現実はゲームじゃないんですよ。

 現に眷属の子一人、助けるのに手間取って

 いるじゃないですか」


「フフフ……わかっていませんね。

 アタシは美味しい物は一番後に

 取っておくタイプなんですよ」


「そして『お前は最後に食べると言ったな。

 アレはウソだ』ですね」


「ウン!(超笑顔)」


「(もうヤダこの女神)」




―――そして2日後。


アルプの果樹園で2人は合流し、馬車でそのまま

バーレンシアの代官屋敷へと向かい……


到着した彼らは、その前に困惑しながら佇んでいた。


目の前にあるのは、粗末な作りの館―――

かろうじて、一般人のそれとは異なる規模、と

わかる程度の。


広さも装飾も何もかも、バートやマルゴットの

それとはかけ離れていた。




「野戦病院……?」


不意に彼女の口から、見たままの感想が漏れる。


「いきなりそれは失礼だと思います、マルゴット。

 ―――しかし、本当にここにバクシア代官が?」


「没落貴族とは聞いてたけど、侯爵様だそうよ。

 いくら貧乏だからって、こんな……」


そう言っていくら見回しても、とてもそのレベルに

合う物は見当たらず―――


「誰だい? ん? ああ、確か……

 本国へ商談に向かう―――グラノーラ家の者か。

 話は聞いているよ」


疑問を払拭するかのように、目的の人物が姿を現した。


「あの……本当にここが代官様の?」


アルプが2人の後ろから声をかける。


「―――あの時の2人か。縁があるね。

 どのような関係なのかな?


 ま、それは中に入ってからにしよう。

 手続きや話くらいは出来る部屋はあるから」


「あれ?」


アルプが気付いたその視線の先には―――

野菜が置かれていた。


「ああ、それは―――

 時々誰かが置いていくのさ。

 野菜とか食べ物とか。


 新しい支配者への献上品ってところかな?


 全く、民草たみくさというのは悲惨だね。

 こうして媚を売らなければならない―――」


「(媚を売るといいますか―――)」


「(あまりの生活にドン引きして、

 同情した地元の人が置いていって

 くれているんじゃ……)」


(あ、神託カイセン繋がった。

 アルプ、聞こえますか?)


「あ、フィオナ様―――

 今はバーレンシア様の代官屋敷に―――」


(そうなの?

 では、今回は黙っています。


 人間同士の取り決めには、口出し出来ない事に

 なっているから―――)


「……はい、わかりました」


そのまま、促されるようにして3人は

『野戦病院』の中へ入っていった。




│ ■フラール国・バクシア国代官館  │




「グラノーラ家の―――交易許可証と

 出国許可証だね。

 この通り出来ているよ。持っていくといい」


「ありがとうございます。

 しかし―――」


マルゴットは、その殺風景な部屋を見渡し、

次の言葉を失っていた。


申し訳程度に出されたお茶、

そしてお茶請けのお菓子は―――

彼女の屋敷で出された物とは比べるべくもなく。


「いや、僕もね。

 代官って言うくらいだからさ。

 すごく贅沢な暮らしとか豪華な館とか

 想像してたんだけど―――


 家賃は経費で落ちないって言われて。

 じゃあ一番安いところでって言ったらここに」


「は、はあ……」


「どうせ独り身だし、やる事と言ったら

 本国への報告と出入国の管理くらいだし。


 バクシアに来る奉公労働者も一段落した後に

 代官として来たから、

 必要最低限でいいと思ったのさ。


 で―――本題だが。

 ビューワー君とアルプ君だっけ?

 君達が出国するとは聞いていないのだが」


「私は警護役です。これでもそこそこ剣の腕は

 立ちますから。

 彼は―――」


「アルプは私の奉公労働者なのですが、

 彼の同行を認めて欲しいのです。


 目的は彼の果樹園で獲れた果実の販売です。

 商談のついで、ですわ」


「フム―――」


侯爵はトントン、と机の上を指で叩く。

よほど古いのか、その度にギシギシと揺れた。


「代官に、商売や許可についてある程度の権限が

 与えられているのは知っているね?


 商売として行くのであれば―――

 当然、こちらの取り分も僕が決められる。


 どういう事か、わかるね?」


「前置きは結構ですわ。

 それで―――いかほど?」


4割までは容認するけど――――

それ以上だったら、私が交渉しないと……


固唾を呑んで次の言葉を待ち構えている彼女に、

バクシア代官が口を開いた。




「―――2割だ」


「えっ」


「えっ」


「えっ」


驚く3人を前に、彼はさらに言葉を続ける。


「おっと、これ以上は負からないよ。

 まあでも、僕だって鬼じゃない。

 バクシアで関税やら何やらを差し引いた後に、

 こちらに帰ってきた時にある利益―――

 その2割という事でどうだい?」


「で、ですがそれは―――」


「不服なようだね。

 でも、僕だって借金から逃れるために必死なんだ。

 そろそろ一山当てないとほんとヤバい。


 まだまだ子供の彼には悪いが―――

 どんな事だって踏み台にさせてもらわないと

 やっていけない。


 恨むなら恨むがいいさ」


「あ、あの、僕―――

 てっきり半分は持っていかれるのかと」


アルプの驚きに対し、バーレンシアは口にしていた

お茶を霧吹きのように噴出した。


「はぁあああああ!? 半分!?

 君、商売舐めているんじゃないか!?


 利益の半分持っていかれたら、どうやって

 生活するんだ!!


 僕も借金から逃れるためにいろいろと

 手を出してみた事があるけど―――

 そんなんじゃ、とてもやっていけないぞ!」


「ご、ごめんなさいっ」


あまりの剣幕に、アルプは頭を下げた。


「全く……

 本当に大丈夫なのか、彼に商売させて。


 輸送費だって維持費だって、その他諸々

 かかるっていうのに……

 それでどこから半分なんて恐ろしい発想が

 出るんだ―――


 2人とも、その子から目を離さない方がいいぞ。

 僕の利益のためにもね」


「アッハイソッスネ」


そして2人分の許可証を追加でもらい―――

3人は代官の『野戦病院』を後にした。




│ ■グラノーラ家所有馬車 車中 │




その後、バクシア国に向かう馬車の中で、

3人と女神は改めて話し合っていた。


(―――『枠外の者』……?)


「フィオナ様に取ってはお耳汚しかも知れませんが―――

 そういう存在もいるのです。


 私も同じ商人ではありますが……

 さすがに今回のような生まれ故郷の危機に対しては、

 利益度外視で動きます。


 ですが、『枠外の者』にそのような思考はありません。

 利益になれば平気で祖国だって売るでしょう。

 そういう連中です」


「それで、あの、バーレンシア侯爵様は?」


アルプの問いに、マルゴットは深くため息をつく。


(いや、無いでしょあれは)


「どう考えても無関係―――

 いえ、下手をしたらスケープゴートかも」


「捨て駒ですか……

 いざという時は、彼に全ての責任を負わせて

 自分たちは逃げる、と」


「そんな……酷いです。


 僕の果実1箱(50個入り)

 置いていってあげたら、

 泣いて取り分1割にしてくれるような方ですし。


 何とかならないんですか?」


「―――とにかく今は、バクシア国での

 商売を優先しましょう。

 彼の事は、帰ってきてから考えます」




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在229名―――


―――神の資格はく奪まで、残り29名―――





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