18・片っ端から閉じて釘打って
1週間ぶりの更新です。
相変わらず余裕の無い更新になるなあ(-_-;)
日本・とある都心のマンションの一室―――
お目付け役・ナヴィ(猫Ver)の前で、
女神が服を着替えながら質問する。
「そーいえばナヴィ、聞きたい事があるんですけど」
「何でしょうか?」
「何かこの前、ママからナヴィいない? って
聞かれたんだけど、何かあった?」
女神の言葉に、お目付け役は首を傾げる。
「?? いえ別に……何かあったのですか?」
「そうなの?
まあ詳しい事は知らないけど、
緊急じゃないって言ってたし」
「う~ん、それならたいした事ではなかったのでは」
お目付け役の回答に、女神は会話を切り上げる。
「そうかも知れないわね。
じゃ、ご飯にしよっか」
食事の支度のため、台所に向かうフィオナの
背を目の前に、ナヴィは少し考え込む。
(……もしかして、あの事ですかねえ)
│ ■天界・フィオナの神殿 │
「う~っ、うぅう~……」
悔しそうにうなるアルフリーダに、夫である
ユニシスが声をかける。
「まあまあ。こればかりはナヴィの言っている事が
正しいよ。
もし神様になってしまったら、今のナヴィでは
いろいろと制限がついてしまう……
フィオナのサポートが終わってからでも
いいじゃないか。ね、ママ?」
天界市役所に掛け合ってから後―――
『取り合えず、本人の意思確認を』と言われて
ナヴィに連絡が来たのだが……
・降臨出来るのは神託地域
・もしくは、眷属がいる土地のみ
という制限を改めて確認され―――
今の状況ではフィオナのサポートがやり辛く
なるだけだと、逆に従僕から諭されたので
あった。
(もしもし、ユニシス様……
アルフリーダ様のご機嫌はいかがですか?)
ちょうどそこへ、当事者であるナヴィから連絡が
つながる。
自分の主人の様子確認のために―――
「(ああ、なんとか落ち着いている。
助かったよ、ナヴィ。
役所としては苦肉の策だったのだろうが……
よく問題を収拾してくれた)」
(アルフリーダ様も、意外と短絡的というか、
目的一直線なところがありますからねえ)
人知れず苦労している男性陣を横目に、
アルフリーダは自省の言葉をつぶやく。
「もー、先走った私がバカみたいじゃないの。
恥ずかしー……」
「(後で職員一同からナヴィに感謝の言葉と、
いくらかのご褒美が送られた事は黙って
おいた方がいいか)」
(そうですね)
ユニシスとナヴィはお互いに、今後のために
秘密を共有し合う。
「ん? 今何か言った? パパ?」
「い、いや。
それじゃそろそろ、本編スタートしようか」
│ ■ミイト国・首都ポルト │
│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷 │
「―――名付けて……
『私、男には興味が無いんです』作戦……!」
ベルティーユの言葉に、その場にいる主従は
理解した順に戸惑う。
「あのー、ベルちゃん?
確かに私、可愛いのは性別種族その他問わず
好きだけど」
「いやそこは区別というか否定を……
それで、大方の予想はついておりますが、
一体何をする気ですか?」
シンデリンの後におずおずと問い質すネーブル。
そして返ってきた説明は―――
「……シンデリンお姉さまがもし、
お見合いを断りたくなった場合……
信頼出来る異性として恋人役を頼めるのは、
ネーブルお兄ちゃんしかいません……
……でもお兄ちゃんは従者であって、相手は貴族……
まともに相手しては勝ち目はない……
そこで恋人役が異性ではなく、同性であれば
どうでしょうか……?」
姉妹の目が、物を頼む相手から獲物を狙う目へと
変化するのを、ネーブルは見逃さず―――
すかさず想定とは逆の提案をする。
「それではシンデリンお嬢様が男装すれば、
全て解決という事ですね」
「戦わなきゃ、現実と」
「……逃れられない運命から、目をそらしては、
ダメ……」
息を揃えて追い詰めてくる姉妹に、半ば逆ギレ的に
彼は反撃を試みる。
「じゃあもう、
ベルティーユ様が恋人役として女装すれば
いいでしょう!」
「これもうわかんねえな」
「……ネーブルお兄ちゃんはそういう星の下に
生まれたの……諦めるべき……
あと、到着したバーレンシア侯爵様への挨拶も
あるから……早く着替えて」
そう言いながら妹の方は着々と、いつの間にか
用意していた衣装の選定を始め―――
それを見ていた従者は、がっくりとうなだれて
観念した。
│ ■ミイト国・首都ポルト │
│ ■バーレンシアご一行・宿泊施設 │
「ナヴィ様、ネクタリン(ポーラ)さん―――
ただいま戻りました」
「お疲れ様でしゅ」
「皆さん、お帰りなさい」
バートレットを筆頭に、バーレンシア、そして
マルゴットが続いて扉をくぐり、ナヴィに
割り当てられた部屋へと入ってきた。
挨拶回りに行っていた彼らは、一通りの所用を
済ませた安堵感からか、大きく息を吐く。
「はぁ、やれやれ。
緊張したよ。
それにしても、ビューワー君はずいぶんと
落ち着いていたねぇ」
「ええ、私も驚きましたわ。
ここの有力者を前に、あれだけ堂々と
渡り合うなんて―――」
侯爵と商人の言葉に、ナヴィとポーラは
当のバートレットに視線を向ける。
「いえ、私はただの付き添いという立場
でしたからね。
責任というか、立場が違い過ぎるので
返って緊張しなかったのでしょう」
謙虚に語る伯爵の横で、やや目が泳いでいる
マルゴットに、小声でポーラが問いかける。
「(……実際のところはどうだったんですか?)」
「(それが侯爵様、すごくガチガチに緊張しまくって
いましたので……)」
「(フォローに回る私たちは、正直それどころでは
無かったといいますか)」
付き添いの2人の話を聞いて、ナヴィはふぅ、
と小さく息を吐き、
「しょれで、今日のところはもう予定は
無いのでしゅか?」
「ああ、そうだった。
後は―――トーリ家の者が顔見せに
来ると思う。
多分、夕方かそれ以降になるかな」
挨拶回りに出たのは昼食後で、帰ってきた今でも
期限的にはあと1・2時間はあった。
その余裕を確認するかのように、互いに顔を
見合わせる。
「しょれで、私はどこにいたらいいでしゅか?
顔合わせ程度なら別に……」
ナヴィの意見に、貴族2人は改めて考え込む。
「人数その他は、多分あちらでもすでに
把握していると思われます。
私と侯爵様、マルゴットで対応して―――
お帰りになる際、ナヴィ様はネクタリンさんと
一緒に、挨拶に出るくらいでいいのでは」
「うん、今日は本当に顔見せだけだと思うからね。
本格的な打ち合わせは、多分明日以降に
なるんじゃないのかな」
伯爵・侯爵と続いて、商人も意見を述べる。
「あくまでも主客ではありませんし―――
ただ自然にそこにいて、偶然居合わせた、
くらいで構わないかも知れません。
お付き合い頂いて、失礼かも知れませんが」
申し訳なさそうなマルゴットや男性陣の顔を見て、
ナヴィも応える。
「大丈夫でしゅよ。
あくまでも、断る際の保険だと理解して
いましゅから。
もう少ししたら、ポーラさんと一緒に
下のロビーにでも行きましゅか。
あしょこなら、人の出入りも結構ありましゅたから、
目立たないと思いましゅし」
その言葉に、ナヴィ以外の4人が困ったような
表情で沈黙する。
「?? どうしたんでしゅか?」
「あの、私はともかくとして、ナヴィ様は……
かなりどころではなく、目立つと思いますよ?」
ポーラの答えに、バーレンシアもバートレットも
マルゴットも苦笑する。
「……まあ、大人しくしていましゅよ」
ナヴィはそう言いながら、自らが着ているドレスに
目をやり、スカートのたたずまいを直した。
│ ■バーレンシアご一行・宿泊施設ロビー │
それから小一時間ほどして―――
トーリ家の3人が、お見合い相手の泊まる施設に
やってきていた。
「はぁあ、結局この格好で、ですか」
そこに現れた『彼女』は―――
ゆったりとした、紺を基調としたワンピーススタイルの
衣装を身にまとい、シンプルではあるが光沢をたたえた
その端から、細く白い曲線が生える。
ロビーに足を踏み入れた時から、ネーブルは周囲の
視線を集め、その反応として頬を赤く染める。
「……薄化粧でここまで化けるとは……
さすがはネーブルお兄ちゃん、いやお姉ちゃん……」
「やっぱり素材が一番のオシャレよね。
今、いろんな可能性の扉が開かれていくのを
感じているわ」
「その扉、片っ端から閉じて釘打っていいですか?」
姉妹の賞賛を苦笑しながら否定し―――
とにかく彼は、2人と共にロビー奥へと足を進めた。
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■高級青果店『パッション』応接室 │
「―――ハッ……!」
「―――む……!」
遠く離れた地、バクシアで、2人の少女が何かを
感知し、反応する。
「あの、どうかしましたか?
フィオナ様、メイさん」
女神の第一眷属である少年が、その声に気付き
たずねる。
「私の第六感探知が激しい
反応を感知して……」
「奇遇ですね。
アタシも同じ感覚を共有しましたよ、今」
理解出来ない言葉を話す異性2名に、アルプは
話題を変えようと別の質問を振る。
「は、はあ……
そういえばお2人とも、お店に来られた時、
両手を繋ぎながら横歩きで来ましたけど、
何か儀式的な意味でもあったんでしょうか?」
結局、2人同時にシモンの店に行く事に
同意したものの―――
両手をガッチリとフィンガーロックした状態のまま、
フィオナ&メイは来店したのだった。
「ア、アレハデスネーソノーアハハ」
「チョット事情ト言イマスカー」
フィオナもメイも、目があさっての方を向いたまま
ぎこちなく応じ―――
そこへ店主の声がかけられる。
「おーい、アルプ。
休んでいるところ悪いが、そろそろラストスパートだ。
あと予約は8人ほどだが……行けるか?」
「ほ、ほらアルプ呼んでますよ!
お客様を待たせてはいけません!」
「そ、そうですよアルプ君!
フィオナ様の信者獲得のためにも、
頑張らないと」
「はっ、はい!
それでは行ってきます!」
息をピッタリ合わせた2人の少女によって、
眷属の少年は、押し出されるようにして
応接室を後にした。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2776名―――