16・あ、じゃあ人違いです
1週間ぶりの更新です。
締め切り1日前くらいに出来上がって、残り1日で
ゆっくり見直すのが理想。
現実は結構ギリギリまで見直しがズレ込む(;´Д`)
天界、フィオナの実家―――
そこでフィオナの母である女神・アルフリーダは、
一通の手紙に目を通していた。
「ん? ママ、何を読んでいるんだい?」
そこへ、父親である軍神ユニシスが姿を現し―――
彼女に近付いて、一緒に手紙をのぞき込んだ。
「『検討中』……?
って、ああ、アレか。
ナヴィの神様昇格の件か。
というかママ、まだ諦めてなかったんだ」
ユニシスはやや困惑しながら、手紙の内容を
消極的に肯定する。
アルフリーダもまた、不満気に手元から視線を
動かそうとしない。
「だから、いくら何でも無理だって。
いくら僕たちのコネがあるって言ってもさ。
規定通りテストを受けさせないと、役所だって
困るし―――」
「でも実績はそこらの新米よりよっぽど
上なのよ?
ちょっとくらい融通利かせてくれたって
いいじゃないの!」
「確かにそうなんだけどさ。
そこはお役所だよ。
それでも―――フィオナの件でいろいろと
便宜を図ってもらったのもあるし」
頬を膨らませて怒る妻を、正論と事実を混ぜつつ
夫がなんとかなだめようとする。
「このままじゃラチがあかないわね……
OKパパ、ちょっと行って交渉してくるわ」
出かけようする彼女を、心配そうにユニシスは
後ろから声をかける。
「具体的にはどうするんだい?」
「折るんだよ……心をな……!
こういう時のために、いろいろと交渉材料は
持っておくものなのよ」
「(それはもしや脅迫というのでは)」
心の中でツッコミを入れつつ―――
妻の言動に夫は困惑気味に冷や汗を流す。
「何か言いました? パパ」
「あ、いや。ぼ、僕も付いていくよ。
ナヴィにはフィオナがお世話になっている事だし。
じゃ、そろそろ本編もスタートしようか」
│ ■ミイト国行き馬車 車中 │
バクシアからミイト国へ向かう4頭引きの馬車の
中で―――
3人の男と2人の女性が語り合っていた。
「もうそろそろ、ミイト国に入るかな。
―――そういえば、僕は公用以外で
ミイト国に行くのは初めてだけど、
みんなはどうかな?」
今回の見合いの主役であるバーレンシア侯爵が、
他の4人に問いかける。
「私は商談で、何度か行った事があります。
もっとも、一方的に呼びつけられるような
関係でしたけど……」
「私はありませんね……
行く用事が無いですし、何よりお金が」
マルゴットとポーラは、過去を思い出しながら
問いに応える。
「ふみゅ。バクシアと比べてもしょんなに国力が
違うのでしゅか?
前にも聞いた事がありましゅたけど」
服は女性のそれのままで―――
馬車内部で化粧を落としたナヴィが疑問を口にする。
「フラールは人口1万人ほどですが、
バクシアは40万人を越えます。
そして、連合国家の上位3ヶ国は―――
どれも人口100万を有する国家です。
もちろん、ミイト国も」
もう1人の貴族の言葉から、改めてその国力の違いを
思い知らされる。
「単純にフラールの100倍、バクシアの倍以上の
国力ってところだね。
もっとも、そう簡単に比較出来る差ではないけど」
「大丈夫なんでしゅか?
しょんなところに、私が付いていっても―――
しょの、滞在費とかは」
ナヴィの心配は、いわば飛び入り参加だった自分の
出費についてだった。
しかし、彼の答えは―――
「あー……それがですね。
諸経費全部あっち持ち。
招待したのはこちらだからって。
『取り合えず』『馬車代として』
金貨1千枚送って来てたから大丈夫」
「ぶふっ!?」
「交通費が金貨1千枚!?」
ポーラとマルゴットが、その常識外れと思われる
金額に驚く。
「……馬車代って、馬車を御者ごと買えって
事でしょうか」
「実際困ってたんだよね。
公用の時は国が用意したものに乗るし。
それ以外の移動は全部レンタルだったから……
ミイト国行きの馬車なんてどれ選んだらいいか
全然わからなかった。
ボガッド氏が全部手配してくれなきゃ、行く前から
多分詰んでたよ」
貴族2人が、改めて車中を見回してため息をつく。
「しょういえば―――
バーレンシア侯爵はお一人で来たんでしゅよね?
経費が全部あちら持ちなら、誰か同行したいって
いう人はいなかったんでしゅか?
家族とか使用人の人とか」
「それがねぇ~……
僕からもお願いしてみたんだけど……
『何か粗相があっては』って、
みんな首を縦に振らなくて……
まあ気持ちはわからなくはないけどね」
ナヴィの質問に、やや呆れたような達観したような
表情でバーレンシア侯爵は返す。
「確かに、こうして神様の御使いまで
同行してくださるのですから―――
並みの神経では持たないかも知れません」
イタズラっぽくバートレットが微笑む。
「アハハ、まあね。
でも、僕の場合はまだ神様の御使いで
良かったかも。
もしフィオナ様―――神様が一緒に来るような
事態になっていたら、それこそお腹どころか
心臓が危なかっただろうし」
「まあ、しょんなに緊張する事もないでしゅよ。
私はあくまで、フィオナ様の母親にお仕えしている
だけの身でしゅので」
│ ■天界市役所・ロビー │
同時刻・天界市役所の受付ロビー。
そこのソファに腰掛ける、男女が一組―――
「んっふっふ、なかなか有意義な話し合い
だったわね。
『至急、上の者と相談します』とか口走ってたし、
ナヴィが神様に昇格するまで、あと一押しか二押し
ってところかしら?」
「あんまり職員をイジめちゃダメだよ、ママ……
まあ、ナヴィと離れたらフィオナも寂しがる
だろうし、出来るならこのまま神様になるのが
望ましくはあるんだけど」
そう言うとユニシスとアルフリーダは、手にした
紙コップに口を付けた。
│ ■ミイト国行き馬車 車中 │
「―――ハッ」
「どうかされましたか? ナヴィ様」
突然、声と共に大きく目を見開いたナヴィに、
ポーラが声をかける。
「……いえ、何か今、盛大なフラグが立てられた
気がしましゅて」
「……? ふらぐ?」
「???」
女性2人がその言葉の意味を模索し―――
それが他の男性2名にも伝わったのか、
馬車の中の4人は顔を見合わせた。
│ ■ミイト国 │
│ ■シンデリン(トーリ)家屋敷 │
「んんんんん~……」
同じ頃―――
ミイト国の自分の屋敷の中で、シンデリンは
眉間にシワを寄せて考え込んでいた。
「どうかされましたか、お嬢様?
だからあれほど道に落ちている物は
洗ってから食べるようにと……」
「食べないわよ!
それ以前に拾わないし洗わないわよ
そんなモン!」
従者である少年の問いに吠えるように
応える主人。
そんな彼女に対し、ネーブルは涼し気に
会話を続ける。
「何をそんなに悩んでおいでなのですか?
確か今日、お見合い相手が来られるんですよね。
それなのに―――」
「それだから困っているのよ。
勝手に仕組まれたものだけど、私も『枠外の者』
の一員である以上、責任はあるし……
どういう理由で断ったものかしら。
どこかに恋人役の異性でもいれば
いいんだけどー(チラッチラッ)」
露骨に彼の方へ視線を泳がせるシンデリンに、
ネーブルは目を閉じる。
「……お嬢様、相手は侯爵様と伺っております。
いくら国力が違うとはいえ、貴族は貴族です。
断るための当て馬に平民など用意して―――
それがバレたらどうなるか、ご理解して
おられますか?」
従者の回答に、シンデリンは不満そうに
頬をふくらませる。
「私だって平民だしー。
じゃあ今日そのまま結婚なんてどう?」
「どうして夕食を何にするかみたいなノリで
決めるんですか」
「まぁそうね。
最初は友達からって事で」
「(この人つえーなあ)」
言葉には出さず、そして表情は崩さず―――
微妙な空気が流れる中、第三者の声がそれを変えた。
「……話は……聞かせてもらった……」
いつの間にかそこには、ネーブルより3才ほど
年下の―――
10才を少しも過ぎていない、幼い外見で、
身長と同じくらいの長髪を備えた少女が立っていた。
少しふっくらとした頬、卵型の顔は年相応の
それで、しかし雰囲気は無表情ともいえる
人形のような無機質さを感じさせる。
「ベ、ベルちゃん!?
いつからここに?」
「……ベルティーユ様。
いつの間においでなされたのですか?」
主従2人の問いかけに、ベルティーユと呼ばれた少女は
ゆっくりと口を開く。
「……私の……感知範囲に……
純情可憐な乙女の悩みが……
引っかかった……から……」
「あ、じゃあ人違いです」
「待てやコラ」
速攻で否定するネーブルに、シンデリンはすかさず
ツッコミを入れる。
「……姉さまもネーブルお兄ちゃんも、相変わらず……
……それで、どうしたいの?
断りたい……?」
「もともと私が望んだ事じゃないのよ。
何かいい方法でもあるの?
ベルちゃん」
「……断る……つまり……
一服、盛る……?」
妹の言葉に、さすがに姉は顔色を変える。
「いきなり排除(物理)の方向で考えているたぁ
愛しているぜ妹よ」
「何を言っているんですか!
ベルティーユ様!」
続いて、すかさず従者の少年が抗議の声を上げる。
「……ん……命に別状はないのを使うから……」
「そういう問題じゃなくてね?」
「そうですよ!
何もわかっていらっしゃらない!」
従者のツッコミを主人は応援する。
「おお、さすがは私の従者!
ちゃんと妹にわからせてあげなさい!」
そして返ってきた言葉は―――
「いいですか、ベルティーユ様!
それはお見合いを延期させるだけです!
きちんと台無しにしませんと」
「……ん……
確かにそう……反省する……
……もっと他の手を考えないと……」
「え? 何このコたち?
天使成分どこに置いてきちゃったの?」
そしてそのままシンデリンは―――
完全な傍観者となり、テーブルの上に突っ伏した。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2747名―――