15・心を一つにして
1週間ぶりの更新です。
何か一瞬だけ瞬間最大風速みたいに
PV数が上がる時間が時々あるのは
何だろう?(;゜∀゜)
日本・とある都心のマンションの一室―――
豊穣の女神・フィオナと、家では珍しく人間Verに
なっているお目付け役・ナヴィがくつろいでいた。
不意にうつ伏せになっていた少女が、手元の
スマホに向かって大きな声を上げる。
「は? え? このタイミングで新キャラ投入
しますかフツー!?
これは何としてでも手に入れねば!
しかし、今月のお小遣いはもう……!」
「どれだけ使っているんでしゅか。
この前、家賃まで引き落とし出来なかった
事態になりましゅたよね?(3章11話)。
今度はユニシス様にも報告しましゅよ?
こっち方面だと、アルフリーダ様は甘々
でしゅので……」
アルフリーダは娘・フィオナとほぼ趣味が
一致しているので、課金が多少行き過ぎても
許してしまう事から、父であるユニシスにも
連絡が行くようになっていた。
「わ、わかってますって!
さすがに前のような事はしません。
はぁ~あ、アタシもお金稼げればなあ。
あっちではアルプを始めとして、ちゃんと
経済活動しているっていうのに……」
「あれは『枠外の者』に対抗するためでしゅ。
フィオナ様のような、純度100%の
私利私欲ではないでしゅよ。
だいいち、あちらでどうやってお金を得る
つもりでしゅか?」
お目付け役の言葉に、女神はふと目を閉じて
考え―――
「えーと、異世界に転生したり転移した
勇者で言うと……何かしら。
RPGの勇者とかだと、敵を倒して金品を奪い、
その上で奴隷にして働かせて」
「お前の勇者のイメージどうなっているんでしゅか。
ていうか何でしゅかその犯罪者思考は」
「あれ? アタシの常識に間違いが?」
「人、しょれを非常識というでしゅ。
しょれではそろそろ本編スタートするでしゅよ」
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
「んん~……まあ、事情はわかったけど」
頭をボリボリとかきながら、力無い返事を
バーレンシア侯爵は口にした。
あの後―――
起きてきた彼に対し、みんなで話し合った
提案をした。
・いざという時に断る口実として恋人がいた事にする。
・その恋人として、ナヴィが同行する。
前者はすんなりと受け入れてくれたものの、
後者に関しては意味がわからない、と混乱し……
さらに女性陣の説得により、
『例え仮の話とはいえ、
女神様を偽の婚約者として使うのは恐れ多い』
『ナヴィ様は男であるので、最初から仮の話として
理解して頂ける』
という理由で納得してもらったのである。
「す、すいませんっ。
勝手に決めてしまって」
アルプが頭を下げると、それにつられて他の
男性陣も頭を下げる。ナヴィを除いて―――
「いや、構わないよ。
むしろ考えておかないとダメな事だったし。
それで、その―――
ナヴィ様も女神様も、お姿が見えないんだけど」
きょろきょろと辺りを見回すバーレンシア侯爵に、
同じ貴族のバートレットが応える。
「さすがに、ナヴィ様にそのままのお姿で
婚約者としてミイト国に行って頂く事は
出来ませんので……
フィオナ様やマルゴットたち女性陣に
お任せしているのですが」
誰からともなく、彼らが去っていった先に
視線を向けると―――
それに応えるかのように、扉が開かれた。
そして―――『婚約者役』が姿を現す。
高級そうだが、決して派手ではなく―――
白金を基調とした装飾品に、薄い灰色に近い
光沢を称えたドレスに身を纏って。
「おお、それは……!」
まずローン・ボガッドが、感嘆の声で彼を出迎えた。
「私の若い頃の物です。
一度ソニアさんにも着てもらった事がありますが、
身長も少し届かないくらいでしたので―――」
「ええ、お義母様のお見立てとおりです。
しかし、お化粧もろくにしていないのに、
この美貌……」
クレアとソニアがため息をつきながら、
衣装について説明する。
そして、新たな眷属となった女性の妹が悔しそうに
うなっていた。
「ぬうぅうう……ポーラ姉さま。
この程度では全力を出し切っていませんわ。
以前のメイド服もそうでしたが(3章12話参照)、
まだまだ魅力を攻め切っていません……!」
「というか、いつの間に現れたのでしゅか
メイさんは」
しれっと混ざる彼女にナヴィは疑問の目を向ける。
「美少年の女装案件とくれば……
何人も我から逃れる事かなわぬ……!」
「それでこそ我が妹です」
姉妹はそれを肯定的に応え、それを
情報屋と貴族が呆れ気味に賞賛する。
「いやホント、音もなく気配も感じさせず、
普通にナヴィ様の着替え途中からいたぜ、この人。
その潜入スキル、分けて欲しいくらいだ」
「……私も侵入に全く気付きませんでした。
いくら敵意が無かったとはいえ―――」
そして、当事者であるバーレンシア侯爵が、
驚愕と共に感謝の言葉を告げた。
「ここまで尽力して頂き、まずは礼を言います。
しかし、その……
ナヴィ様、ですよね?
女性から見ても、男と見破られる事はまず
無いでしょうが―――
落ち着いておられるというか、堂々とされていて」
「まるで当然のように―――
平然としてらっしゃいましたから」
「なんつーか女装した美少年、というより……
男装の麗人といった方が近いかな」
マルゴットとミモザが、バーレンシア侯爵の感想に
同調する。
「そういえばポーラさん、メイさんからも
聞いた事がありますが……
前に一度、女性の格好をさせても
一切動揺しなかったとか。
さすがはフィオナ様の付き人です。
この程度で精神が揺らぐ事は無いのですね」
アルプの賛美に、女神であるフィオナは自慢げに返す。
「まあ、何と言ってもアタシの付き人ですからね!」
鼻息荒く自信満々で語るフィオナに、ナヴィは
心の中で彼女に語り掛ける。
「(実際のところ―――
自分は元猫であるのと、こういう事はすでに
アルフリーダ様の下でさんざん経験済みだから
ですがホントにもう母子揃って)」
「(い、いえそれは……
今のところ黙ってて頂けると嬉しいなと思う
次第であります)」
女神とお目付け役にしかわからない連絡が
終わった後―――
改めてナヴィが口を開く。
「ふみゅ。しかしでしゅね―――
今回、ポーラしゃんを新たに眷属にしたのは、
女性の必要性を感じたからのはずでしゅが。
またこういう事になってしまい、何といいましゅか」
「あ、あの、それは」
言いよどむポーラに、初めての眷属が助け船のように
ナヴィに語る。
「……確かに、潜入する場合であれば、
僕やファジー君の変装はいつか正体が
明かされる危険がありました。
でも、今回は潜入ではありませんし―――
さらに『正体を突き止める事が不可能』な
人物として行くのですから。
ポーラさんが付き人としてナヴィ様と同行すれば、
下手に他の人も近付けないでしょうし」
「ナヴィ様だったら、そのまま潜入捜査まで
出来そうだけどな」
「まあ、そんなものでしゅか」
情報屋であるミモザがアルプの言葉に付けたし、
その感想をナヴィが述べ―――
ようやく落ち着いた雰囲気が部屋の中に戻ってきた。
「それで、どうしますかの?
バーレンシア侯爵様。
準備が出来ておられるのでしたら、
すぐにでも馬車を呼びますが」
「そうだね。日数的にギリギリってわけじゃないけど、
向こうについてからの準備もあるだろうし……
えっと……じゃあ、ビューワー君にグラノーラ君、
そしてポーラさんと―――ナヴィ様。
ミイト国までよろしくお願いします」
ローン・ボガッドの呼びかけにバーレンシア侯爵が
応じ―――それが合図であるかのようにミイト国に行く
5人が集う。
同時に、それ以外の面々は、今後の事を確認し合う
かのように話し出す。
「じゃあアタイは―――
ファジーの様子が気になるから、フラールの
アルプさんの果樹園まで戻るよ」
「あ、フィオナ様。
決まった事をファジー君に伝えた方が
いいのでは」
「いいっていいって。
どうせアタイが伝える事になるだろうし。
あ、アタイが戻るって事だけ連絡してもらえると
嬉しいかな」
アルプとミモザの会話を聞いて、フィオナは神託を
繋ぎ―――
姉がそちらへ向かう事を告げた。
「ミモザさん、ファジー君とっても喜んでましたよ。
『はいっ!!』って大きく返事してましたから」
「そ、そう……ふへへへへへへ♪」
フィオナの言葉に、だらしない表情と声でミモザが
応える。
そして、アルプの母親も参加してきた。
「じゃあ、アルプ。
私もミモザさんと一緒に、果樹園に戻りますから。
きちんとお義父様、お義母様の言う事を
聞くんですよ」
「大丈夫よ、ソニアさん。
アルプちゃんは素直な良い子ですから―――」
「わしらに安心して預けてくれ」
老夫婦にペコリとお辞儀するソニア。
そこへ、マルゴットがフラール行き組の2人へ
乗り物の指示を出す。
「ミモザさん、ソニアさん―――
帰りはウチの馬車でそのままお戻りください」
「へ? あの、ミイト国に行くのは?」
「それは先ほどわしが呼ぶと言ったじゃろう。
それに、女性2人を歩いて帰らせる事など
出来んよ」
きょとんとした声を上げるミモザに、初老の商人は
事もなげに応える。
「あと、ソニアさん。
今、果樹園には私の屋敷から何人か応援が
行っておりますので……」
「いつもの方たち、ですよね?
助かっております」
そして、各々(おのおの)の準備や支度、連絡や言伝を済ませると、
各自荷物を馬車へ運び入れ―――
ミイト国出発組が先発するので、見送るために
屋敷の玄関口であいさつする事になった。
「何から何まですまないねえ」
「何の。可愛い孫によくしてもらったお返しじゃよ」
バーレンシア侯爵のお礼に、ローンは微笑みで返す。
「それじゃあ行ってくるよ。
どう転ぶかわからないけど―――
『枠外の者』については、僕も思うところが
あるしね」
「決してフィオナ様の期待を裏切らない事を
約束します」
貴族2名が応え、それに女性2名が続く。
「眷属として初仕事、頑張ってまいりますっ」
「吉報をお待ちくださいませ、フィオナ様。
私たち、心を一つにして成果を持ち帰ります」
次々に馬車に乗り込む面々を見送り、フィオナも
声をかけた。
「アルプのお世話は―――」
「アタシに」
「私に」
「任せてくださいっ!」
「お任せくださいっ!」
ハモるようにセリフが重なり、その声の主である
メイと女神は目を合わせる。
そのまま馬車はゴトゴトと進んでいき、視界から
外れた後、フィオナの方から言葉を発する。
「……メイさん、どうしてまだいるんですか?
ナヴィはすでにおりませんけど?」
「いえ、アルプ君のお世話というお話を
聞きましたので、微力ながらお力に
なれればと」
「それなら大丈夫ですよ?
アタシ一人で十分ですし―――」
「いえ、女神様はお世話される方ですよね?
それなら私がいた方が―――」
その2名の少女の間でアルプはオロオロと困惑し、
その母と義理の老夫婦、そして情報屋の少女は
それを温かい微笑で見つめていた。
│ ■ミイト国行き馬車 車中 │
「……ふみゅ?」
「?? どうかされましたか、ナヴィ様」
何かの気配を感じ取ったナヴィは、思わず顔を上げ、
それにマルゴットも反応する。
「……いえ、何か、心を一つにして争いが始まった
気がしましゅて」
「??」
理解出来ない疑問を乗せたまま―――
馬車はミイト国へと向かった。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2741名―――